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【赤岳鉱泉・行者小屋当主 柳沢太貴インタビュー:前編】従業員とつくる山小屋 〜8ヶ月の休業を決めたときと再開に向けて〜

八ヶ岳の盟主・赤岳の懐に赤岳鉱泉・行者小屋はある。営業規模からしても、またロケーションからしても、八ヶ岳を代表する山小屋である。季節問わずにぎわい、とくに冬の盛況ぶりは類を見ない。当主・柳沢太貴は、4月早々に8ヶ月の休業を決めたのち、8月から赤岳鉱泉の宿泊営業を再開した。急展開にみえる決断の真意を聞く。

梅雨が明けきらない曇り空の日。8月1日の宿泊営業再開に向けた、最終段階の準備にとりかかる柳沢太貴とともに、赤岳鉱泉へ入山する機会に恵まれた。林道終点の堰堤から歩き始めて間もなく、柳沢は硫黄岳を源とする北沢を指さし、「僕たちが作ったダムなんです。これを利用して、水力発電をしています」と説明してくれた。よく見ると、手作りの小さなダムの向こう側に黒いパイプがある。そこから沢の水を、約100m下まで落とし、発電しているのだという。

赤岳鉱泉は電力のほとんどを水力発電にたよっている。
「ここの沢が枯れることはありませんから、赤岳鉱泉の電力は豊富なんですよ。反対に大雨で水量が増して、砂利などが詰まり支障をきたすことがあります。そんなときは、回復するまでバックアップの発電機に頼ります」と柳沢は話す。詳しく話を聞くと、このような小規模の水力発電は、水量と流水角度の程度がぴったり一致しないと、なかなか難しいそうだ。太貴の父親にあたる先代の柳沢太平の時代に、業者と共に苦労を重ねて作り上げたという。

赤岳鉱泉の手作りのダム、ここから水を落とし水力発電をしている

柳沢の話は、水力発電にとどまらなかった。この小さなダムは、2年前の台風で崩壊し、その後、山小屋のスタッフみんなで修繕したのだという。

「これ以上ないぐらいの出来に仕上がっています。頑丈過ぎてもダメなんですよね。流水の力を逃がさなければいけない時もあるので。これまでの経験から、この程度が丁度良いだろうというところで、岩を組み、ネットを張りました」。「こういう作業も面白いんですよ。山小屋のスタッフ達みんなで考え、力を合わせてやるんです」

休業を決めた今年は、登山者も数えるほど、静かな梅雨の時期となった

創業60年初の休業を決意

赤岳鉱泉・行者小屋が、当初、8ヶ月に及ぶ休業を発表した考えは?

新型コロナウイルス感染が拡大するなか、どのように営業できるのか、できないのか考えました。営業するのも休業するのも苦しい選択です。後者の場合は、出費をほぼ確実に算出することができます。人件費、山小屋を維持するための管理費など。しかし、営業するとなると、その間に万が一山小屋で感染者を出すなどのことが起きた場合の損害は、計り知れないと思いました。それであれば、休業しようと決めました。11月末というのは、長い期間ではありましたが、赤岳鉱泉・行者小屋が無雪期から積雪期のシーズンに移る区切りです。

正直にいえば4月当初は、営業しながら自分たちを守ることもイメージできませんでした。自分たちというのは、自分自身と家族同様である山小屋のスタッフ達のことです。苦渋の選択でしたが、「お客様を迎え入れない」と決め、スタッフ達の雇用を確保しながら、次の手を考えようと思いました。

休業中の作業も、感染予防に気を配る

休業期間をどのようにとらえていましたか?

赤岳鉱泉・行者小屋は昨年創業60年を迎えましたが、60年間一度も休んだことがないんです。それを休むのですから、無駄にしてはならないと思いましたし、時間ができたことで、やるべきこと、やりたいことに集中できるはずだと、ポジティブにとらえていました。

傷んだ床材や外壁をはがして、新しい材料を貼ったり、木材にニスを塗ったりしました。営業を再開できる日を夢みて、お客様がより快適に楽しく過ごせるように、工夫も施しています。通常業務ですが、アイスキャンディの解体や登山道整備もしました。

それでも、営業しているときに比べれば時間があります。山小屋の周辺をずいぶんと歩きました。こんなに山小屋で生活していながら、周囲の自然に目を向ける余裕が、ほとんどないんですよね。ああ、この季節にここに来ればこんな風景を見ることができるのかと、僕自身新鮮な喜びがありました。

いつもは、赤岳鉱泉までの登山道を「通勤」するか、遭難救助のときに山に出るかぐらいです。赤岳の山頂を踏むのは、年に一度の開山祭だけ。以前は、そんなこともなかったんですが、すっかり忘れていた八ヶ岳の魅力を、再確認でき、よかったです。スタッフには、写真撮影が好きな者もいて、たくさん撮っていたようです。みな、リフレッシュする時間が作れました。

