中毒性に拠らない、もうひとつのゲームの可能性をサブスクで探す——Apple Arcade その1
- 2021年04月14日
ゲーム機を子供に買い与えたくない人の選択肢
「子供にゲーム機を買い与えるか、否か?」は、今の世の親の悩みのひとつ。
当然のことながら、今や親もゲームで育った世代だから、『ゲーム=悪』ではないことは分かってる。しかし、他の刺激を知らない子供たちに与えると、中毒といっていいほどゲーム漬けになる可能性もある。それを心配する方は少なくないと思う。
また、課金制のゲームとなるとさらに悩みは深い。強い武器が欲しい、レアアイテムが欲しい……と、オトナでもかなりの金額をガチャに費やしてしまったという人も多い。まだ確率を学んでない子供が課金ガチャにハマるようなことがあれば結果は目に見えている。子供が、親のスマホで遊んでいるうちに数十万円課金してしまっていた……などという話もある。
収益構造は、ゲームの設計に大きく影響する。たとえば、パソコンや家庭用ゲーム機のような買い切り型のゲームなら、そのゲームタイトル1本で、いかに満足感を高めるか……ということが重要になる。対して、ガチャ課金になると、いかにアイテムなどを欲しいと思わせて、手に入りそうになる直前で課金を繰り返させるか……ということが重要になる。収益性を上げるために、中毒性と飢餓感をいかに煽るかがゲーム開発の主眼になる。
また、家庭用ゲーム機の買い切りタイプのタイトルはゲーム機の高性能化と、映像表現の高度化、3D化などにより、どんどんビッグタイトル化してくる。つまりはビッグブランドが出す、ビッグタイトルばかりが話題になるというわけだ。となると、小さなゲームスタジオがチャンレンジする余地はあまりない。
月額600円で、少し違うゲームの世界を
そんな、ゲーム業界の構造に風穴を開けるチャレンジとして始まったのがAppleのArcadeだ。
Apple Arcade
https://www.apple.com/jp/apple-arcade/
月額600円のサブスクリプションで、家族6人までが好きなだけゲームが遊べる。しかも、制作側にとっても(おそらく、推測するに)収益構造が違うから、極端に中毒性の高いゲームだけではない。じっくりと楽しめるストーリーモノ、スポーツモノ、パズルゲームなどの『良作』を安心してリリースすることができる。
1年半ほど前にスタートした時にはゲームの本数、種類はまだまだ少なかったか、2021年4月に新たに30作品が追加され、トータルで180本を越えた。中でも、日本のゲームブランドから4作が追加されたのでご紹介したい。
FANTASIAN——ジオラマ上で進むRPG
ファイナルファンタジーを産み出した坂口博信氏が産み出した完全新作RPG。舞台はなんと手作りのジオラマ。その上で、CGのキャラクターが活躍する。戦闘アクションも独自の工夫がされており、ゲーム性としても面白い。キャラクターデザインは舞台背景なども、ファイナルファンタジーと同様、魔法の力と高度なテクノロジーが混ざり合った雰囲気。
序盤だけプレイしてみたが、自由度の高いRPGではなく、ファイナルファンタジーシリーズ同様、設定された物語を追っていく感じ。選択権はあまりないが、ドラマチックで自分がプレイするSFファンタジー冒険映画という感じだ。
物語を楽しむように、毎日じっくりとプレイしたい感じ。
World of Demons – 百鬼魔道
墨絵と、浮世絵を混ぜ合わせたようなオリエンタル、日本風の映像が独特なアクションゲーム。文字通り百種類の魔物が跳梁跋扈する世界を、サムライ・鬼丸として、魔物と戦い、従え、突き進んでいく。
iPhoneやiPadのフリック操作で、激しく痛快な剣戟アクションを楽しめる。
筆者はアクションゲームは得意ではないのだが、ものの10分もプレイすれば、自由に移動し、斬り結び、技を使うことができるようになった(ような気がする)。特に、倒した魔物を従えて、カプセル怪獣のようにその能力を使うことができるのが面白い。独特の操作系と合わせて、飽きることなく楽しめそうだ。
妖怪も、幽霊も、鬼も、どこの地域の伝説もごった煮のような気がするが、オリエンタルな雰囲気で、これほど痛快に遊べるゲームは筆者は初体験だった。
CLAP HANZ GOLF
得意なテクニックの違う複数のプレイヤーを組み合わせて、1ホールごとに違うキャラクターを使って攻略していくユニークなゴルフゲーム。有名な『みんなのゴルフ』を作ったCLAP HANDSが、社名を冠して取り組んだ作品。
こちらもiPadなどの操作系を上手に使っており、方向を定めて、フリックで引いて力を貯めて前にフリックすることで打つ。フリックの微妙な向きによって、フックやスライスを打ち分けられるようになっている。僕のようなゲームに不慣れな人でも、すぐに習熟できて、しかも微妙な方向や、カーブ方向を調節できるから、けっこう幅広い人が楽しめて、しかもやり込めば上達しそう。毎日の通勤で楽しむ……なんて人もいそう。
太鼓の達人 Pop Tap Beat
