ジロをあえて回避してポイント稼ぎも、ワールドチームかけたランキング最終年|ロードレースジャーナル
福光俊介
- 2025年01月20日
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国内外のロードレース情報を専門的にお届けする「ロードレースジャーナル」。久方ぶりの更新となりますが、新たなシーズンを迎えて再び精力的に話題を提供してまいります!
vol.74 ロードレースシーズン開幕 ロットとイスラエルはジロ回避、アルケアとアスタナはワールドチーム残留の正念場
ロードレースシーンは、2025年シーズンが開幕。1月21日から始まるツアー・ダウンアンダー(オーストラリア)で男子のレースが動き出す。今季は「区切りのシーズン」に位置づけられ、2023年から始まり3シーズンにわたって進行するポイントランキングの最終年。チームポイント合算によって、UCIワールドチームと同プロチームの入れ替えが行われるのだ。そんな重要な1年を展望するとともに、ここまでのランキング確認、そして入れ替えにかかわるちょっとした“抜け道”に目を向けてみる。
UCIポイントランキングのシステム
このポイントランキングは、各地で開催されるUCI(国際自転車競技連合)公認の国際レースの順位によって付与される得点をもととしており、個人・チーム・国別の各部門のうち、チームのランキングがベースになる。
過去3シーズンのチームポイントを合算し、上位の18チームが翌ピリオドのUCIワールドチーム(第1カテゴリー)権利を手にする。これを得ることで、向こう3年間はツール・ド・フランスなど世界最高峰レースへの出場が自動的に決定する。
もし、UCIワールドチームが上位18チームに入れなかった場合、次のピリオドでは同プロチーム(第2カテゴリー)への降格となり、ツールなどビッグレースへの出場権が保証されない立場へと変わってしまう。
2025年シーズンは“勝負の年”であり、18位前後に位置するチームは昇格をかけ、または降格を避けようと、ラストスパートをかけなければならないのだ。
チームポイントとして有効となるのは、当該シーズンの所属選手のうち上位20人の個人獲得分。移籍選手のポイントは次チームへは持ち越されないことになっていて、例えば2025年に環境を変えた選手は、2024年に獲得したポイントはそのシーズンに所属していたチームでカウントされる。
もちろん、大きなレースになるほど順位ごとに付与される得点は配点は大きくなる。ツールの個人総合優勝であれば獲得得点は500点にも上る。このランキングで上位入りすることは、それだけチームとして結果を残してきた証でもあり、戦力の充実度を図る指標にもなる。
なお、このシステムは2020年から採用され、現在のワールドチームとプロチームは「2020-2022チームポイントランキング」がもととなっている。このときはアルペシン・ドゥクーニンクとアルケア・B&Bホテルズが上位18位入りし昇格、圏外となったロットとイスラエルプレミアテックが降格した。
チームランキング途中経過と解説
2025年シーズンのUCIワールドチームと同プロチームの確認も兼ねて、最新のランキングをご覧いただこう。同月上旬に開催されたオーストラリア選手権の結果が反映されたものとなっている。
2023-2025 チームポイントランキング 途中経過
※2025年1月20日時点。チーム名後ろの「WT」はUCIワールドチーム、「PRT」は同プロチーム1 UAEチームエミレーツ・XRG(WT)68431
2 チーム ヴィスマ・リースアバイク(WT)50082
3 スーダル・クイックステップ(WT)36887
4 リドル・トレック(WT)34113
5 イネオス・グレナディアーズ(WT)33374
6 レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ(WT)30254
7 アルペシン・ドゥクーニンク(WT)29514
8 グルパマ・エフデジ(WT)27192
9 ロット(PRT)26692
10 バーレーン・ヴィクトリアス(WT)25310
11 デカトロン・AG2Rラモンディアール チーム(WT)25027
12 EFエデュケーション・イージーポスト(WT)23414
13 モビスター チーム(WT)21901
14 イスラエル・プレミアテック(PRT)21755
15 チーム ジェイコ・アルウラー(WT)21690
16 アンテルマルシェ・ワンティ(WT)20407
17 チーム ピクニック・ポストNL(WT)18759
18 コフィディス(WT)18327---昇降格ライン---
19 アルケア・B&Bホテルズ(WT)15964
20 ウノエックス・モビリティ(PRT)15508
21 XDS・アスタナ チーム(WT)13610
22 トタルエネルジー(PRT)10667
23 チューダー・プロサイクリングチーム(PRT)8512
24 Q36.5プロサイクリングチーム(PRT)7001
25 VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネ(PRT)6528
26 カハルラル・セグロスRGA(PRT)5955
27 エキポ ケルンファルマ(PRT)5026
28 チーム ポルティ・ビジットマルタ(PRT)5023
29 ブルゴス・ブルペレット・BH(PRT)4510
