ブライトン・ライダーS510インプレッション 高機能サイコンの生き残る道|Bryton
安井行生
- 2024年12月24日
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気鋭のサイクルコンピューターメーカー、ブライトンが高機能モデルのライダーS510を発表した。画面が大きくなり、稼働時間が長くなり、ソフト面でもアップデートされた注目作である。レビューするのはジャーナリストの安井行生。デジタルデバイスにはさほど明るくないというが、ならではの視点で現代のサイコンを考えた。
不相応なレビュー依頼
性能やコスパがどうであれ、新製品が発売されればファンが感涙にむせびこぞって購入する、という頂上ブランドがフレームメーカーには存在する。しかしサイクルコンピューターなどのデジタルデバイスの分野では、これを買っておけば安心という定番ブランドはあれど、妄信的なファンが先を争って取り合いをするようなブランドはまだない。新興メーカーが参入しやすい状況であるともいえるが、純粋に価格と機能とサービスで吟味されるシビアな世界であるともいえる。
なんてわかったようなことを書いてみたが、サイクルコンピューターにはとんと疎いままだ。今までずっと、数字に縛られず純粋に走ることだけを楽しんできたから。しかしパワーメーター、コース作成ソフト、GPS(ナビ)などが広く浸透しはじめ、「明日のコースはここからダウンロードしておいてくださーい」なんていう会話が当たり前になってきて、さすがに高機能サイコンがないと楽しみ方が制限されるようになった。数年前、思い切って某定番ブランドのトップモデルを購入し、日々のライドに連れ出している。しかしあまりに機能が多く、使いこなせているかといえば甚だ怪しい。
そんな筆者に、新型サイクルコンピューターのレビューの依頼をしてきたのがバイシクルクラブ編集部である。こんな不適な人選もないと思ったが、輪界で仕事をしている身としてこれを機にサイコンについて勉強させていただこうと、不相応を自認しながらお受けすることにした。対象物はブライトンのライダーS510。
カーナビなどを手掛ける大手GPS関連企業から独立した人物が2009年に設立した台湾メーカー、ブライトン。デジタルデバイスにおける新興メーカーの一つであるが、「自転車用GPSコンピュータ市場のリーディングブランドになる」をヴィジョンに掲げ、プロチームへのサポートも積極的に行っている。ドゥクーニンク・クイックステップ、イスラエル・スタートアップネイション、ワンティ・ゴベール~アンテルマルシェ・ワンティなどの公式パートナーを務め、チーム右京、キナン、ヴィクトワール広島などの日本チームも使用してきた。彼らから機能面でのフィードバックを受けて製品に反映させているらしく、「リーディングブランドに」の目標が口先だけではないことが分かる。実際、本国台湾では市場シェアが40%に達するまでに成長。現在は10モデル近いサイクルコンピューター、リヤビューレーダー、アクセサリ類を販売している。
Bryton Rider S510
価格:35,750円(税込、基本セット)、45,650円(税込、トリプルセンサーセット)
基本セット(35,750円)には、本体のほか、USBケーブル、ハンドル・ステム用のバイクマウント、脱落防止ストラップが付属する。センサーキット(45,650円)は心拍センサー、スピードセンサー、ケイデンスセンサーがセットとなる。オプションとしてアウトフロントマウント、プロテクションカバー、ガーミンマウントへの変換キットもある。
オプション アウトフロントマウント
4,400円
オプション設置のアルミ製のアウトフロントマウント。オフセットさせて取り付けられるので視野の移動が少なく、操作がしやすくなる。
- アイテムサイズ 50.1 x 116 x 38.1mm
- ハンドルクランプ径φ31.8mm
ライダーS500から進化し、より見やすく、より長寿命になったS510
左がライダーS510 右がライダーS500
今回俎上に載せるライダーS510は、2022年に発表されたライダーS500の後継機。ブライトンのラインナップでは上から2番目のモデルとなるが、ナビ・トレーニング関連の機能を全部乗せしつつ軽量コンパクトに仕上げたもので、シリアスなトレーニングからレース使用にも適する。
前作S500からの変更点は、まず画面サイズ。2.1インチから2.8インチに拡大されており、より見やすくなった。拡大されたのは主に横幅で、これはリヤビューレーダーを左右どちらかに表示するため。もちろんカラー液晶のタッチスクリーンで、周囲の明るさに反応して画面の明るさが自動的に調整されるため、どんな状況でも画面を読み取りやすい。
