筆とまなざし#144「クライミングから登山ルートへ。小槍から大槍への道」
PEAKS 編集部
- 2019年08月30日
小槍のてっぺんで一休みしたあと、懸垂下降をしてコルへ。見上げる曾孫槍は、小槍の上から見たよりも登りやすそうに見えました。とはいえ、堆積した岩を避けながら、あるいは慎重に押さえつけながらのクライミング。手で岩を叩き、足を乗せる前に何度か踏みつけながら、安定していそうな右寄りのフェイスを登って行きました。ロープが触れるだけで落石が起こるため、ロープの流れにも注意が必要。プロテクションを取ろうにも、浮いた岩にカムをセットしても墜落と同時に岩ごと吹っ飛ぶでしょう。登り自体は簡単なものの、少し緊張しながら40メートルほどロープを伸ばすと曾孫槍のピークにたどり着きました。下からではわからなかったのですが、そこは広いテラスになっていました。歩いて孫槍の基部へ。こちらはずいぶん岩がしっかりしていて、傾斜の強い出だし部分を越えるとホールドがたくさんある快適なスラブになりました。高さ1万尺での爽快な岩登りです。途中でピッチを切り、最後は垂直のクラックを登って尖った孫槍のピークへ。登ってきたルートを見下ろすと、曲線を描く幾筋もの沢とハイマツの緑を背景に、小槍が圧倒的な存在感で聳えるすばらしい展望が広がっていました。
孫槍のピークから少し懸垂していよいよ大槍へ。ここも容易なクライミングで快適にロープを伸ばします。すぐ右側が一般ルートになっていて、落石を落とさないように注意しながら登山者の脇を登っていきました。
頂上は登頂を喜び、写真を撮る人で賑わっていました。槍ヶ岳のバリエーションルートといえば北鎌尾根が有名で、西稜はほとんど知られていないのでしょう。クライミングギアを身につけて、頂上でビレイしていると不思議そうな顔で見られ、「ラッペル(懸垂下降)で下るんですか?」と言われたりしました。しかし、西稜はいわゆるゲレンデでのクライミングと違う、槍ヶ岳へ登るためのれっきとした「登山」ルート。登山とクライミングを分ける必要はありません。
少々渋滞しながら一般ルートを下り、テントに戻ってビールで乾杯。翌朝は朝焼けをスケッチなどしてゆっくりとすごしてから下りました。あまりの暑さには閉口しましたが、登る時間やルート、テント場を変えることでお盆の混雑をほとんど感じることはありませんでした。そして、山ってやっぱりいいなと再確認した3日間でした。
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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