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JR東海が山梨で初のサイクルトレイン、家族で沿線風景を楽しんでみた

2024年5月26日、山梨県の緑深い景色が広がる身延線に、JR東海による初のサイクルトレインが登場した。この日、地元のサイクリストたちは、自転車を分解することなくそのまま列車に乗り込める「サイクルトレイン」を体験。目的地市川三郷町周辺でのサイクリングを楽しんだ。

快速みのクルで、南甲府から市川大門まで鉄道の旅

今回身延線で運行するのは2種類のサイクルトレインの実証実験。1つは快速みのクルによる「身延線サイクルトレイン」、もう1つは「特急ふじかわ」によるものだ。ここでは南甲府駅から市川大門駅までの快速みのクル2号で市川大門駅まで、編集長山口が息子2人とともにサイクルトレインを体験したレポートをお届けする。

1928年(昭和3年)に建てられた南甲府駅駅舎前にサイクルトレインの搭乗者が集合した

この日のイベントは、一般参加者に加えNPO法人やまなしサイクルプロジェクトと一般社団法人南アルプス山守人のメンバーも参加し、多様な自転車愛好家がサイクルトレインを体験、自転車を通じて新たな地域との出会いを楽しんだ。この日限りの実証実験のため申し込みはJR東海 MARKET 静岡支社ホームページにて行われ、乗車券を購入すれば自転車を乗せることに対して追加料金は不要だ。

南甲府駅の改札を抜け駅構内にある踏切を渡ってホームへ上がると、サイクルトレイン「快速みのクル」がホームに待っていた。それぞれ降りる駅に合わせて乗車する車両へ案内されると、自転車を固定するためのバンドが配られた。係員の説明を受けた後、関係者や参加者家族が見送るなか南甲府駅始発の「快速みのクル2号」が9:03に走り出した。

車両はロングシートの3扉車両、乗降する駅ごとに3両に分かれて乗車した。はじめての押しボタン式の扉に興味津々の息子
ベルクロを使って手すりに自転車を固定した

サイクルトレインを楽しんでいると30分ほどで市川大門へ

やまなしサイクルプロジェクトの青木茂樹さん(左)とエース栗原さん(右)

サイクリストを歓迎する臨時列車のアナウンスが車内に流れるなか、車窓には八ヶ岳や南アルプスの山々と緑豊かな風景が広がる。そして荒川の鉄橋を渡ると国母駅に到着、ここでも新たなサイクリストが乗車してきた。

続く停車駅、市川本町駅では南アルプス山守人のメンバーが下車、トレイルをMTBで走るツアーに出かけていった。車内では記念撮影や談笑を楽しんでいるとあっという間に列車は市川大門駅に到着した。

やまなしサイクルプロジェクトのメンバーは終着駅の市川大門まで乗車、今中大介さんやエース栗原さんなど地元のメンバーとともにサイクルトレインの雰囲気を楽しんだ。

南アルプス山守人のメンバーは市川本町駅で下車し、市川三郷町のトレイルを走った

駅前マルシェがお出迎え、紙漉きを体験

到着した市川大門駅前にはロータリーでの駅前マルシェは、地域の交流と地場産品の展示が行われるなど歓迎ムードのなか駅前広場へ向かった。

今回のサイクルトレインの運行は、参加者にとってただの移動手段ではなく、地域の自然と文化を体験するイベントとなった。屋台のグルメのほか紙漉きも体験できる屋台、さらに地元のeMTB体験もできた。特に今回、はじめて市川大門を訪れた息子たちは、自転車だけではなく地元の文化を体験できるイベントになった。

市川手漉き和紙夢工房による紙漉き体験。市川三郷町は平安時代から続く紙の産地で、お米を原料に使う和紙は美人の素肌のように美しいことから「肌吉紙」と呼ばれていたという
紙漉き体験でははがき3枚を漉くことができ、持ち帰って乾かすと完成
南アルプス山守人メンバーによるeバイク体験。最新のeMTBを試乗体験できた

特急ふじかわで静岡から市川大門へ移動

南甲府駅からの「みのクル」とは別に「特急ふじかわ」を利用したサイクルトレインも運行された。駅周辺のサイクリングや駅前マルシェを楽しんでいると静岡駅を9:45に出発した「特急ふじかわ」が11:43に市川大門駅へ到着した。

「特急ふじかわ」では「みのクル」とは違う積載方法となった。自転車を専用のカバーに収納するという小さな手間を加えるだけで乗車可能になった。中にはeMTBを乗せて参加者もいたが、重量が重く、さらに機構的に分解しづらく、車に載せることも難しかったりする。そこで簡単に鉄道に載せられるサイクルトレインとeMTBを組み合わせることで行動範囲がより広がるのだ。こうしたeバイクユーザーにとってもサイクルトレインは新たな可能性を感じられる取り組みとなった。

