アップル製品の最先端はiPad Pro。本物のプロクリエイターには12.9インチが不可欠
- 2021年04月22日
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王の帰還
昨年9月にiPad Air 4が発売されて以来、ねじれの構造にあったiPadのラインナップがようやく正常になる。つまり、iPad Proが王座に帰ってきたのだ。
ここで、iPad Proとその周辺モデルに搭載されてきたチップセットについて整理してみよう。
まず、NYで発表された第3世代12.9インチ、第1世代11インチに搭載されていたのは、A12X Bionic、続いて第4世代12.9インチ、第2世代11インチに搭載されたのがA12Z Bionicだ。
ここまでは、7nmプロセスで製造されれいた世代。つまり1世代前のチップセットになる。ただし、昨年のWWDCで開発者向けに提供されたデベロッパー向けのMac miniにはこのA12Z Bionicだから、これがM1の先祖であることに違いはない。
続いて、5nmプロセスという新世代の製造工程で作られたのはA14 BionicとM1。回路を狭く作れた方が、当然ながら集積度合が上がり、処理能力も省電力性能も上がるから、ここでまた大きく性能が向上している。
A12 Bionicは4コア(2+2)CPU/4コアGPU/8コアニューラルエンジン、A14 Bionicは6コア(2+4)CPU/4コアGPU/16コアニューラルエンジンとなっている。
対して、A12Z Bionicは8コア(4+4)CPU/8コアGPU/8コアニューラルエンジン、M1は8コア(4+4)CPU/8コアGPU/16コアニューラルエンジンとなっているから、A12 BionicにとってのA12X Bionicに相当するのが、A14 BionicにとってのM1であるのは自明だった。
アップルは、M1はMac用に最適化されて設計されていると言っていたが、iPad Pro 11インチ第3世代と12.9インチ第5世代に、そのままM1の名で搭載してきたのだから、A14Z Bionic的存在が=M1であるといって良さそうだ。
ともあれ、Mac用に開発されたアップルシリコンの最強モデルが、そのまま新型iPad Proに搭載されたということである。
これは非常に興味深いことだ。なにしろ、多彩なエントリークラスのMac(MacBook Air、MacBook Pro 13(2ポート)、Mac mini、新型iMac)に搭載されたチップセットと、iPad Proの頂点モデルは同じチップセットでまかなえるということなのだ。
別の言い方をすれば、もしアップルがその気になれば、iPad ProをMacとして使うこともできるだろうし、MacBook Airや新型iMacでiPad用のアプリが動くということでもある(事実、Mac Catalystで一部のアプリは動く)。同じチップセットを量産することで、コストを下げることもできるだろう。
なんとも不思議な時代になったものだ。
もはや比較することに意味はないような気もするが、2010年の初代iPadに対して、M1のグラフィック処理能力は1,500倍になっているという。わずか11年の間に思えば遠くに来たものだ。
なぜ、A14Z Bionicと呼ばず、M1と呼んだのか?
M1搭載ということは、だいたいの性能は推測できる。
A14 bionicを積むiPad Air 4より、高性能CPUの数が2倍になり、GPUの数も2倍になっている。つまり、あの高性能なiPad Air 4をはるかにしのぐ性能を搭載していることになる。当然ながらM1 Macとも同等ということになる。あの24インチのディスプレイを搭載するiMacと同等ということだ(熱容量の違いで多少性能は落ちるとは思うが)。
iPad Proこそが、コンピュータを『ディスプレイのみの存在にしたい』というアップルの思想に最も近い存在だし、今後、常に象徴的存在で、マイルストーンであり続けると思う。
M1のMはMacだと思うので、A14X Bionicと呼ばずに『M1を搭載』と言ったのも興味深いことだが、今後もiPadとMacは、重なり合い、融合し合い、関係性を深めていくということなのだろう。
XDRをiPad Proに搭載するなんて、信じられないほど
もうひとつ注目すべきが、iPad Pro 12.9インチへのLiquid Retina XDRディスプレイの搭載だ。
Mac Pro用のディスプレイとして発売されている6KのPro Display XDRは本当にすごいディスプレイだ。60万円近く(しかも脚抜きで)する価格ばかりが取り沙汰されるが、実際にしかるべき環境で、しかるべき映像を見ると、その圧倒的な性能を体感できる。
特にすごいのがコントラスト比。つまり、暗い部分と、明るい部分の差の大きさ。数値としてのコントラスト比は、100万:1となっている。いかに深い真っ黒と、輝くような白が表示できるかということだ。