画面拡大に伴ってバッテリー容量も増えており、稼働時間は前作の24時間から最長30時間へ。そんなハード面でのブラッシュアップと為替の影響によって、前作より価格は多少上がってしまったが(本体価格29,700円→35,750円)、それでも同クラスの他社と比較すると安価に抑えられている。
アジア、オセアニア、ヨーロッパの地図がすでにインストール済み
正規代理店を通して日本で販売されるライダーS510には、アジア、オセアニア、ヨーロッパの地図がすでにインストール済みで、購入後すぐに使用可能(その他の地図も無料でダウンロードできる)。ルート作成は、デバイス上はもちろん、アプリやストラバ、Ride With GPSなどで可能で、スマホと連携させれば目的地を音声で入力することもできる。また、万が一バグによって記録が停止した場合、前作はそれまでのデータが消えてしまっていたが、新型ではデータを修復して切れ目なく記録し続けられるよう改善された。
さらに、走行中にルートを外れた際のリルート機能や、コースを逆走するリトレース機能なども充実。リアルタイム位置情報共有システムのライブトラックや、デバイス上で仲間と繋がるグループライド機能(仲間のライブデータやメッセージの送受信可能)なども前作から引き継がれている。
「クライムチャレンジ」が進化
ブライトンの売りの一つが、クライムチャレンジという機能だ。ルート上にある登坂のデータを表示するもので、まず、上りが近づくと登坂開始までの距離が表示される。上り始めると、勾配の強弱を色で表現した高低図、獲得標高、総距離、残り距離、走行中の勾配などを見ることができ、ヒルクライムのペース配分が行いやすくなる。
新型では、このクライムチャレンジ機能が新しくなり、「クライムチャレンジ2.0」へとアップデートされた。前作はルート作成をしないとこの機能が働かなかったが、新型はルート作成をしていなくとも、上りが近づいたらクライムチャレンジ機能が起動する。ナビを必要としないいつもの練習コースや、目的地を決めずに気ままに走る自由なライドでもクライムチャレンジ機能を使えるようになったのだ。
標準的なアプリや機能はフル装備
データのアップロードや管理、設定などはブライトンアクティブアプリで行う。また、ストラバ、トレーニングピークス、Ride With GPSなどと同期させることも可能。
トレーニングアプリとも連動する
トレーニング関連機能も充実しているS510。ブライトンアクティブアプリやトレーニングピークスで作成したメニューを実行すれば、その内容をグラフで分かりやすく表示する。プロ選手からのフィードバックをもとに構築した機能だという。
S510は、ローラー台の負荷調整機能を制御するANT+ FE-C規格に対応しているため、互換性のあるスマートトレーナーと接続すれば、負荷と目標パワーを設定できる。スマートトレーナーでライドログをシミュレートする機能もある。
使い勝手、良し
では実際の使用感を。本体・アプリの設定は取扱説明書と首っ引きになる必要はなく、直感的にできるよう吟味されている。本体のユーザーインターフェイスも、「どんな階層があり、今どこの情報を表示しており、どうすれば進む・戻るが可能なのか」が分かりやすい。
まず気に入ったのが、ライドのスタート/ストップ時に鳴る「ピピッ」という作動音。雑音が多い屋外でも明瞭に聞こえるが、耳に刺さるほど刺々しくはなく、透明感のある爽やかな音色だ。音なんかどうでもいいと思われるかもしれないが、ライド中に何度も耳にするのだから、決して疎かにはできない。
ブラックでフラットな液晶画面が本体いっぱいに広がっているというシャープな造形も最新ハイエンドバイクによく似合って好ましい。メーターは常に目に入るものだから、形の魅力やメーカーロゴのセンスも非常に重要だ。
物理ボタンは左右側面に2つずつで、分厚いグローブをしていても押しやすい。動作はスマホほど速くはないが、さほどもっさり感もなく、ストレスはない。ルート案内は車のナビ同様の分かりやすい方向表示。どうでもいいことだが個人的に地図の向きはノースヘッド派。
この種の高機能サイコンはすでにそこそこの歴史がある。よって表示方法や操作方法はある程度の正解が決まりつつあり、このライダーS510も基本的にはそれに則って作られているため、使う上で違和感は全くなし。
マニュアルを隅から隅まで読み込まなくとも、基本操作のみ覚えてしまえば、画面に表示される案内に従っているだけで問題なく使える。
クライムチャレンジ評
