元バイク雑誌テストライダーが、電動キックボードの限界性能を試してみた
- 2021年06月29日
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話題の電動キックボード、日本では受け入れられるか?
USや中国では大流行しているけれど、日本では法規制上立ち位置が微妙な電動キックボード。
アメリカのように、隣の家まで何100mもあって、駐車場の中だって広く、歩道の幅だって超ワイドな国なら実用的に意味はあるだろう。しかし、日本の場合、歩道を高速で走るのは危ない。かといって、あまりに遅いキックボードが車道を走るのも危険。
元バイク雑誌テストライダーの筆者としては、その仕組み上の不安定さも気になる。前輪の直径に対して、重心があまりに高いので、フルブレーキをかけたり、前輪が路面の凹みに引っかかったりすると、間違いなく前転する……もしくは顔を地面に激突させることになるからだ。
故に、もし日本でやるなら、ちゃんとナンバーを取って車道を走れるタイプ(つまり原付一種規格)か、無免許で歩道を走れるけどせいぜい速度は10km/h少々というタイプに分けぶべきかなと思っている。
と、乗ったこともないのに考えていたら、とある親切な方が試乗させて下さったので乗ってみた! 何よりも実体験。電動キックボードの限界性能を確認して来よう!
シンプルだが、剛性感の高いガッチリした車体
乗せていただいたのは、Boosted Revというけっこう本格的なタイプ。
タイヤもフレームもしっかりしていて、両輪駆動。公開されているスペック表によると、24mph(38.6km/h)の最高速を持つ本格的なモデルだ。
おそらく諸外国では特に安全装備はないのだろうけれど、試乗させていただいたのは、日本での原付一種登録用に、ライト、ウィンカー、ホーン、ミラー、ナンバープレートをカスタマイズして取り付けたモデル。ヘルメットも被らなけれはならない。面倒がられる方もいらっしゃると思うが、こちらが現実的だと思う。経験上、転ぶ時は頭から打ち付けられるので、ヘルメットは本当につけた方がいい。
タイヤは3インチ幅のけっこうしっかりしたチューブタイヤ。ワイドなトレッドがカッコいい。
前後輪に750Wのモーターが2個入っていて、1500W。簡単にいえば、けっこうなパワー。
前後ともサスペンションはなくリジッドマウント。つまり、タイヤの空気でのみショックを吸収する仕組み。チューブタイヤなので、タイヤの空気の厚によって、けっこう操縦安定性は変わると思う。
ブレーキはモーターを抵抗に使う回生ブレーキと、後輪にのみ左手レバーからワイヤーで操作するディスクブレーキが付く。回生ブレーキ側もそれなりに効くが、効きの強さのコントロールが難しいので、全制動の時以外にはあまり使えない。対して、左側のレバーで操作するリヤのディスクブレーキはコントロールしやすいので、コーナーに入る時の速度調整など、細かいコントロールに使える。
また、こんなサイズになっても、キックボード特有の、フェンダーを足で踏んで止まるブレーキも使える。さすがに速度と重さがあるので、タイヤもフェンダーも傷みそうだが。使うとタイヤとフェンダーがこすれて『ブーン』と音がする。
モードは3段切替、スロットルはダイヤル
メーターはこちら。中央のボタンが電源で長押しすると起動。3回押すとパワーモードを変えることができいる。1はおそらく諸外国で、歩道を走る時用の15km/hぐらいまでに制限するモード。2が普通の走行の時に使うモードで、3がハイパワーモード。
スロットルは普通のバイクのように、グリップを回すのではなく、ハンドルの下にある瀬レーションの切られた丸い部分を親指で操作する。左に回せば加速。右に回せば回生ブレーキが両輪に効く。つまり、このダイヤルだけでも加減速できるということだ。ただ、なかなか親指だけでのコントロールは難しい。筆者としては、手慣れたグリップでのスロットルの方が扱いやすいと思うのだが。
このタイプのスロットルになっている理由を考えてみると、加速についていけず身体が後ろに行ってしまった場合(シートがないから、容易にその体勢になる)、グリップを握っていると、さらに加速してしまって危険……ということがあるのかもしれない。
