豚の丸焼きとグラベル イベントの新たな切り口をみせた白馬グラベルミーティング
坂本 大希
- 2024年10月22日
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9月28日~29日、長野県白馬村で未舗装路を自転車で走るグラベルイベント「白馬グラベルミーティング」開催された。今回、新たに誕生したライドイベントへ実際に編集部サカモトが参加、その模様をレポートする。
子供を連れての参加も大歓迎。「裾野の広さ」が抜群のライドイベント
未舗装路を走行するグラベルライドは非日常を気軽に味わえる楽しいものだ。筆者サカモトも国内外多くのグラベルイベントに参加し、グラベルライドの素晴らしさを体が憶えている。本イベントは評判の高いグラベルタイヤ「ボウケン」シリーズを展開し、この道に知見の深いiRCタイヤが主導であり、期待せずにはいられない。
長野県北部に位置する白馬村は、MTBで有名な岩岳の存在や、多くのイベントが行われていることもあり知っている人は多いだろう。その風光明媚な景観は多くの人に愛されている。本イベントは2日間に渡り行われるが、両日ともにライドが用意されており距離は初日が約25kmの獲得標高220m、2日目が約22kmの獲得標高250mで、それぞれグラベル率は約40%程度となっている。
この距離や獲得標高の数字を見ると、他のイベントと比べて物足りなく感じる人もいることは容易に想像できる。80~100km前後の距離で獲得標高が1000mを超えるライドなどが多く、実際にそういった設定に違和感も感じなくなってきており慣れてきた自分もいる。しかし、自転車を純粋に楽しんだり、子供など家族で楽しんだりするにあたって、そのコースだとハードルが高すぎるのも事実だ。
その点、この白馬グラベルミーティングは”グラベルライドを楽しむ人の裾野を広げたい”という想いも込められており、その狙いに見合ったコース設定が特色のひとつ。「力を出し尽くすほどのアドベンチャーで、体力の限界まで苦しむ経験を楽しみたい」という人もサイクリストの中には多いが、本イベントの狙いはあえてそこからずらしている。
そのコース設定を行ったおかげで、子供を連れての家族での参加や、気軽に仲間内で走りに来たという「ライトな層」の参加者が散見された。こういったイベントは意外に多くない。
また、コース自体は緩めに設定した、とはいってもそこは多くの自転車イベントが開催されるほどポテンシャルを秘めた白馬。レイアウトは緩めでも、素晴らしいコースにすぐに飛び込めるのは白馬ならではだ。
アメリカ発祥のこのグラベルカルチャーでよく見られる、コース上に突如現れるソファや椅子。ライド中に小休止し撮影をすることもある種の文化体験と言える。そういった場も漏れなく用意されている。(複数箇所用意されていた)。
「ライドイベント」よりも、「フェス」と表現したい
ライドの距離等が抑えられているため、必然的にエキスポ会場にいる時間が長くなる。それも狙いで、主催者側はこの会場での楽しみの充実にかなり力を入れていた。
まず目を引いたのは豚の丸焼きだ。地元白馬村の精肉店「大国屋」より、白馬豚の丸焼きが振る舞われた。ライド前の段階では生肉状態での豚肉が会場に用意されており、焼き始めるところを見れた。そしてライドが終わり会場に戻ってくる頃に丁度焼きあがるようになっており、ライド後にはその解体ショーが始まった。この肉が美味。そしてイベントで貰う感じではない山盛りの豚肉を貰うことができ、参加者は芝生に座ったり思い思いの場所で食事を楽しんでいた。さらに、会場には地元でクラフトビールを醸造する「HAKUBA BREWING COMPANY」も出展しており、この場でキャンプする人など、運転の予定がない人は併せて嗜んでいた。
後で聞いた話だが、このイベントは、イベントというよりもフェスにしたいという主催者側の思いが込められている。そう考えれば会場の楽しみの数にも納得だ。
会場ではMTBエアショーも開催。地元のライダー達(中には小学生も)がパフォーマンスを見せていた。さすがMTBの聖地ともいえる岩岳を内包する白馬エリアだ。
初日の夜には抽選会&じゃんけん大会も実施。iRCタイヤや地元協賛の商品が多く並んでおり、筆者もしっかりと景品を狙って参加。聞いたところ、全員に何かしらは届くようにプレゼントを用意したとのことで、おもてなし精神の高さに驚きだ。
2日目は出店の内容がちょっと変わるという工夫も。また、朝食としてスムージーなども振舞われるなど、細かなもてなしの工夫が多く、何を楽しめばいいのか悩むほど。
