マイヨ・ジョーヌ候補最右翼“ビッグ4”が頂上決戦 個人TTはレムコが勝つ|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2024年07月06日
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今大会1回目の個人タイムトライアルステージを迎えたツール・ド・フランス。現地7月5日に行われた第7ステージは25.3kmで独走力を競い、個人総合2位でヤングライダー賞のマイヨ・ブランを着るレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)がステージ優勝。ツール初出場で、夢だったというステージ優勝をかなえた。マイヨ・ジョーヌのタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)は12秒差のステージ2位とまとめ、ジャージはキープ。両者の総合タイム差は33秒に縮まっている。
大会前半戦のヤマ場となる個人TT
ここまで6ステージを終えたツール。大会7日目に今大会1回目の個人タイムトライアルステージが設けられた。ニュイ=サン=ジョルジュからジュヴレ=シャンベルタンまでの25.3kmのコースは、中盤にかけて丘越えが控えるが、主催者予想ではTT巧者向き。優勝タイムは29分台になると見られた。
個人総合の下位選手から順にコースへ。個人総合116位の選手までは1分おき、それ以降は1分30秒おきとなり、トップ10の選手たちは2分おきに出発する。全体1番出走は、2日前にステージ優勝記録を更新したマーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム、イギリス)。
ブルゴーニュワインの産地でもある同地域のぶどう畑を縫いながら進んでいく選手たち。まず基準タイムとなったのが、58番スタートのシュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・イージーポスト、スイス)。平均時速を50kmに乗せる30分6秒で走り、しばらくトップに位置した。
主催者予想の29分台に最初に乗せたのが、83番出走のケヴィン・ヴォークラン(アルケア・B&Bホテルズ、フランス)。第2ステージの勝者はタイムトライアルも得意としていて、スタートから快調に飛ばす。フィニッシュタイムは29分44秒で、それまでの水準を一気に高めた。
さらには、97番目に出発したヴィクトル・カンペナールツ(ロット・ディステニー、ベルギー)も快走。後半にかけてペースアップに成功すると、フィニッシュではヴォークランのタイムを100分の76秒更新。以降、長くトップタイムをマークする選手が現れず、個人総合上位陣もこのタイムをターゲットにすることとなった。
レムコが終盤のトラブル乗り切ってステージ優勝
いよいよトップ10ライダーの出番。コースに繰り出すと、軒並みカンペナールツのペースを上回る。後半にペースを落とした選手が多かった中で、今大会のマイヨ・ジョーヌ争いにおける絶対的な存在である4選手が強さを発揮した。
個人総合5位で“ビッグ4”では最初に出走となったプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ、スロベニア)。8.6km地点に設置された第1計測ポイントを9分59秒でクリアすると、14.4km地点に設置される第2計測では18分51秒とどちらも暫定トップタイム。後半も好ペースを維持すると、フィニッシュでは29分25秒。カンペナールツを17秒上回り、この段階でトップに立った。
トップ3もコースへ。ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク、デンマーク)は、第1計測でログリッチを9秒上回ると、第2計測では15秒に広げる。このまま突き進むかと思われたが、後半にかけてペースを上げきれず。フィニッシュでは3秒遅れて、この時点で2位。
個人総合2位のレムコは、戦前からの優勝候補の呼び声に違わず、ライバルの上を行く走り。第1計測で9分39秒を記録すると、第2計測も18分13秒でトップ。19.9km地点の第3計測では28秒差として、このままいけば1番時計は濃厚。ところが残り2.6kmでバイクトラブル。何とか走りながらリカバリーしてスピードを戻すと、再び勢いに乗って28分52秒でフィニッシュ。平均時速52.587kmで走破し、残るポガチャルのフィニッシュを待った。
ポガチャルはスタート直後のコーナーで数回タイヤを滑らせたが、きっちりカバーしてペースアップ。第1計測では3秒差の2番手とすると、第2計測では10秒差。第3計測では差を縮めて6秒まで迫ったが、結果的に12秒差の2番時計。それでもレムコとのギャップを少しにとどめて、マイヨ・ジョーヌのキープは果たした。
これによって、レムコのステージ優勝が確定。ツール初出場で念願だったステージ優勝を達成すると同時に、24歳にしてすべてのグランツールで勝利を挙げた選手となった。
結果的に“ビッグ4”が上位を占める格好に。個人総合トップ10とタイム差に変動が起きて、ポガチャルとレムコとの差は33秒に短縮。ヴィンゲゴーが1分15秒差の3位、4位に順位を上げたログリッチは1分36秒差につける。そのほかでは、フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)が5位に順位を下げ、ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)が2ランク上げて6位に。マッテオ・ヨルゲンソン(ヴィスマ・リースアバイク、アメリカ)やアレクサンドル・ウラソフ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がトップ10圏内に浮上している。
