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iPadとFaceTimeで、緩和ケア病棟の家族と会話できる仕組みを熊本の鶴田病院が構築

(この記事の写真のうち男性の写真は実際の患者さんではなく、再現撮影のためにスタッフの方がベッドに入って下さっています)

病院での孤独な苦痛を和らげる『家族の顔を見ての会話』

『緩和ケア』という言葉をご存知だろうか?

ガンなどの重篤な病気の治療には大変な苦痛が伴う。抗ガン剤などで体調が崩れることもあるし、痛さや、だるさや吐き気を伴う治療もある。当然のことながら大きな不安が伴う。「私はどうなるのだろう?」そんな恐怖感とも戦わなければならない。そんな苦痛を和らげる治療が緩和ケアだ。

中でも、積極的な治療を終えた、もしくは積極的な治療を望まない患者さんが、なるべく苦痛を和らげて、その人らしく生きるためのケアを行うのが、緩和ケア専用の病棟だ。

病気が進行してくると、手を動かして電話をかけたりすることもままならなくなってくる。

家族の方もなるべく患者に会いに行きたいと思っても、1日中病院にいるわけにもいかない。家族にも生活があるし、働かなければならない、家にいる家族のために家事をしなければならない。家族の入院は、家庭生活の他の部分にも大きな負担をかける。また、家族が遠方に住んでいる場合、そもそも頻繁に見舞いに来ることが出来ない。

『アクセシビリティ』で『自動で電話に出る』を設定

そんな、緩和ケア病棟の入院患者と家族のコミュニケーションのために、iPadのFaceTimeを使う試みを、熊本市の医療法人社団 鶴友会・鶴田病院が行っている。

医療法人社団 鶴友会・鶴田病院
https://kakuyuukai.or.jp/tsuruta

iPadを病床の上にアームで固定し、常時電源に接続し、FaceTimeを受けられるようにしておくのだ。

入院されてる方だと、携帯電話やiPadの着信操作ができないことも多い。素早く反応できないこともあるし、寝ている状態で着信操作をするのは意外と大変。また、高齢者の方は指が乾燥していて、タッチパネルが反応しにくかったり、フリック操作が苦手だったりして、着信操作を上手くできない方が多い。

しかし、FaceTimeであれば『アクセシビリティ』で、『自動で電話に出る』という設定ができるのだ。

そうすれば、家族は家事の合間や、仕事を終えた後の時間のある時に、いつでもiPhoneやiPadからFaceTimeを使って入院患者さんの顔を見て語りかけることができる。入院している患者さんにとって、家族の顔を見られること、声を聞けることがどれほど心の支えになるか、苦痛を和らげる力になるか、想像に難くない。

もちろん、普通に電話に出たりできる状態であれば、電話でやりとりすれば済む話だが、緩和ケア病棟ではそれができない患者さんがいらっしゃるということだ。

iPadは工夫すればさまざまな設定ができる。

一方的にFaceTimeをかけられるようにする設定だと、知らない人が電話をかけてくるのではという心配があるかもしれない。これに関しては、あらかじめ許可された連絡先からしか着信を受けないように設定できる。いつ連絡があってもいい親しい家族や友人からのみを着信するようにしておけばよいわけだ。

かけてよいタイミングや時間帯は、そのかけることを許された人が状況に応じて配慮すればいいのだが、それでも心配なときは『おやすみモード』(最新OSでは『集中モード』の中にある)の設定で、たとえば夜間には着信を受けないように設定することもできる。

このシステム、緩和ケア病棟に限らず、多くの入院患者さんの心の辛さを和らげてくれるのではなかろうか?

いつでも顔を見られる安心感と、家族の顔を見ることによる癒し

鶴田病院がこのiPad利用の便利さに気がついて導入するきっかけになったのは、起業家の外村仁さんのお母様(故人)のケース。外村さんがお母様のためにiPadを病院に持ち込んでセッティングをされたのだそうだ。

iPadを活用して、熊本市内に住んでいる娘の井上香さんご家族だけでなく、サンフランシスコに住む外村さんご家族や、ワシントンDCに住むお孫さんも、頻繁にお母様と顔を見て話すことができて、人生の最期のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を大きく向上させることができたという。

お母様が頻繁に家族の顔を見られて安心されたのはもちろん、地元に住む井上香さんも、見舞いに行けない時でもいつでもお母様の顔を見られてずいぶんと安心度が上がったそうだ。表情が見えるので「今日は調子がいいんだな」「今日は笑顔がないな」とか、お母様の様子が細かく分かり、それによって話題を選ぶこともできたそうだ。

以前だと、「何か欲しいものがある?」と聞きたい時も、病院の看護師さんを通じて伝言してもらわなければならず、気も遣ったが、FaceTimeができるうようになってからは、いつでも顔色を見ながら直接やりとりできて互いに気が楽だったそうだ。

たまたま、鶴田豊院長先生の回診だった時にFaceTimeをかけてしまったことがあったそうだが、鶴田院長はその機会を使って「昨夜お熱が出ました。眠れなかったようなので、お薬を増やしました」「昨日レントゲン撮ったら肺に水が溜まっていたので、なるべく早いタイミングで水を抜こうと思います」などと、直接病状や治療方法を話して下さったという。これはご家族にとってもありがたかったが、なるへく家族ひとりひとりに直接説明をしたいと、普段から心を砕いている院長先生にとっても良い機会だったそうだ。

また、香さんの息子さんのお誕生日の時には、誕生日パーティの場所に病院と繋いだiPhoneを置いて「ハッピーバースデー」の歌声が聞かせてあげられたという。お母様にとっても、またご家族にとっても、みんなが一緒にパーティに参加できているような感覚が味わえたそうだ。

