『米国ハイキング大全 -グレイシャー、ジョン・ミューア・トレイル、ウィンズ-』|PICK UP BOOK
PEAKS 編集部
- 2020年08月14日
reviewer 竹元直亮
南アルプス山麓の、こもれび山荘支配人。
10年来のスタッフがついに卒業。必要に迫られ米の炊き方をようやく覚えた。
「Hike Your Own Trail」
憧れのロングトレイルへ 独り立ちするための初めの一歩!
蠣が岩に張り付いたように、山小屋で一年のほとんどの時間をすごしている。それが嫌いなわけでもなく、むしろ定点観測のようなその生活を楽しんでいる。 好きな山は目の前にあり、会いたい人は向こうから訪れてくれる。 過不足なく充分な山小屋での生活。
そんな静かな生活をざわつかせている場所がある。アメリカのロングトレイル。本書が案内するその場所だ。ある友人の影響もある。 その彼は、よほど好きなのか暇なのか、時間を見つけてはアメリカ各地に広がる国立公園のトレイルをここ数年訪ね歩いている。
長い時間をかける、いわゆるスルーハイクではなく、長くても10日程度の休みを利用し、国内の夏山に出かける感覚でアメリカのトレイルを楽しんでいる。スケールの大きい景色に出合うのなら、日本の夏山登山よりもはるかに手軽で安全だと彼は言う。しかもその景色は、 国内では絶対に出合えないと。
他人が語る夜の夢と土産話ほどつまらないものはないが、毎回見せられる数々の写真と楽しげな表情に洗脳されてしまったのかもしれない。オープンに広がるカラッとした空気、日本にはないどこまでも広大なアメリカの景色が、頭の隅の方でざわめく。行けばいいのにと、息をするように旅慣れた人たちが言う。
いやいや、こちらは飛行機に乗ることさえ緊張する 山肌に張り付いた牡蠣だ。旅慣れない自分にはハードルが高すぎる。 わからないことがわからないぐらいにわからない。アクセスは? 許可証? 地図? キャンプ地は? 焚き火は? あまりにも環境の違うアメリカの国立公園事情。
調べてみるとほしい情報はネット上に存在しているが、そのほとんどが英語。じつはアメリカのトレイルを歩くための実践的な国内資料が極端に少ない。計画を立てるための情報そのものが少ないのだ。そんななか、前述した友人が 「便利な本が出版されたよ」と手渡してくれたのが今回紹介する 『米国ハイキング大全』だ。
HYOH (Hike Your Own Hike。 自分なりのハイキングをという意味)。この言葉は著者が紹介したアメリカのハイカーに伝わる言葉だ。続けて著者自身も言う、本書のすべてを取り入れるのではなく、 自分なりにと。そう、本書はアメリカを歩くための教科書であり辞書だ。書店でふと目にしてページをめくるだけではこの本の魅力は伝わらないだろう。
レンタカーの借り方からトレイルの文化まで網羅した詳細で緻密なデータは、興味のない人を拒絶するボリュームがある。しかし旅慣れない自分のような人間や、そこを歩きたい人にとってはトレイルヘッドへの近道となる。アメリカを歩くために必要な情報のすべてがここにある。だが、本書が現地での感動を薄める心配はない。 いままで読んだどんな名著も、どんなガイドブックも現実の自然には敵わなかった。どんな写真も自分の目で見た景色を超えることはなかったからだ。本書を手にしたらもう行かない言い訳はできない。ただし、結局のところ靴紐を結んで玄関を開けるのは自分自身だ。
米国ハイキング大全 –グレイシャー、ジョン・ミューア・トレイル、ウィンズ–
- 村上宣寛 著
- ¥1,700
- 枻出版社
アメリカのロングトレイルを歩くために必要な情報がすべて詰まっており、レンタカーの借り方からトレイルの文化まで遍く網羅したデータが詳細に記されている。アメリカのロングトレイルへと誘う、日本語では貴重な実践書であり教科書といえる一冊。
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- BRAND :
- PEAKS
- CREDIT :
-
文◉竹元直亮
Text by Naoaki Takemoto
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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