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安井行生のオフロード新連載スタート|僕たちはどう曲がるか#1

これまでロードバイクで舗装路をメインに楽しんできた自転車ジャーナリストの安井行生。2年ほど前にオフロード走行に突如目覚め、すでに2台目のグラベルロードを入手、日々オフロードを楽しんでいる。しかし、悩みが一つあるという。「未舗装路での曲がり方が分からない」ことだ。そこで、この新連載「僕たちはどう曲がるか」では、オフロードの達人を指南役に迎え、グラベルでのコーナリングを体系的に学ぶ。果たして安井はオフロードで曲がれるようになるのか?第一回はこの連載を始めるきっかけについて。

ストラーデビアンケの衝撃

Photo:Cannondale Japan

これまで舗装路一筋だった。

初めて買ったスポーツバイクはフルサスMTBだし、学生時代の自転車旅の相棒もハードテールのMTBだったが、それらはオフロードを楽しむためではなく、メカメカしくてかっこいいから、もしくは安価で頑丈で荷物がたくさん積めるから、という車両コンセプトからはややずれた理由によるものだった。

この仕事を始め、試乗やイベントで散発的にオフロードを走る機会はあったが、高性能ロードバイクが綺麗なアスファルトの上を疾走する魅力に取りつかれていた僕は、プライベートでわざわざ悪路を選んで走ろうとは思わなかった。

2013年のことだったと思う。キャノンデールの新型シナプスのプレスローンチでイタリアのトスカーナに行った。まだグラベルロードという言葉すら存在しない時代だが、太めのタイヤが入るエンデュランスロードということで、試乗コースにあのストラーデビアンケが組み込まれていた。

伝説の道を走れる!と興奮したはいいものの、実際に乗り入れると恐怖でしかなかった。特にコーナー。オフロードのノウハウは全くないものだから、タイヤが滑ることに慣れていない。どこまでバイクを倒していいのかも分からぬまま、へっぴり腰で走り屋揃いの海外ジャーナリスト達に必死で付いていく。

Photo:Cannondale Japan

そうして砂利で覆われた下りの左コーナーを、おっかなびっくり走っていたときのことだ。

フロントもリヤもずるっずるっと断続的に滑っている。舵角一定にしていてもフロントが砂利に食い込んで進路が乱れる。海外で怪我したらいろいろ面倒だぞ。コケたらページに穴が空くぞ。そんなリストリクター機能も働き、冷や汗だらだらで恐怖の限界コーナリングを遂行する僕の右側を、圧倒的なスピード差で追い抜いていくライダーがいた。試乗会にゲストとして参加していたリクイガス・キャノンデールの選手だった。

機材は同じ。路面も同じ。条件としては完全に同じはずだ。こっちは必死なのに、彼はまるで舗装路を走っているかのようなスピードでするっと曲がり、かっ飛んでいく。

おい、マジかよ。

Photo:Cannondale Japan

同じ物理法則が適用されているとは思えないような、魔法がかけられているかのような、信じられないスピード差だった。彼はそのまま滑るようにワインディングをこなして、あっという間に視界から消えていった。同じことを思ったのだろう、一緒に走っていたアメリカ人ジャーナリストがunbelievable……とつぶやきながら首を振った。

それでもオフロードが怖い

いきなりオフロードにおけるコーナリングの神髄を見せつけられたような体験だったが、そのときのローンチイベントではイタリア人ジャーナリストが下りで落車して大怪我を負うという、こちらもunbelievableなアクシデントを目の当たりにしたこともあり、「オフロードは怖い」という意識が上書きされたのみで、その世界を深く追求しようという気にはならなかった。

2019年にはトップストーンカーボンのローンチイベントで本場アメリカのグラベルを思う存分走らせてもらった。会場となったバーモント州の田舎には、ありとあらゆるところに楽しそうな砂利道がある。玄関を出たらすぐグラベル。右行っても左に行っても極上のグラベル。「ここに住んでりゃ明日にでもグラベルロード買うわ」と思ったものの、日本は道路舗装率80%以上を誇るオンロード大国である。グラベルロードの波が自転車界を急襲していたときだったが、どうしても自分事とは思えなかった。

あの「魔法のオフロードコーナリング@ストラーデビアンケ」から10年後。とある仕事で多摩川のグラベルを走らせてもらったら、なぜかあっさりはまってしまった。いつも自分が走っている多摩サイの数十m横にこんな面白い世界があったのか、と驚いた。ここで初めてオフロードが自分事になったのだった。

すぐにディスクブレーキ仕様の中古シクロクロスバイクを買ってグラベルの世界にのめり込んだ。多摩サイグラベルでは物足りなくなり、近所の里山を開拓した。ニセコグラベルで北海道のオフロードも楽しんだ。もっと太いタイヤを履きたくなり、3Tのエアログラベルロードを増車した。グラベルのコミュニティに参加し、グラベル仲間も増え、多くの砂利道を知った。

しかし、相変わらずコーナリングが怖い。情けない話だが、どう曲がればいいか分からない。なにせ舗装路ではグリップ走行が基本である。微視的に見れば舗装路でも旋回中にはスリップアングルが付いてタイヤは滑っているのだが、ずるずると大きく滑ることが前提のオフロードのコーナリングとは別物だ。ここまで「滑らせないコーナリング」しかやってこなかった者にとって、オフロードで曲がることは恐怖でしかない。

しかも、オフロードは路面状況が刻々と変わる。砂利道なら石の大きさによって、土だったら地質や水分量の多少によって、摩擦係数(μ)が激変する。当然グリップも変わる。一つのコーナーの中で路面のμがころころ変わることなんてザラだ。さらに、轍や根っこや岩がタイヤをあらぬ方向に蹴とばす。オフロードでは左右方向に加え上下方向の動きが加わる。動きが二次元から三次元になるわけだ。ロードバイクではこんなことは起きない。

分からないことだらけだった。急変する路面をどう判断してどう対処すればいいのか。タイヤが突然ブレイクしたときのリカバリー方法は。ブレーキは?荷重バランスは?タイヤサイズと空気圧は?ロードバイクとポジションは変えるべきなのか?

乗ってりゃ覚えるのかもしれないし、七転八倒の試行錯誤が上達の極意でもあるのだろうが、学びと正しい理解は上達の近道となり得るはずだ。そんな悩みと想いを山口編集長に話したら、バイシクルクラブのウェブ上に「オフロードにおけるコーナリングを真面目に考える」という連載の場をいただくこととなった。これを機にオフロードコーナリングを体系的に学び、自分なりに追求したいと思う。

なお、ここまで述べてきたように、この連載は企画立案の王道パターンである「読者が知りたいであろうこと」ではなく、「安井個人が知りたいこと」を出発点とするものだ。よって多くの人にヒットする内容ではないかもしれないが、これを掘り下げていけば、オフロードのコーナリングだけでなく、自転車の乗り方を見直すきっかけにもなり得るのではないかと予想する。自転車乗りの乗車技術向上の一助、ひいては愛車との一体化の推進力になれば幸いだ。

 

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PROFILE

安井行生

安井行生

大学卒業後、メッセンジャー生活を経て自転車ジャーナリストに。現在はさまざまな媒体で試乗記事、技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半を自転車につぎ込んできた。

安井行生の記事一覧

大学卒業後、メッセンジャー生活を経て自転車ジャーナリストに。現在はさまざまな媒体で試乗記事、技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半を自転車につぎ込んできた。

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