ベットでのリハビリ時に、音大に通うお孫さんが弾くピアノの音色をFaceTime経由で聞きながら理学療法士さんの施術を受けたこともあったそうだ。家にいるような気持ちで心安らかになれただろう。

『自分らしく、尊厳を持って生きるために』と院長

「緩和医療では『手術して10日で家に帰る』というのとは違うベクトルの医療が求められます。痛みがとても強い場合もあるし、本当は家にいたい……という患者さんも多いです。しかし、重篤な患者さんのケアを24時間ご家庭でされるのはほとんど不可能です。」と教えて下さったのは、鶴田病院の鶴田豊院長。

「そんな状況でも、症状を緩和して『自分らしく、尊厳を持って生きる』ためのお手伝いをするのが緩和ケア病棟です。このiPadとFaceTimeを利用して、ご家族といつでも話せるようにするシステムは、本当に患者さんの気持ちを助けていると思います」

「コロナ禍の状況下では、緩和ケア病棟でさえ見舞いに来れない状況が続き、人生最期の時を孤独に過ごさなければならない人もいらっしゃいました。そんな状況に、このiPadのFaceTimeを使ったシステムがあれば苦痛を和らげられたと思います」

「iPadを備え付けて置くだけで、サポートの必要がほとんどないこのシステムなら運用は容易ですし、病院でもiPadを用意して、ご家族と会話ができる仕組みを積極的に展開していきたいと思っています」とのことだ。

また、病院側でも特別な機械を購入する必要がなく、普通のiPadとそれを支えるアームを用意するだけ。ご家族側もiPhoneか、iPad、Macがあれば良くて、特別な機材どころか、アプリもFaceTimeだけで完結するから非常に低コストで便利な仕組みだ。

鶴田病院では、以前から十分なネットワーク回線を用意し、入院患者が自由に使えるWi-Fiも用意されていたことが導入を助けたという面はある。詳しく話を聞くと2系統のプロバイダーからの回線を病院に引き込み、回線速度を高く保つとともに、どちらかが落ちても接続は維持できるようにされているとのことで、病院というライフラインにおけるネット接続を重視されている姿勢がうかがえた。

看護師さんにも大変好評

外村さんのお母様を担当された看護師さんにも話を聞いた。

「患者さんにとってとても良い仕組みだと思います。外村さんのお母様もご家族とお話しされたあとは、とても表情が明るくて嬉しそうでした。私たちも、ケアをしている時にはご家族とご挨拶することがあって……いつもお見舞いにいらっしゃる近くにお住まいのご家族だけでなく、遠方にお住まいの方のお顔も拝見して、『ああ、こういうご家族なんだな』って、以前より分かるようになりました」

「ご家族が日常的に話してくださったことで、家族と話せない寂しさ故の愚痴は減り、代わりに家族の話題を楽しそうに話される事が増え、見るからに患者さんのストレスが減っているのを感じました。それは結果的に、わたしたちが本来の医療行為により集中できることにつながります」

外村さんご家族にしてみると、普段看護師さんがどういうケアをして下さっているか、理解する助けにもなった。日常的に「いつもありがとうございます」と言えたのも良かったという。近くに住んでいて頻繁に世話をする家族と、遠方にいて関われない家族の間に感情的な溝が生まれることも少なくないが、この仕組みがあれば遠方の家族と近くの家族もお互いを見て話をしながら、同時に患者さんに話しかけることができる。離れて住む家族内のコミュニケーションをさらに良くするのにも役に立ったという。

必要な機材や設定方法を、鶴田病院が公開

iPadとFaceTimeの仕組み、そしてアクセシビリティの仕組みなどが非常によく考えられているから、上手に設定をすると、このような特殊な使い方にもうまくフィットさせることができる。一番安いiPad(3万9800円)でもいいし、病院にWi-FiがあればiPadを保持するアームさえあればいい。Wi-Fiがなくても、パケット通信料の安いSIMを手配すれば同等のことができる(その場合はセルラーモデル(5万6800円〜)を用意する必要がある)。

今回の事例は、緩和ケア病棟でのお話だが、入院患者と家族が顔を見て話せた方がいいのは緩和ケア病棟に限らない。通常の入院患者さんだって、いや、離れて住む家族なら誰でも、「顔を見ていつでも話せることの大切さ」をもっと見直してみてもいいと思う。

iPhone/iPadと回線さえあれば、すべての家族がバーチャルに一同に介して、顔を見ながら話すことができるのだ。FaceTimeの良さを改めて感じる取材だった。この週末、あらためてみなさんも離れて住む親や子供にFaceTimeのビデオ通話をかけてみてはいかがだろうか?

鶴田病院では、この仕組みのノウハウを同病院だけでなく広く活用すべきと考え、必要な機材や設定方法などをまとめたPDFを無償公開している。細かい設定や配慮点などはそちらをご覧いただきたい。

医療法人社団 鶴友会 鶴田病院『入院患者様のiPad・FaceTime利用マニュアル
https://kakuyuukai.or.jp/archives/27978

この方法が世の中に広まって、緩和ケア病棟の方々の苦痛が少しでも和らげられることを祈りたい。

(村上タクタ)

 

(最新刊)
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PROFILE

村上 タクタ

flick! / 編集長

村上 タクタ

デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。

デジタルガジェットとウェブサービスの雑誌『フリック!』の編集長。バイク雑誌、ラジコン飛行機雑誌、サンゴと熱帯魚の雑誌を作って今に至る。作った雑誌は600冊以上。旅行、キャンプ、クルマ、絵画、カメラ……も好き。2児の父。

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