車体全体の重さはUS仕様のスペックで20.9kg。保安部品の付いた日本仕様はさらに重い。でも、このサイズならクルマのトランクなどにも入りそうだ(かなりサイズはあるので、大きいクルマでないと無理だが)。
両輪駆動のパワフルな加速。30km/hの制限速度まで到達できる
さて、待ちに待った試乗だ! 一応、念のためにレザースーツを着たが、街ゆく人からは、見慣れないキックボードに、レザースーツという出で立ちは明らかに奇異に映った模様。
右手の親指の位置にあるダイヤルを回して、走り始める。止まってる時は右足をつくのか左足をつくのかちょっと迷う。ボードはそれほど前後長がないから、安定させようとして前後に足を開こうにも限界がある。つまり、足を開けなくて、少々不安定な姿勢。
小回りは利くし、思いのほか安定感はある。ただ、タイヤの径に対して、ハンドルがとても高いところにあるので、うかつなハンドル操作をすると、非常に車体がブレる。スケボーに乗ってるような気分で足の裏で荷重を踏みわけて、あまりハンドルは切らないように乗りたい。
小さなターン……Uターンなどの時も、後方確認のために振り返ったりすると、急にグラグラするのが難しい。身体が硬いから、後方確認のために振り返った時にハンドルに影響が出てしまうのだと思う。
最高速アタック……メーターは18〜9の表示からまだ上がっていこうとするが、マイル表示っぽいので、原付一種の制限速度30km/hはこのあたり。もっと加速できそうではあるが、一般のスクーターのように60km/hも出るという感じではなない。たぶん、限界は速度制限の少し上だろうと思う。24mph(約38.6km/h)というスペック上の最高速度は、おそらくほぼ実際の数字っぽい。
車輪の径や操縦性から言うと、このあたりの速度で十分な感じはする。レザースーツを着ているので怖くはないが、Tシャツ、短パンでも乗れる乗り物であることを考えると、ちょっと怖い。
思いの他安定感は大きい。制限速度近辺でも平滑路ならハンドルがブレたりすることはない。ただ、大きなバンプがあったりすると、やっぱりハンドルは大きく振れるから、油断はできない。また、車線変更などのために振り返ろうとすると、かなり車体は振れるので、その点はちょっと怖い。ミラーも頭の位置からすると、かなり下にあるので、素早く見るのが難しい。停車車両をよけるために、車線の右側に行くために後ろを確認するのがなかなか難しい。
とはいえ、フレーム剛性は非常にしっかりしており、ハンドルを含めて剛性感は十分。このぐらいの速度ではたわみや、フレームを原因とするフレは感じない。
フルブレーキは思い切り体重を後ろにズラしてから
一番の問題は、身体の前後移動だ。
車体に対して、非常に重心が高いので、スポーティに乗ろうとしたら、かなり派手に荷重移動しなければならない。
加速する時は思い切り前に、そして減速する時は思い切り後ろに腰を引いた方がいいだろう。多分、これが電動キックボードでの理想的なブレーキングフォーム。
写真のような、フルブレーキの姿勢をとれれば、かなりしっかり減速できる。冒頭に書いたようなつんのめる状態になるのを防ぐために、グッと体重を後ろに落とす感じだ。
身体が前に行くと減速できないので、できる限り体重を後ろに落として、スロットルダイヤルを逆側に回す。そうすると前後輪に制動がかかる。加えて左手のレバーで、後輪の制動力を追加する。
何度か練習すると、しっかり身構えて思い切りフルブレーキングをしたら、前後輪からギュギュッとスキール音がするほど急制動ができるようになった。20km/h超ぐらいの速度から、5〜6mで止まれる。
この車両に乗るなら、一般の方もフル制動の練習をしておいた方がいいだろう。短距離で止まるのはなかなか難しい。
問題なのは、この姿勢でないとフル制動できないことだ。加速している前のめりの姿勢からフルブレーキすると、間違いなくつんのめってしまう。
かといって、何かあった時に、後ろに急に体重移動してからブレーキをかけるというのも難しい。幸いにも、レバーでブレーキを操作できるのはリヤだけなので、前輪のブレーキそれ自体でつんのめることはない。それはよくできている、ダイヤルのを左右に回せるだけで加減速できるが、ダイヤルの減速はコントローラブルではない。ダイヤルでの急制動は難しい。
