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カヴェンディッシュが通算ステージ優勝記録35勝目! 39歳が執念のメルクス超え|ツール・ド・フランス

ツール・ド・フランス2024第5ステージは、ロードレース史に残る1日となる。平坦にカテゴライズされた177.4kmのレースで、マーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム、イギリス)がステージ優勝。ツールの通算ステージ優勝回数を35とし、ついにエディ・メルクス超え。39歳が15回目の出場で前人未到の記録を打ち立てた。

コース近く出身の2人が逃げる

アルプス山脈を横断するルートでイタリアからフランスへと移ったツール一行。超級山岳ガリビエ峠を越えた第4ステージでは、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)が会心の独走。ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)らに差をつけて、マイヨ・ジョーヌに袖を通した。

続く第5ステージは、2日ぶりの平坦区間。中盤と後半に1カ所ずつ4級山岳が設定されるものの、全体的には下り基調。セオリー通りならばスプリンターによる勝負となる。

© A.S.O./Charly Lopez

リアルスタートからしばらくは逃げらしい逃げは出ず、フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)とオイエル・ラスカノ(モビスター チーム、スペイン)が少しの間先頭を走ったものの、集団へと戻っている。それからはリドル・トレックを中心に集団の統率が行われている。

この日の逃げが決まったのは、スタートから25km地点へ近づこうというタイミング。4人が仕掛けたのを機に活性化した中から、クレマン・リュソ(グルパマ・エフデジ、フランス)が先行。これをマッテオ・ヴェルシェ(トタルエネルジー、フランス)が追って、2人が逃げの態勢を整えた。

© A.S.O./Charly Lopez

先頭の2人はともにコース近くのリヨン出身。集団は最大で4分45秒までリードを容認したのち、少しずつその差を調整し始める。この間、104.6km地点に置かれた4級山岳はリュソが1位通過。また、集団ではマイヨ・ジョーヌのポガチャルがあわや中央分離帯に接触かという危ないシーンも。ただ、ポガチャルの後ろを走っていた選手が数人落車し、その中にはペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)の姿も。いずれの選手も大きなダメージはなく、集団に復帰している。

123.2km地点に設置された中間スプリントポイントは、ヴェルシェが1位通過。ほどなくしてメイン集団もやってきて、マッズ・ピーダスン(リドル・トレック、デンマーク)が先着し全体の3位通過としている。

コース上では雨が降り出し、多くの選手がチームカーへ下がって降雨対応。その間も先頭2人とのタイム差は縮まっていき、結果的に残り36kmで吸収。この流れで到達した2つ目の4級山岳は、山岳賞で首位を走るヨナス・アブラハムセン(ウノエックスモビリティ、ノルウェー)が1位通過している。

© A.S.O./Charly Lopez

出場15回目で待望の新記録達成

一団となった集団は、スプリントに向けて各チームが隊列を編成。残り距離を減らしつつ緊張感が高まっていく。残り10kmを切って本格的にスプリントに向けた主導権争いが始まって、ヴィスマ・リースアバイクやチーム ジェイコ・アルウラーが最前線へ。残り3.5kmからはロット・デスティニーのトレインが前に出て、ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー)が牽引役を担う。

複数のチームがポジションを争うなか、好位置をキープし続けたのがアスタナのトレインだった。カヴェンディッシュのスプリントに向けて態勢を整えると、残り1kmからはカヴェンディッシュみずからマークすべきライバルを選別。トレインを乗り換えながら、加速するタイミングを探った。

残り200m。緩やかな右コーナーを抜けると先頭に立ったのはカヴェンディッシュ。進行方向左側のスプリントラインががら空きと見るや、フリーとなったスペースで急加速。ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)やアレクサンダー・クリストフ(ウノエックスモビリティ、ノルウェー)が追うも届かず。バイク1台分のリードをもったカヴェンディッシュは、勝利を確信し両人差し指を掲げてウイニングセレブレーション。ステージ優勝記録を更新する35勝目の瞬間だ。

© Keita YAMAUCHI

フィニッシュするや祝福の嵐。次々と選手たちが勝利を称えた。この日は家族も観戦に訪れ、栄えのポディウムでは4人の子供たちも一緒に登壇した。

© Keita YAMAUCHI

36勝目はあるか?