ライダーS510の売りの一つであるクライムチャレンジ、他社のサイコンでも同様の機能があるが、これはなかなか楽しい。基本的には「上りで適切なペース配分を可能にするための機能」であり、最初は「余計なお世話」だとも思っていたが、登坂をめいっぱい堪能するためにも有効だと気付いた。突っ込みすぎると後半へろへろになって楽しめないし、前半抑えすぎると力を出し切れずにこれまた楽しめない。クライムチャレンジのような機能があると、そのときどきに最適なペースで上りを満喫できるようになる。
コース設定していないフリーライド中のクライムチャレンジの振る舞いだが、基本的には「こっちに行くであろう」とメーター側が予想したルート上にある登坂を予測表示する。坂の直前で曲がった場合は、多少迷ったあと、「そっち行くのね」と新たなルートの上りを表示する。また、上りの途中で脇道にそれると「上らへんのかいな」とクライム終了となる。なかなか賢い。
クライムチャレンジは起動条件を「全ての上り」か「中級以上の上り」か「起動させない」から選択できるのだが、厳密にいえば、上りが開始する地点とクライムチャレンジが起動する地点にややずれがあったり、表示される斜度と実際の斜度に差があったり、「ここまで上りセクションに含めるの?」というような設定もあったりする。この点に関しては他社のサイコンも同じようなもので、おそらく地図データ起因のものだろう。ただ、実際のコースと大きくずれることはなくライドの目安には十分なる。
スマホとは別の道を
ライダーS510、数週間ほど使わせてもらったが、価格が倍近い他社ハイエンド機に比べて明確に劣ると感じられるところはほぼなかった。動作もフリーズすることなく安定している。
代理店の担当者に「ブライトンならではのアドバンテージは?」と問うたところ、「ブライトンの強みはとにかくコスパ。ライバル他社のハイエンド機と同じレベルの機能を持った製品が半額近い金額で購入できます。ただし、地図データはOSM(オープンストリートマップ=世界中の有志の作業者が作成・編集している無料の地図データ。地図版Wikipediaとも言われている)を使っており、情報量や精度では他社ハイエンド機に劣ると感じられる部分はあります。また、データを管理・分析するソフト面でもブライトンより優れているメーカーは存在しますね」とのことだった。
ただ、地図のクオリティは実際に使っているとほとんど気にならない。10万円以上もするハイエンド機をフルに使いこなしているような人であれば話は別だが、筆者のようにコース作ってナビ使ってデータを管理してときどきトレーニングにも使って……という用途であれば、これで満足だ。
今回、最新のサイコンを調べて使って感じたことは、サイクルコンピューターにとってこれからの脅威は、王者君臨のガーミンでもなく、同じ価格帯にひしめくライバル他社でもないということだ。スマホである。
ナビ、メーター、各種センサーとのリンク、データ管理のプラットフォームなど、機能としてはスマホで事足りる状況になってきている。ナビ機能に関してはスマホのほうが圧倒的に優秀だ。ライドデータはスマホで解析をするのだから、ライド後にわざわざ同期する必要もなくなる。スマホで完結させられれば、携行物が一つ減ることにもなる。しかもスマホは誰もが所有しているし、画面は大きく動作は早く、スマホホルダーも充実している。車のナビをスマホのgoogleマップで代用する人が増えたように、「自転車用メーターもスマホでいいじゃん」という声はこれからもっと大きくなる。
では、わざわざサイコンを買って使う理由とは?バッテリーの持ち(スマホをサイコンとして使うと数時間しか持たず、バッテリーを使い果たすと通話などもできなくなる)や、重量的ビハインド、高温時や悪路での動作の不安定性、落車で壊したときや落としてしまったときの各種情報の消失のリスク、心的ダメージなどだろう。それらを考慮すると、我々のような一日に数時間も自転車に乗り続けるような特異な人種にとって、サイコンはまだ必須だ。
しかしスマホはスマホで進化を続ける。要するにサイコンが生きる道は、スマホより軽く小さく安く、高温低温振動風雨に耐える堅牢性とロングライドにも十分なバッテリー寿命を持ち、機能的には自転車用に特化する、という方向性をさらに先鋭化させることだろう。そういう意味で、安価で高機能で使いやすく自転車的エンターテインメント性もあるブライトンは、いい位置に付けていると思う。
問:フカヤ https://fukaya-nagoya.co.jp/
- BRAND :
- Bicycle Club
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