これはもう言わずと知れた……というところだが、Apple Arcadeに含まれたことで無限にプレイできるのが楽しい。家族で点数を競うにもちょうどいいゲームだ。
最近のメジャーなポップスも複数含まれているから、誰でもノリノリで楽しめるはずだ。
家族で安心して、ゲームを楽しむ方法
他にも何種類かのゲームを試してみたが、極端な中毒性に引きずられることなく、知的に楽しめる作品が多いところが素晴らしいと思った。
冒頭にも書いたようにゲームの収益構造は、そのままゲームの性質を決定づける。パッケージゲームであれば、大ヒットを狙わなければならないし、無料で配布しながら課金、ガチャで稼いでいくなら、中毒性を高めて課金したくなるような方向に持って行かなければならない。
対して、Apple Arcadeは我々はアップルに定額のお金を払うのだから、おそらく各開発者に、Appleから開発スタート時に「○○万ドル支払うから、こういゲームを作って欲しい」という提案があるのではないだろうか? 一定額が最初から支払われるのであれば、成功・不成功をかけて過度の射幸心を煽ることなく、『良い作品』を作ることができるのではないだろうか? それはすなわち、最初からしっかりした予算で撮影を始めることができるNetflixのオリジナル作品のような仕組みだ(もしかしたらダウンロード数や、プレイ回数などによって、追加のフィーが支払われたりするのかもしないが)。
また、それでも子供のゲームプレイ時間が長過ぎるようになったら、Screen Timeで制限をかけることもできる。
じっくり楽しめるゲームがいくつもある。他にプレイしてみて面白かったゲームをいくつかご紹介しよう。
Monument Valley+
とても幻想的かつ、幾何学的な3D世界のパズルゲーム。
幾何学的であるはずなのに、実はおかしいエッシャーのだまし絵的な超現実的な空間の建築物を動かして、沈黙の姫アイダを導いていく。あるはずのない不思議な空間の通路が目の前に開けた時の知的快感がたまらない。
トンネル、スイッチ、スライド、ハンドル……さまざまな仕組みを使って、通路を動かした時、そこに論理の世界では存在しないルートを見つける快感がある。ビジュアルの美しさも魅力。現代にエッシャーが生きていたら、ぜひプレイさせてあげたい。
Blek+
このゲームの面白さを静止画から想像するのは困難だが、これらのパズルをわずかワンストロークで解かねばならなない難しさがある。ストロークは、リピートしながら動いていって、色のついたサークルを消していく。
黒いサークルにあててはならず、あてると不思議な悲鳴を上げてゲームの進行をさえぎる。
プレイヤーのアクションは、それぞれわずかワンアクションのフリックだから、ついつい何度もトライしてしまうが、上手くクリアするためには論理的思考が不可欠。
MIni Metro+
これまたユニークな地下鉄の路線図を使ったパズルゲーム。
小さい黒い、●、▲、■、★は、それぞれ、○、△、□、☆の駅に行きたがっている。地下鉄の路線を引いて、彼らを望む駅に連れていってやろう。うまく路線を構成していけば、ゲームは続き、路線は広がっていく。
緻密なパズル性とともに、美しいデザイン性が魅力。
Threes! —Arcade
実は、昔、わが家で大流行したことあるThrees!。版面全体をスライドさせて、1と2、もしくは3以上の同じ数字を重ねていくパズルゲーム。重ねると数字は倍になる。そうやって、3、6、12、24、48、96、192、384、768、1536……と大きな数字を作っていく。最終的には行き詰まるのだが、起死回生で大きな数字を作れた時の爽快感が忘れられず、延々と続けてしまう。
いずれも、グラフィックが美しく、ユニーク、かつ知的チャレンジがある。
アップルがArcadeで、コンピュータゲームの面白さを再発見しようとしているのだと思う。
1カ月は無料トライアルできるし、アップル製品を買えば3カ月試せる。また、サブスクおまとめサービスApple Oneなら、Apple Arcade、Apple Music、Apple TV+、iCloudストレージの4つをまとめてお得に課金することができる。価格設定は、Apple MusicとiCloudストレージを契約するなら、セットにすればApple ArcadeとApple TV+はタダでついてくるような位置づけになっている。}
また、多くのタイトルは、iPad、iPhone、Mac、Apple TVのいずれの端末でもプレイできるように設計されている。
物語を楽しむように、知的パズルを楽しむように、中毒になり過ぎないアップルならではのゲームの楽しみ方がここにある。ぜひ一度お試しを。
(村上タクタ)
(最新刊)
flick! digital 2021年4月号 Vol.114
https://funq.jp/flick/magazines/20159/
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PROFILE
flick! / 編集長
村上 タクタ
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。