30 エウスカルテル・エウスカディ(PRT)2775
31 ワグナー・バザン・WB(PRT)2708
32 チーム ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ(PRT)2665
33 ユニベット・ティテマ・ロケッツ(PRT)2234
34 チーム フランダース・バロワーズ(PRT)1738
35 チーム ノボノルディスク(PRT)640
こうして見てみると、日頃レースを追っている方なら順当であると感じることだろう。実のところ、現ピリオドが始まった2023年と今との構図は大きく変わっておらず、順位の多少の入れ替わりは起きているものの、上位と昇降格ラインの顔触れはさほど変わっていない。
上位チームでは、UAEチームエミレーツ・XRGはタデイ・ポガチャル(スロベニア)が圧倒的な強さを発揮しているし、チーム ヴィスマ・リースアバイクはヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)やワウト・ファンアールト(ベルギー)が、スーダル・クイックステップはレムコ・エヴェネプール(ベルギー)が、それぞれ軸となる選手がチームを引っ張っている。
UCIプロチームでは、ロットがトップ10圏内入り。エーススプリンターのアルノー・ドゥリー(ベルギー)を筆頭に、若手有望株も控えていて、その戦力は同ワールドチームにも匹敵する。同カテゴリーでは2番手につけるイスラエル・プレミアテックは、前回の入れ替えで降格したが、やはり戦力は充実。よほどのことがない限り、この2チームの次回昇格は有力な情勢だ。
かたや、厳しい状況にあるのが19位のアルケア・B&Bホテルズと、21位のXDS・アスタナ チーム。アルケアは18位に位置するコフィディスとの得点差が2363点。アスタナにいたっては4717点もの差を付けられており、今季だけで巻き返すとなるとグランツール級のレースで確実に上位入りすることが必須だ。アスタナは中国資本のXDS社をスポンサーに迎えて戦力補強を急いだが、その効果は現れるだろうか。いずれにしても、この両チームは正念場にある。
ポイントランキングの課題は? 過去には下部レースでポイント量産し昇格につなげた例も
3シーズンに及ぶ長期戦で、前述したようにチーム戦力を測るツールとしても活かされるランキングだが、必ずしも賛成意見ばかりではない…というのが実情だ。
EFエデュケーション・イージーポストのCEOであるジョナサン・ヴォーターズ氏は、このシステムを「不条理だ」と表現する。
ヴォーターズ氏はレース全体がポイント獲得に偏重することを危惧しており、「優勝や各賞ジャージを目指さず、ポイント圏内で無難にレースを終えてしまう選手やチームが出ても不思議ではない」と述べる。さらには、そのスタンスを「拍子抜けで退屈な方法だ」とも。
積極的にレースへ臨み、その結果として勝利であったり、ポイント賞や山岳賞のジャージ獲得へとつなげることをチーム運営における理念としており、「その結果として下位に終わってしまっても構わない」。
ポイント獲得、その先のUCIワールドチーム昇格、との観点でいくと、「ビッグレースを避けて下部レースで確実に上位入りを目指す」といったスタイルも見られている。
2020-2022ピリオドでは、当時同プロチームだったアルケア・B&Bホテルズが出場資格のあったジロ・デ・イタリアを返上し、下部カテゴリーのUCIプロシリーズや同1クラスのレースを転戦しポイントを量産。最終的な同ワールドチーム昇格へとつなげた。
年間ランキングにおける同プロチーム内上位2つには、翌年のワールドツアー全レースへの出場権が与えられるが、レースごとにその権利を返上することも可能。チーム状況に応じてレースプログラムを組むことができるあたりがメリットにもなっている。今季はロットとイスラエル・プレミアテックが出場資格を持つジロの回避をすでに表明。来年からのワールドチーム昇格を確実なものとするため、下部レースに集中するとの見方がもっぱらである。
レース期間が3週間と、他と比較してもとりわけ長いグランツールに主力選手を“拘束”されるのを避け、できるだけレース数を稼いでポイント獲得につなげる。ワールドチーム昇格を目指すチームにとっては、柔軟にプログラミングできるあたりはプラスに働く可能性が高い。「最高のライダーこそ最高のレースで戦うべき」という主張も聞かれることがあるが、チーム力や活躍度、レース結果を数値化して、そこからトップチームを決める方法は明瞭でもある。
シーズンが始まれば、毎日のようにどこかではレースが行われるロードレース界。そうした競技性を生かした、現在のランキングシステムであるとも捉えることができる。果たして、2025年を終えるときにその構図はどうなっているだろうか。激動のシーズンが幕を開けようとしている。
福光俊介
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。
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- TEXT:福光俊介 PHOTO:Tour Down Under 2024 A.S.O./Charly Lopez A.S.O./Billy Ceusters XDS Astana Team Israel – Premier Tech
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。