カヴェンディッシュがツールに初出場したのが2008年。いきなりステージ4勝と鮮烈なデビューを飾ると、2009年には6勝、2010年は5勝。2011年も5勝を挙げ、ポイント賞のマイヨ・ヴェールに輝いている。2016年には第1ステージを勝ち、マイヨ・ジョーヌにも袖を通した。その後は落車負傷や体調不良にたびたび見舞われ、勝利から遠ざかった時期もあったが、2021年ツールで復活。ステージ4勝を挙げてマイヨ・ヴェールに返り咲くと、エディ・メルクスが持つステージ優勝記録34に並んだ。2023年のジロ・デ・イタリア期間中に同年限りでの現役引退を表明。最後のツールとして臨んだ前回はステージ2位が1回あったものの、第8ステージでの落車で途中リタイアに終わっていた。

予定通りの引退か撤回かが注目された昨オフだったが、チーム首脳陣の説得もあり撤回を決意。このツールを最大目標に調整を進めてきた。

© Keita YAMAUCHI

劇的な記録達成を果たし、この先のステージでは自身の記録をどこまで伸ばせるかのチャレンジへ。そして、キャリアを終える花道になる。

各賞は、マイヨ・ジョーヌがポガチャルで変わらず。マイヨ・ヴェールは、この日中間スプリントで5位、フィニッシュで9位となってポイントを加算させたビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ、エリトリア)が初着用。山岳賞のマイヨ・アポワはアブラハムセン、ヤングライダー賞のマイヨ・ブランはレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)がそれぞれ袖を通している。

翌4日に行う第6ステージも平坦。マコンからディジョンまでの163.5kmに設定される。

ステージ優勝 マーク・カヴェンディッシュ コメント

© Keita YAMAUCHI

「チームはこのツールのために大きな賭けに出ていた。ツールの偉大さを知っているからこそ、思い切ったことをしようと考えたのだと理解している。僕はそれに応えたかったし、それを実現させた。チームとしてどのようにしてビルドアップしていったか、どんな機材をチョイスしたか、その成果が今日の結果で現れた。慣れるまで時間がかかったが、慣れてしまえばかなりの強みになることも分かっていた。

ツール出場は15回目。調子が悪い日があっても、マインド次第で乗り越えられると分かっている。トライし続ければチャンスがあることも分かっている。今日のスプリントはすべてがプラン通りに流れて、チームメートがその場の判断でうまく僕を導いてくれた。どのトレインに乗っても勝てるような感覚があった。フィジカル的には他の選手の方が勝っているかもしれないが、それなら頭を使えば勝てるという証明になったと思う」

個人総合時間賞 タデイ・ポガチャル コメント

© Keita YAMAUCHI

「落ち着いて走っていたつもりが、突然中央から何かが飛び出してきて、周りの選手も急ブレーキをかけて…幸い落車せずに済んだから良かった。平坦ステージではよくあるシチュエーションだから、何も驚いてはいない。今日は気分よく走ることができ、他の選手とも会話ができた。とても楽しかった。

マークの35勝目は超人的だね。フィニッシュ直後にお祝いを言ったら、彼は“僕の記録を破らないでね”と言ってきたんだ。さすがに僕がこの記録を破るのは無理だと思うよ」

ツール・ド・フランス2024 第5ステージ結果

ステージ結果

1 マーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム、イギリス) 4:08’46”
2 ヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)ST
3 アレクサンダー・クリストフ(ウノエックスモビリティ、ノルウェー)
4 アルノー・ドゥリー(ロット・ディステニー、ベルギー)
5 ファビオ・ヤコブセン(dsmフィルメニッヒ・ポストNL、オランダ)
6 パスカル・アッカーマン(イスラエル・プレミアテック、ドイツ)
7 アルノー・デマール(アルケア・B&Bホテルズ、フランス)
8 ヘルベン・テイッセン(アンテルマルシェ・ワンティ、ベルギー)
9 ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ、エリトリア)
10 マライン・ファンデンベルフ(EFエデュケーション・イージーポスト、オランダ)

個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)

1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 23:15’24”
2 レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)+0’45”
3 ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク、デンマーク)+0’50”
4 フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)+1’10”
5 プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ、スロベニア)+1’14”
6 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ、スペイン)+1’16”
7 ミケル・ランダ(スーダル・クイックステップ、スペイン)+1’32”
8 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)ST
9 ジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック、イタリア)+3’20”
10 エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)+3’21”

ポイント賞(マイヨ・ヴェール)

ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ、エリトリア)

山岳賞(マイヨ・アポワ)

ヨナス・アブラハムセン(ウノエックスモビリティ、ノルウェー)

ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)

レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)

チーム総合時間賞

UAEチームエミレーツ 69:49’16

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PROFILE

福光俊介

福光俊介

サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。

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