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新型マドンSLRデビュー! 二兎を追ったトレック、それは半端か万能か Part.3

新型マドンがデビュー、しかもエモンダと統合され万能モデルになるという注目モデルだ。トレック本社スタッフ、ジョーダン・ロージンさんのインタビューに引き続きPart.3では自転車ジャーナリストの安井行生が評価を下す。

▼Part.1の記事はコチラ
新型マドンSLRデビュー! 二兎を追ったトレック、それは半端か万能か Part.1

新型マドンSLRデビュー! 二兎を追ったトレック、それは半端か万能か Part.1

2024年06月28日

▼Part.2の記事はコチラ
新型マドンSLRデビュー! 二兎を追ったトレック、それは半端か万能か Part.2

新型マドンSLRデビュー! 二兎を追ったトレック、それは半端か万能か Part.2

2024年06月29日

融通が効くハンドルまわり

提供された試乗車はマドンSLR 9 AXS、ぴったり200万円の最上位モデル。ホイールはボントレガー・アイオロスRSL51で、タイヤはピレリ・Pゼロレースの28C。フレームサイズは筆者に最適なSである。

試乗車が自宅に届いたのは、正式デビューの一カ月近くも前のことだった。しかも、よりによって誰が見たって一目でそれと分かるド派手なチームカラー。ウェブ上でティーザー的に新型の写真が出回り始めていたとはいえ、人目につかないところで乗ったほうがいいのか? などと気をもんだが、「ジョーダンさんも富士ヒルで乗ってたんだし」と開き直って、練習仲間を誘っていつものホームコースで白昼堂々乗ることにした。

一体型の専用エアロハンドルじゃないと人権なしという雰囲気のハイエンドロードバイク界、中にはケーブルルーティングをやり直さないとハンドル高の調整ができないものもあるが、トレックのハンドルまわりの設計はいつも融通が効く。専用スペーサーを抜いて、ステムの上に普通の丸スペーサーを積めば容易にハンドルが下げられるのだ。

一般ユーザーも乗ることになる試乗車は、ハンドルがやや高めにセットされているのが常。自分に合わせてハンドルをドン突きまで下げる。別売の「RCSユニバーサル」というパーツを使えば通常のステムも使用可能となるらしい。
いくら技術が進化しようが、空力の重要度が高まろうが、人間の体はたかが数年や数十年で変わるわけがない。空力を重視しつつ、ポジション自由度もできるだけ犠牲にしないというこの方向性は絶対的に正しい。

剛性感の変化

ダンシングで長い緩斜面を上り始めると、剛性感が先代とは変わっていることに気付く。これまでのトレックのロードバイクは、マドンにしろエモンダにしろドマーネにしろ、独特の剛性感を持っていた。「滑らかなペダリング」と「ハイレベルなトラクション」という矛盾しやすい性能の両立である。要するに、踏みやすいのに速い、というペダリングフィールだ。

新型マドンの剛性は、そんな先代マドンより明らかに高められている。フレームの変形が少なくなり、低速域でも反応がよくなり、挙動がより俊敏になった。ただ、ガチガチでどうにもこうにもならないというようなものではない。先代のようなしなやかさはないが、レースを視野に入れているライダーなら難なく扱えると思う。

しかし、5~7代目マドンが持っていた、鏡面仕上げになるほど磨き上げられたまろやかな剛性感は、新型では影を潜めた。先代のオーナーは「たった2年で旧型か」と肩を落としているかもしれないが、落胆しなくてよい。あなたのマドンのペダリングフィールの素晴らしさは、たぶん何年経っても色褪せないから。

今までのトレックとは方向性が微変しており、あくまで高負荷域を重視した仕立てとなっているが、新型マドンのコンセプトはあくまで「レーシングバイク」なのだから、最新鋭車としてこの方向性は間違っていない。

実際、高負荷域において新型マドンは速い。上りではラフになりがちなペダリングに対して小気味よく反応してくれるし、平坦では面白いほどスピードが乗る。気をよくしていいペースで先頭を引いていたら、実力が拮抗しているはずの練習仲間が「いつもより速いです」と泣きを入れてきたくらいだ。

万能=半端、半端=万能

28Cで5気圧弱のタイヤを差し引いても、快適性は高い。人はハンドル・サドル・ペダルの3点に伝わってくる振動を総合して快適性を判断しているが、バイクによって各ポイントの快適性のバランスは変わる。ハンドルだけが快適なモデルもあれば、サドル部が突出して柔軟なモデルもある。新型マドンは3点全てで快適性が高い。バランスの取れた仕立てだ。

正直に言えば、先代マドンのような「低速から空力ばりばり効いてる感」はないし、エモンダのような登坂でひらりひらりと舞う軽快感も若干薄いが、バランス型レーシングバイクとしては完成度が非常に高い。「空力を重視しながら軽さも犠牲にせず、パワーアップ著しいプロのペダリングに耐える剛性を持たせる」―― あまりに都合のいいそんなコンセプトを、トレックはしっかりと現実のものにしている。

では、新型マドンは中途半端な存在なのか、素晴らしき万能バイクなのか。

中途半端は万能であり、万能は中途半端である。
これは批判でも忖度でもなく、物理の世界の自明の理だ。
例えば、今回のマドンに採用されたOCLV900を使えば、現行エモンダをもっと軽くすることができるだろう。今回の「フル・フォイル・システム」と専用ボトルを投入すれば、先代マドンの空力性能を向上させることは容易いはずだ。技術とはそういうものであり、物理とはそういうものである。

持てる技術をどう使うか(バランスをとるか、先鋭の世界に進むか)は、メーカーの思想によって変わる。トレックは、各々の性能に特化した2モデルを作り分けてユーザーに倍のコスト負担を強いることはせず、1台にまとめる方向に進んだ。もちろんメーカーとしての経営的判断もあるだろうが、TTなどの特殊な環境を除けば、レーシングロードバイクは、平坦も上りも下りもどんな方向から風が吹いても、暑かろうが寒かろうが、雨が降ろうが灼熱だろうが、あらゆる状況下で「速く走れる自転車」であるべきだ。そういう意味では、新型マドンの方向性は個人的には正しいと思う。

新型「MADONE」の
詳細はこちら

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PROFILE

安井行生

安井行生

大学卒業後、メッセンジャー生活を経て自転車ジャーナリストに。現在はさまざまな媒体で試乗記事、技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半を自転車につぎ込んできた。

安井行生の記事一覧

大学卒業後、メッセンジャー生活を経て自転車ジャーナリストに。現在はさまざまな媒体で試乗記事、技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半を自転車につぎ込んできた。

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