勝手知ったるはずの八ヶ岳の自然にも、新鮮な味わいがあった

毎日のご飯の時間も大切にしました。とくに夕ご飯。赤岳鉱泉・行者小屋は、スタッフの仲がよいと思いますし、それは僕の自慢でもあります。今回の休業期間中に、ゆっくりとご飯を一緒に食べて、たくさん話すことで、より一層仲が深まったと思いますし、互いを理解するよい機会になりました。バカ話もたくさんして、笑いも絶えませんでしたね。

「stay home」という言葉がありましたが、僕たちは、「stay place」と呼び、自分たちの山小屋、自分たちの場所にとどまりながら、次のステージを迎えるための充電期間としたのです。
また、もちろんのことですが、周辺で万が一の遭難事故があったときに備えて、いつでも救助に出る体制は作っていました。

team KOIのメンバーと、食事のおかわりシーンでの感染予防について意見交換中

宿泊営業再開への道のり

再開を決意できたトリガーとなったものは?

team KOIという山を仕事場とする仲間たちの集まりに参加しています。山岳ガイド、登山ツアー会社、山小屋の事業者、山岳メディア、それと野外医療や登山医学に精通した医師たちから成っています。そこで、いろんな勉強をしたり、意見や情報の交換をするうちに、少しずつwithコロナで山小屋を営業するイメージが描けるようになってきました。ほかにも赤岳鉱泉・行者小屋がお世話になっている医療従事者たちに相談もしましたし、また八ヶ岳の山小屋が集まる八ヶ岳観光協会でも情報交換などしています。

もうひとつ、僕を突き動かしたのは、お客様達の声です。7月からテント場の営業を再開することをアナウンスしたとき、赤岳鉱泉の宿泊営業が再開されるという誤解が生じたようで、たくさんの方々から、「鉱泉に泊まれるの?」「宿泊営業再開、おめでとう」と声を寄せてもらったんです。電話が鳴りやまないほどで、それには僕たち自身、驚きました。こんなにも大勢の方々が、また赤岳鉱泉に泊まりたいと思ってくれているんだということを知り、とても嬉しかったですし、期待に応えたいと考えるようになりました。

再開に向けて、とことん話し合う。よりベターな予防対策を見つければ、どんどん変えていく

再開に向けて、どんな準備を?

再開を決めた翌日から、丸2日かけて全スタッフでミーティングをしました。お客様がチェックインしてから、チェックアウトするまでの全行動と、それに伴う山小屋側の対応を追いながら、それぞれのシーンでどのように感染予防対策をしたらよいのか、どこに重点を置いたらよいのか、シミュレーションし、意見交換もしました。また、スタッフがやる仕事もすべてリストアップし、同様に感染予防対策について考えました。

へとへとになった2日間でした。けれど、これを経て、なんとか先が見えてきたのです。
具体的には、山小屋内で手指消毒の機会を増やすように工夫したり、飛沫感染予防のためにマスクの着用をお願いしたり、食堂のテーブルにはアクリル板を置いています。寝具は、「ローテーション」と呼んでいますが、一度使ったものを2日程度休ませ、万が一ウイルスがあったとしても、不活性化を待ちます。

食卓には稼働式のアクリル板を。こだわりの細工がされている

いずれの対策も、山小屋に宿泊する人たちが、なるべく気持ちよく使ってもらえるように考えました。感染予防をすることが大前提であり、もっとも重要ですが、宿泊者たちが快適に使えない施設になってしまうとしたら、それは開業する意味がないかもしれません。

ひとりの力では、大したことはできないんです。僕ひとりが感染予防対策を考えても、限界があります。だから、team KOIなどの活動には積極的に参加するし、そこで得た情報や知識は、適切な方法をもって、山小屋のスタッフや八ヶ岳の仲間たちに報告します。仲間たちがともに切磋琢磨して、よい方向へ向かってほしいし、それによってそれぞれの力も向上していきます。

これまで赤岳鉱泉・行者小屋で実施してきたイベントも同様ですが、僕たちの山小屋では、みなで考え、チームワークでものづくりをしてきました。山小屋の当主である僕自身は、みなが意見を言いやすい環境を作ること、また誰の意見であっても平等に耳を傾けることを心がけています。年齢もキャリアも全く関係ない。僕は、スタッフたち全員の意見をたくさん聞きたいと思っています。

新型コロナウイルスの感染予防はたいへんなことです。何が正解かわかりません。だからこそ、常識や前例にとらわれる必要はないと思うし、スタッフみなで力を合わせる時だと思っています。

>>後編に続く>>

【赤岳鉱泉・行者小屋当主 柳沢太貴インタビュー:後編】山は人を変える力をもっている 〜withコロナの山小屋営業を始めて〜

【赤岳鉱泉・行者小屋当主 柳沢太貴インタビュー:後編】山は人を変える力をもっている 〜withコロナの山小屋営業を始めて〜

2020年08月14日

 

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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