翌6日に行われる第8ステージは、183.4kmの平坦ルート。細かいアップダウンが控えていて、スプリンター陣にとっては一筋縄ではいかないコース。波乱はあるか。
ステージ優勝 レムコ・エヴェネプール コメント
「信じられない。調子は良かったが、上りがイメージしていたより厳しかった。スタートから飛ばしたので、何としてもペースを維持してフィニッシュまで行きたかった。1メートル1メートルを楽しんだ結果、ステージ優勝だった。本当にうれしい。
バイクに何が起きたのかは分からない。パンクしたような音だったけど、数メートル走っても問題はなかった。不安だったしコーナーを攻めるのは怖かったけど、プッシュするしかなかった。タデイを12秒上回って勝てたのはすごいこと。彼はタイムトライアルでも良い走りができるし、特にグランツールになると強くなる。彼に勝ってステージ優勝できたことに価値がある。
今は明日と明後日のステージに集中している。このツールでタデイに勝つことは正直難しいと思う。でも、自転車競技は何が起きるか分からない。レースが進めばさらに調子が良くなると思うから、表彰台に向けてチャレンジしていきたい」
個人総合時間賞 タデイ・ポガチャル コメント
「スタートから攻めることができた。上りで少し力が入ってしまって、頂上を前に苦しんだ。後半はうまくまとめられて、楽しいタイムトライアルになった。レムコは世界王者で、最高のタイムトライアリスト。彼に負けるなら仕方がないし、今日の走り自体には満足している。何より、プリモシュ(ログリッチ)やヨナス(ヴィンゲゴー)たちからタイムを稼げたことが大きい。
レムコはこの先のステージでも要注意だ。プリモシュもヨナスも侮れない。ステージが進めば疲労度も高まるから、いまあるタイム差は変化するはず。今は接戦だけど、個人的には追う立場よりトップを走っていた方が気持ち的には楽だ」
ツール・ド・フランス2024 第7ステージ結果
ステージ結果
1 レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー) 28’52”
2 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+0’12”
3 プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ、スロベニア)+0’34”
4 ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク、デンマーク)+0’37”
5 ヴィクトル・カンペナールツ(ロット・ディステニー、ベルギー)+0’52”
6 ケヴィン・ヴォークラン(アルケア・B&Bホテルズ、フランス)ST
7 マッテオ・ヨルゲンソン(ヴィスマ・リースアバイク、アメリカ)+0’54”
8 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)+0’57”
9 ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト、アイルランド)+0’59”
10 シュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ、スイス)+1’00”
個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア) 27:16’23”
2 レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)+0’33”
3 ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク、デンマーク)+1’15”
4 プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ、スロベニア)+1’36”
5 フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ、スペイン)+2’16”
6 ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ、ポルトガル)+2’17”
7 カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ、スペイン)+2’31”
8 ミケル・ランダ(スーダル・クイックステップ、スペイン)+3’35”
9 マッテオ・ヨルゲンソン(ヴィスマ・リースアバイク、アメリカ)+4’03”
10 アレクサンドル・ウラソフ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)+4’36”
ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ、エリトリア)
山岳賞(マイヨ・アポワ)
ヨナス・アブラハムセン(ウノエックスモビリティ、ノルウェー)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ、ベルギー)
チーム総合時間賞
UAEチームエミレーツ 81:54’04
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。