一方、左レバーで操作するリアブレーキはコントローラブルなので、コーナー進入時のスピードコントロールなど、制御しながらの制動に便利。
普通のキックボードのようにフェンダーを踏んで減速もできるが、この際は全体重を左足に乗せて、右足でブレーキをコントロールする格好になる。微妙なコントロールも難しいし、左足に全体重を乗せてなおかつ荷重を後ろにというのはあまり現実的ではないように思う。
華麗なコーナリングにチャレンジするために詳細テクニック
さて、コーナリングに入ろう。
コーナリングのというほどおおげさな話でもないが、この電動キックボードはかなりスムーズに曲がることができる。
まずは直線状態から、スロットルを戻し左レバーのリアブレーキで速度を減速する。
回生ブレーキはコントロールが難しく、速度制御には向かないので、コーナー進入時には使わない方がいいだろう。そしてそこから、体重移動をして旋回に入る。重心が高く小径タイヤなので、あまり大げさに体重移動すると、クルリと内側に入り過ぎてしまう。あくまでリアブレーキで速度を整えながら、ハンドルに力を入れないようにしながら、スムーズに体重を内側にかける。
オーバースピードだったら、左のレバーのブレーキで、軽くスピードコントロールすることも可能だ。
そして、旋回に旋回し、クリッピングポイントを超えたあたりでスロットルダイヤルをオン。コーナーを立ち上がる。ただし、このスロットルのレスポンスがイマイチというか、タイミングが取りずらいので、体重移動しているのにレスポンスしてくれなかったりでフラつくことがある。このあたり、ちょっと難しい。
進入時には減速のために体重を後ろに、コーナーを抜けて、加速時には前のめりに……と、安定してスピーディに走らせるには、けっこう体重移動が必要。しかし、フットボードはそれほど広くないし、ハンドルも握らないといけないからで、あまり大きく前後に体重移動するわけにもいかない(サーブボードほど大きければいいのだが(笑))。
左上→右上→左下→右下……がコーナリングのシークエンス。
まぁ、こんな風にスポーティに走らせようとする人はあまりいないかもしれないが、普通に走っていて、急制動する必要がある時に急にはできない……体重を思い切り後ろにズラしてからしか急制動ができないというのがけっこう難しい。
などと、コーナリングで試行錯誤していたら、「最後の1回」と思った時に、深くバンクさせ過ぎてサイドスタンドを地面に接地させて転んでしまった(汗)危ないのは電動キックボードではなくて、ついつい限界の走行性能を追求してしまう自分だったというオチ。
大袈裟な格好と思いながら、レザースーツにフルフェイスを使っていて良かった。口のところのエアディフレクターを壊したから、ジェットヘルだったら、顔面をアスファルトで強打しているところだった。
サスペンションがないから、どこかが接地するとあっという間にタイヤが浮いて(大きなバイクだと、どこかが接地しても、サスが伸びてタイヤが路面をホールドし続ける)しまう。みなさんも、電動キックボードに乗る時は、限界のバンク角はチャレンジしないように気をつけよう。
リスクもあるが、大きな可能性も感じた
最後に試乗にケチをつけてしまったが、両輪駆動の電動キックボードの走行性能はかなり高い。日常的な交通機関として面白い。たとえば田んぼが広がる地方とか、学研都市のような建物間に距離がある場所だとかなり便利な乗り物になるだろう。
一方、ここまで性能が高いと歩道を走るのは危険だから、ヘルメットをして車道を走る原付一種登録というのが現実的。そのあたりの区分は早めに設定されないと、歩道での歩行者との事故が増えると電動キックボード全体にとって良くないだろう。
(村上タクタ)
(最新刊)
flick! digital 2021年7月号 Vol.117
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PROFILE
flick! / 編集長
村上 タクタ
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。
デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。