このコントラスト比が大きいと、ディテールはシャープに見えるし、細かく立体的に見える。たとえば動物の毛皮であれば、暗い部分が真っ暗に見えて、明るい部分が明るく見えたら、毛の1本1本が引き立つように明るく見える。人の顔であれば、黒目が深く沈み、皮膚の細かな肌感が際立って見える。
iPad Pro 12.9インチは、Liquid Retina XDRディスプレイでその性能を実現したというのだ。
iPad Pro 12.9インチのコントラスト比は100万:1。HDR表示時のピーク輝度は1,600ニト。まだ、現物を目にしたわけではないが、数値的にはPro Display XDRと同等の性能を実現している。
その背景となっているのは、1万個以上のミニLED。これを2,596分割して明滅させることで、暗い部分をとことん暗く、明るい部分をとことん暗くすることができる。通常の液晶というのは画面の背後全体を明るくして、それを液晶で遮ることで暗い色を表現しているのだが、液晶で遮っても多少は光が洩れてしまう。対して、Liquid Retina XDRの場合は発光してないのだから、それは暗いはずだ。
写真を補正したり、動画を編集したり、イラストを描いたりするプロのクリエイターにとって、この画像の美しさの比は圧倒的だ。プロを自認するなら、ここで妥協するわけにはいかないだろう。
ちなみに、Liquid Retina XDRを搭載しているのは12.9インチだけだが、Pro Motionテクノロジーは11インチにも、12.9インチにも採用されているので、細かいペン先の運びに完全に追従する感覚が味わえるのは11インチも、12.9インチも同じ。iPad Air 4が追従できない部分だ。
I/Oも新世代……というか、M1仕様に
新しいiPad Proの差別化ポイントはそれだけではない。
ポートは11インチも12.9インチもUSB-Cポートの通信規格にThunderbolt / USB 4規格を採用した。従来、SSDを接続しても、それほど優れた通信速度は発揮できなかったが、今回は期待できると思われる。
また、Wi-Fi 6と、セルラーモデルにおいては5Gも採用しており、外出先でも家の中でも高い通信速度を維持できる。
Thunderboltポートが設けられたことにより、あの6KのPro Display XDRディスプレイだって接続できるようになった。 我々一般人にとってはあまり意味はないかもしれないが、ワークフローにPro Display XDRディスプレイが組み込まれている人にとっては便利だろう。
高画質、広画角のインカメが実現する『センターフレーム』
インカメラ(アップル流に言うとFaceTimeカメラ)に1,200万画素のカメラが採用されたのは、コロナ禍の状況で、オンラインミーティングなどが増えたことに対応しているといっていいだろう。
高画質のためというわけではなく、122度の視野角とともに、広い範囲を撮影しておいて、ズームしているかのようにトリミングできるということに意味がある。その広い画角を活かして、カメラが利用者自身を追い掛けてズームしてトリミングしてくれる。この機能をセンターフレームと呼ぶ。まるで、専属のカメラマンがいるかのようだ。良く考えられた仕組みだと思う。
Magic Keyboardや、Apple Pencilといった周辺機器は性能的には変化はないが、Magic Keyboardはホワイトを選べるようになったのが目新しい。
価格は高くない。グラフィックのプロは12.9インチがマストバイ
価格は本機も税込表記となっており、円高の影響で非常に安くなっていた前モデルより値上がりしているが、Liquid Retina XDRを搭載したiPad Pro 12.9インチも含め、値上がり幅は性能向上幅ほど大きくはなく、お買い得度合いは増しているといえるだろう。
ストレージを大きくすると、必然的に高価になるが、そこはiCloudを利用して本体の容量を小さくするのが今風。巨大な動画を持ち歩きたい人や、大量の写真を通信のない状態で扱いたいプロカメラマンなどに、2TBストレージの選択肢が与えられたのは良いことだろう。
採用するディスプレイの違いにも表れていているように、12.9インチは、動画編集者、カメラマン、イラストレーターなどクリエーターをターゲットユーザーとしており、11インチはビジネスユースで高性能を求める人をターゲットとしている。
ここへきてiPad Air 4にすべきか、iPad Proにすべきかの結論を出す時がやってきた。画像、映像に深くこだわるのでなければ、iPad Air 4も十分に優れた性能を持っている。とてもお買い得なマシンだ。
しかし、やっぱり制作物の細部のクオリティや、繊細な使い勝手にこだわるプロクリエイターにとって、新型のiPad Pro 12.9インチは十分に選ぶ価値のあるデバイスになっていると思われる。実際に触れる機会が来るのが楽しみだ。
(村上タクタ)
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PROFILE
flick! / 編集長
村上 タクタ
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。