新型マドンSLRデビュー! 二兎を追ったトレック、それは半端か万能か Part.2
安井行生
- 2024年06月29日
新型マドンがデビュー、しかもエモンダと統合され万能モデルになるという注目モデルだ。前回に引き続きPart.2では来日したトレック本社スタッフ、ジョーダン・ロージン氏のインタビューを通して新型マドンを解剖し、試乗した安井行生が評価を下す。
Part.1の記事はコチラ
富士ヒルクライムをNEWマドンで上ったジョーダン・ロージン
トレックのアメリカ本社にてロードバイクのディレクターを務めるジョーダン・ロージン氏。2008年にトレックに入社し、ボントレガーのホイールを担当したり、トレックがサポートするチームのリエゾンを務めたりと、多方面で活躍。2013年にはプロダクトのテクニカルディレクターとなり、2017年からは現職であるロードバイクのディレクターに。今回の発表にあたって来日し、実はデビュー前の新型マドンで富士ヒルを走っている。
バランスを高めるにはISOフローが必要だった
Q:先代マドンのデビューからたった2年でのモデルチェンジ。早くないですか?
A:今回の開発は3年半ほど前にスタートしたんですが、そのときはエモンダのニューモデルになる予定だったんです。エモンダをもっと速く、かつ軽くするにはどうすればいいのかをCFDやFEAなどのシミュレーションを繰り返し検討した結果、新しいチューブ形状が完成し性能の最適化を行うことができました。しかしその結果、7代目マドンとの差が非常に小さくなってしまったんです。「ならばもう統合させてしまおう」ということで、新型マドンが出来上がりました。モデル名はマドンですが、これはエモンダのモデルチェンジでもあるんです。
Q:今回は、ホイールやボトルを含めたフルシステムフォイルという空力アプローチが特徴ですが、専用のエアロボトルなどは他社がすでに採用している技術ですよね。
A:今までも専用エアロボトルのアイディアはあり、検討は続けていたんです。しかし、実際のユーザーの使い勝手や、レースの際の利便性を考慮して、通常の円形ボトルを使用していました。新型マドンでは通常のボトルも使えるボトルケージを開発し採用したので、専用エアロボトルを使えることになったんです。
Q:7代目マドンの特徴であるISOフローは、新型でも継続採用されましたね。そもそも、ISOフローの意図とは?快適性?空力?どうやって思い付いたんでしょう?
A:空力、快適性、軽さという3つの要素のバランスを重視した結果の構造です。ISOフローが誕生するまで何百というシミュレーションを繰り返し、25~30ほどの試作品を作って検討し、完成した形状です。新型マドンの開発では、あらためてISOフローが本当に必要なのかを検討しました。その結果、やはり3つの要素のバランスをとるにはISOフローが最適だという結論に至ったんです。
Q:ISOフローの空力がいい理由は?
A:高速で走行していると、ライダーの後ろに負圧エリアができてしまいます。ISOフローの穴によってそこに空気を送り込むことで、負圧エリアがライダーを後ろ側に引っ張る力を軽減させるんです。
Q:では、今までのエアロロードが「いかにフレームが空気を切り裂くか」という方向性だったのに対し、ISOフローは人間込みで空気抵抗を減らすという方向にシフトしていったということですか?
A:そうですね。これまでも、トレックはライダー込みでの空力性能を考えてきました。トライアスロンバイクでは、ボトルをライダーの背後に配置するなど、負圧ゾーンを使って空気抵抗を削減する試みもしています。しかし、負圧エリアに空気を吹き込んで空気抵抗を削減するというアプローチは7代目マドンが初めてです。
これからもバランスを追求していく
Q:ヨー角が何度のときの空力を重視するかで、空力設計は大きく変わります。横風が何度かはもちろん、想定する速度によってもヨー角は変わりますよね。新型マドンはどのくらいのヨー角を重視して設計されているんでしょう?
A:現実のロードレースの世界でどのくらいのヨー角がもっとも多く発生するかを考慮して設計を行いました。おっしゃるとおり、風向きはもちろん、ライダーの速度によってもヨー角は変わります。速くなればなるほどヨー角は小さくなりますからね。ロードバイクで多く発生するヨー角は5~15度となるため、その範囲内で平均して空気抵抗が小さくなるよう配慮しています。
Q:では、今後のロードバイクの空力設計の方向性は? セーリングエフェクトとか?
A:ロードバイクにおいて空力が最も重視すべき性能であることに変わりはないでしょう。だから、これからも空力性能と重量・ライドフィールとのバランスを追求していくことになるでしょう。今回の新型マドンは、「先代マドンと同等の空力性能」と謳ってはいますが、厳密に言えば、わずかに先代のほうが優れているんです。しかし、新型マドンは先代より320gもの軽量化を果たしました。このように、各性能をいかに高い次元でバランスさせるか。あらゆるライダーをあらゆる状況で、どうすれば速く走らせてあげられるか。それが今後のロードバイクの開発の方向性でしょう。
Q:突出型ではなくバランスを追求するということですね。バランスといえば快適性も大切ですが、将来的にドマーネまで統合する可能性は?
A:今回、空力と軽さを融合させた新型マドンを完成させたことで、これまでのマドンとエモンダのユーザーをカバーできました。一方、快適性重視のドマーネは、タイヤクリアランスやジオメトリや快適性向上システムなど、特性がマドンやエモンダとは大きく異なります。このような快適性を求められているユーザーさんは確実に存在するので、ドマーネはこの方向のまま継続します。ただ、ニッチで尖ったプロダクトを数多く作るよりも、できるだけシンプル化しつつ、一台で多くのユーザーを満足させるモデルをこれからも開発していきます。
- BRAND :
- Bicycle Club
- CREDIT :
- 編集/撮影◎バイシクルクラブ編集部
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