同じ風景がないので、撮影していても楽しい
山口
2023年、昨年はじめて開催されたツール・ド・九州を撮影され、さらに今年コースをご覧になってどう感じられましたか?
辻
そうですね、昨年が初めての開催でしたが、全てが画期的でした。日本で珍しいステージレース、さらにラインレースなのにしっかりとしたステージレースができるんだなと感動しました。今年も去年に引き続き、各ステージでその土地土地の魅せたい部分をしっかりと打ち出していると感じました。エキシビジョンの小倉城のクリテリウムも昨年同様、特に変わらずですが、これに関しては変更の余地がないほど完成されています。そして大きく変わった第1ステージの大分、第2ステージの熊本阿蘇、新コースとなった最終ステージ福岡など、それぞれの県で特徴的なレースが展開されます。
©️ ツール・ド・九州2023実行委員会
山口
コースは観戦者にとっても楽しめる部分が多いですね。
辻
今回、コースを下見してみて大分のやまなみハイウェイの景色は感動的でしたね。観戦者目線で言うと、大分のコースはフィニッシュが周回コースなので観戦しやすいです。そして熊本阿蘇、今年は晴れてほしいですね。下見のときに阿蘇山の美しい景色が楽しめました。特に箱石峠はサイクリストにとっても魅力的な場所です。実際に、オランダから来たバイクパッキングしているカップルが箱石峠を上っていたのを見かけました。彼らもツール・ド・九州のことを知っていて、この箱石峠を走ってみたいと言っていました。これまで日本ではロードレースで走る場所があまり話題にならなかったことを考えると、このレースは大きな影響力を持っていると思います。そして最終福岡のステージも、垂水峠という上りがあって、ここで前に残らないと勝負に絡めないポイントになっています。上りと下りの繰り返しで、どう転んでもおかしくないコースレイアウトが絶妙だと思います。
山口
去年とはまた違った魅力のあるコースになりそうですね。
辻
はい、ツール・ド・フランスでもそうですが、毎年レースコースが変わるのは魅力だと思います。ツール・ド・九州も今年のコースが定番になるかもしれませんが、それでも毎年変わる可能性があります。例えば、やまなみハイウェイや別府の温泉の紹介などがそうですが、公道でのロードレースは地域ごとの魅力をいろいろバリエーションを変えて楽しめる稀有なスポーツイベントだと思います。自分にとってはその土地ごとのエッセンスを盛り込んだ写真を撮ることが、ロードレース写真の醍醐味ですね。
山口
辻さんの魅力のある写真が楽しみです。
辻
ありがとうございます。レース中の写真ってレース展開や選手を大きく写すことも重要ですが、それだけだとどこで撮っても同じような写真になりがちです。そのため、その土地ならではの風景や文化を取り入れた写真を撮ることが、自分にとってロードレースの撮影で一番楽しい部分です。他の自転車競技、例えばシクロクロスやマウンテンバイクのクロスカントリーやダウンヒルでは、風景にバリエーションがあまりないことが多いですが、ロードレースでは風景写真の中にスポーツ写真を組み込めるので、特別な楽しさがあります。これまでの日本のレースは見慣れた景色ばかりで、撮影に広がりがなく少し残念でした。もちろん悪く言うつもりはないのですが、もう少し工夫ができるのではないかと感じました。去年のツール・ド・九州を経験して、改めてそう思いましたね。コースディレクターのグラハムの存在も大きく、彼のバランス感覚が光る大会になると思います。
アジアのレベルを知るコースディレクター、グラハムの作る風景
山口
グラハムさんとは、昨年競技ディレクターだったグラハム・ジョーンズさんですか?
辻
はい、今年も彼が関わっていました。彼の存在は非常に大きいと思いますね。アジアのロードレースのレベルや、各国の実情をしっかり把握しているので、「ここまで厳しくしたら日本人選手が完走できない」というようなバランス感覚が、随所に彼の意見として反映されていると感じます。そういう意味で、とても上手くレースが作られていると思います。
山口
なるほど。日本人が日本人のために作ったコースではなく、海外のロードレース経験者の視点がしっかり入っていると感じますね。
辻
はい、そこに観光的な要素も組み込まれているのが素晴らしいです。というのも観光地で交通規制をすること自体が非常に難しいんですが、それを考えるのはめちゃくちゃ楽しそう。自分もやってみたいです。その上で写真とか映像の作りこみなんかも考慮することで、大会の後々の見え方をよりよくしたいですね。
サップから見るロードレースなんて魅力もある
山口
ツール・ド・九州を観光としてみるならどのあたりがおすすめですか?
辻
個人的には観光よりも釣りがおすすめです(笑)。残念ながらコースの下見では釣りをする時間がありませんでした。ただ結構良さそうな川がたくさんありました。 まあ、自分の場合は自転車と釣りって形で楽しんでますけど、レース観戦の楽しみは自転車だけじゃなくていいと思うんですよね。たとえば阿蘇やくじゅう、由布岳の風景はもちろん、大分で別府温泉入っていくかとか、地元のお酒や料理も楽しみです。
山口
お酒といえば今年のツール・ド・フランスもワインの当たり年でしたね。
辻
そうですよ。シャンパンに始まりイタリアも走った、ブルゴーニュも。じつは福岡ステージでも垂見峠の手前に「ぶどうの樹ワイナリー」があります。さらにその近くの海岸ではサップしてる人がいて、サップしながら釣りをしてる人もいましたね 。
山口
海からの観戦もいいですね。いい絵が撮れそうです。
辻
そう、ツールだとヨットがレースに並走している映像を見ますが、まさにそれですね。
実際にプロ選手が走るコースを走れるのも魅力
山口
福岡のコースは実際に走ってみていかがでしたか?
辻啓
福岡ステージでは、今日ブロンプトンで2周走りました。海岸線では風が強く、垂見峠の1.5km、6.5%の上りは厳しくてむっちゃきつかった。ブロンプトンで9割の力で、それもフラペ(フラットペダル)で上ったんですよ。 いやもうめっちゃしんどかったです。でも、選手からすれば距離が短いので大きな差がつきにくいです。上り切ったとしても、逃げ切りが難しく、最後はスプリント勝負になる可能性が高いです。これはツール・ド・九州全般に言えることですが、コース自体は選手に厳しすぎないバランスが取られたコースになっています。
山口
厳しいコースがレース結果を決めるのではなく、展開次第で勝敗が決まるレースということですね。
辻啓
そうですね。もちろん強い選手じゃないと勝てませんが、一番強い選手が必ず勝つわけではなく、戦略やチーム力が大きな鍵を握ります。垂水峠も距離が短いため、決定的な差がつきにくく、どんな展開になるか予測がつかないコースレイアウトです。これはほかのステージでもそうですが、結構僅差の戦いにはなると思いますね。
山口
実際に走った辻さんからお話を聞くとリアリティがありますね。
辻
それもロードレースの楽しみ方の一つです。 レースが始まる以前、もしくは走った後でもいいんですけど、そのコースを走ってみると、例えば STRAVAとかもあるわけで、レースで選手たちがKOMを更新して、あの選手はこんな スピードで走ってるんだってこともわかるのも面白いですね。そういう比較もできるスポーツってほかにないですよね。サッカーだったらプロ選手と同じスタジアムでボールを蹴る機会ってなかなかないですから。
アスタナ以外にも、トタルエナジーにも注目
©️ ツール・ド・九州2023実行委員会
山口
去年はアスタナ・カザクスタンチームが圧倒的な強さでしたが、今年参加するチームについてどう思いますか?