2日目のライド後。解散前に集合写真を撮影。150名規模で、初回としては規模は大きめだろう。三重県をはじめ、遠方からの参加者も散見された。子供や女性の参加者割合が高めであり、こういったイベントが増えることが自転車業界の拡大に繋がると期待する。
参加者・主催者の声
飯田さんファミリー(三重県からの参加)
三重県から参加の飯田さん。家族3人での参加だ。
2人の子どもはそれぞれ地元のMTB教室に通うなど、自転車を楽しまれているが、奥様は普段ほぼライドはしないという。そんな中でこのイベントでは奥様も含めて全員でライドを楽しまれていた。感想を聞いてみた。
「普段は子供と一緒に走ることはあまりないですが、このイベントは高校生以下の子供が走る場合は保護者の参加が必要だったので参加しました。こういったファンライドで子供と一緒に走れるイベントがあまりないのでとても楽しかったです。ブースもとても楽しい感じが出ててよかった。チケットも多くあって、還元率も高めでした(笑)」と話すのは奥様だ。
「子供も楽しそうで。ちょっと怖いところもあったそうですが、とても楽しいと言っていました。個人的には距離設定自体は全然いいんだけど、さらにもう少し緩いコースでも良かったかも……」と、ファミリーならではの感想を述べていた。
前日の抽選会では見事に景品を手に入れていた飯田家の子どもたち。
実行委員 新路祐也さん
「iRCさんに声をかけていただいたところからこのイベントは始まりました。僕の役割としては、この白馬の人間として、地域の方々の理解を得ていただくところに尽力しました。地元の人がここまで関わっているというところがとても良いと思います。運営している自分たちも楽しめる、これを大切にしながら今後もこのイベントを続けられたらうれしいですね」
実行委員(iRCスタッフ) 田中国大さん
「イベントというより、グラベルをテーマにしたフェスにしたくて。実行委員としてイベント運営を進めてきましたが、白馬の人の積極性に助けられました。豚の丸焼きやMTBエアショー、乗馬など、色々とやりましたが、全て白馬の地元の方々からの提案でした。レンタルバイクも地元の企業の協力です。このイベントは外注を一切していないことが凄いと思いますね。今後も継続して開催していければいいと思っています」。
実行委員長 原 知義さん (白馬マウンテンバイククラブ代表)
「色々なイベントを見て思うのは、ライドイベントは広域に渡るので、地元の皆さまの理解・協力がないと成り立たないと思いました。イベント運営専門の会社にお願いしようとか、そういった話もあったんですが、地元のみんなが主体となって動き、初めはうまくいかなかったとしても、10年などのスパンでイベントをみんなで育てていきたい。そんな想いでこのイベントをスタートしました。今回、出展やステージなどの什器などもすべて白馬で用意したものになってます」。
「また、コミュニティで今一番大事だと思うのは、世代を超えてみんなが楽しめることだと感じます。まずは子供と家族がこれるようになって、そこから地域の大人。さらに今までこういった自転車に触れたことがないような高齢の方まで、世代を超えた集まりになるのが目標ですかね。だから「計測をやめよう」とか、色々と案を出して工夫しました。今後はライドコースの距離を伸ばしたいとは思いますが、同時にショートカットコースも多く設けてどんな人でも楽しめるということを念頭に進めていきたいと思っています。このイベントを継続して開催していき、地元から愛され続けるイベントになって欲しいと思います」。
来年の開催が早くも決定。開催日は2025年9月27日~28日
今回のイベントを踏まえ、来年の開催が早くも決定されたとのことだ。イベントの準備期間が充分にとれることはかなり重要な部分であるとも考える。今回の経験を踏まえ、さらに魅力を増したイベントが気になる人は予定を抑えておこう。
- BRAND :
- Bicycle Club
- CREDIT :
-
文=坂本大希 写真=坂本大希/大会公式写真
Text= Taiki Sakamoto Photo= Taiki Sakamoto/Official Photo
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PROFILE
坂本 大希
元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。
元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。