特急ふじかわでは自転車を専用の青い袋に解体しないまま入れ、座席にたてかけゴムで固定する方式が採用された。写真提供 JR東海

甲府盆地の風景が楽しめる身延線沿線

今回、サイクルトレインで移動した市川大門周辺を息子たちとサイクリングしてみた。息子たちは父から譲られたお古のロードバイクにこそ乗ってはいるが、普段は家の近所くらいしか走っていない。今回はサイクルトレインということで興味をもってついてきてくれた。

身延線に沿って、甲斐上野駅方面まで走ってみた。笛吹川の河岸段丘の上には歌舞伎文化公園などがあり、甲府盆地を見下ろせる景観が楽しめるほか、普段都会では味わえない風景が待っていた。

「畑のなかの一本道すげ~」

息子たちが喜んだのはトウモロコシ畑の中の道だった。聞けば山梨はトウモロコシ「甘々娘(かんかんむすめ)」の産地、身延線沿線ならどこにでもあるような風景かもしれないが、思い出に残る風景とはそんなものなのかもしれない。

ちなみに南甲府駅から市川大門駅までは15㎞ほどのコース、アップダウンもなく慣れたサイクリストにとってはどうってことはない距離だが、息子によるとそれでも長く感じるらしい。さらに南甲府駅に近づくと交通量も多く、正直走りづらい道になる。

サイクルトレインを使えば、こうした都市部の道路を走らずに安全で、さらに同じ道を往復しないで済むのでサイクリングの楽しみも広げることができる。また身延線沿線には果樹園も多く、ももやぶどうなど季節に合わせてまた訪れたくなるエリアだ。

今後のJR東海のサイクルトレインについて

身延線サイクルトレインの実証実験を担当したJR東海静岡支社の下村新さんに話を聞いてみたが、いままでJR東海では紀勢線でのサイクルトレインの事例はあったが、静岡地区では初めての試みとなるのだという。

今回の臨時での運行理由は?

通常、身延線の普通列車は大半が2両編成で運行しています。今回は身延線初のサイクルトレインであり、安全の確保と、お客様のご利用状況の検証を目的として、臨時列車として運行しました。
また、お客様のご利用動向の検証という観点では、NPO法人やまなしサイクルプロジェクトと一般社団法人南アルプス山守人の団体の皆様にイベントを開催していただき、団体としてご乗車いただいたほか、沿線自治体の皆様や一般のお客様にもご乗車いただきました。
なお、自転車を固定していただく必要があるため、事前予約制としました。

今後のサイクルトレインの展望について

現時点では未定です。ただ今回、試行錯誤してサイクルトレインを運行したところ、私たちの想定以上に皆様に喜んでいただきましたし、地域との連携に関して様々なアイデアもいただきました。
今後は、自治体やサイクル団体の皆様のご要望を踏まえて、サイクルトレインだけでなく地域の皆様と身延線沿線を活性化する企画を検討していきたいと考えています。

やまなしサイクルプロジェクトの今中大介さん(左)、JR東海、静岡支社の下村新さん 写真提供:JR東海

富士山麓を楽しむサイクリングルートになる可能性も

今回、JR東海としては身延線のサイクルトレインでは通常2両編成のところを3両編成で運行、車内スペースに余裕を持たせた。そして、地元からの要望や需要があれば今後も考えていきたいということだろう。

やまなしサイクルプロジェクトの青木茂樹理事長の話では「いままでサイクルトレインの導入をJR東海や自治体に呼びかけてきましたがなかなか実現してきませんでした、今回はJR東海と自治体とが手を組んで実行できたことは大きな一歩だと思います」という。

また、南アルプス山守人弭間亮代表の話では「MTBやファミリーが多かったことが新たなサイクルトレインの可能性を開拓できたのではないかと思っております。サイクルトレインで市川三郷町で下車したあとはみんなで市川三郷町のトレイルやフィールドをMTBで楽しむことができました」と今回の実証実験に好感触を得た感じだ。

今回の実証実験の参加者はおもに自転車愛好家が中心だったが、今後は地域との結びつきを強化することで、サイクリングを通じた地元のレクリエーション、さらにサイクルツーリズムとしての新たな提案としての期待がかかる。

特に身延線は富士山の山麓を走るため、富士五湖周辺と自転車で結べは新たなルートにもなる。さらに身延線沿いには笛吹川と釜無川が合流してできる富士川が流れており、駿河湾へつながっている。こうした富士山麓の広域のサイクリングルートへも発展する可能性もあり、今後のサイクルトレインを使った取り組みに注目していきたい。

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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