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だれもいない北アルプス・冬の上高地〜蝶ヶ岳

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文◉高橋庄太郎 Text by Shotaro Takahashi
写真◉加戸昭太郎 Photo by Shotaro Kato
出典◉PEAKS 2016年2月号 No.75

Winter Solo Trekking in Northern Alps

蝶ヶ岳の山頂の目の前には、穂高連峰、涸沢カール、大キレット、そして槍ヶ岳という山好き憧れの場所が一同に展開。絶景というしかない。

釜トンネルを「歩いて」抜ける。この体験が、上高地をいつも以上に外界から隔離された聖地であると感じさせる……。
そこから先はマイカー規制が行なわれ、一般車道と上高地とを隔てる釜トンネル。シーズン中はバスやタクシーで通過できるが、冬場は自分の足だけが入山手段だ。

昨年12月後半の平日、僕は釜トンネルから上高地へ入った。工事車両はときどき走っているが、僕以外に歩いている人はいない。

上高地への入口となる1,310mの釜トンネルを抜け、大正池へと続く車道を行く。僕の頭にヘッドライトがついているのは、真っ暗なトンネル内を歩いてきたからだ。

大正池を経由し、河童橋を越える。うっすらと積もった雪の上に人間の足跡は一切ない。やはりこの日に入山した登山者は僕のみだ。

ここから先、夏はあれだけ混み合う上高地は僕の独占。なんという贅沢なことだろう!
小梨平にテントを張り、ベースキャンプとする。明日は朝から蝶ヶ岳へ往復だ。降り続いていた雪はすでにやみ、好天が期待できる。

今回のベースキャンプ地は、小梨平。クッカーから立ちあがる真っ白な湯気に顔をなでられながら、豚肉やホタテを入れた鍋を食う。気温は-10℃程度と意外に暖かい。

口の中が焼けるほどに熱いモツ鍋を腹に収めると、僕は鳥の声さえ聞こえない静かな夜を過ごす。
分厚い寝袋の口の周りは、時間とともに呼気で凍りついていった。

日の出とともに行動を開始し、蝶ヶ岳へ向かう。天気は上々。穂高連峰や槍ヶ岳の絶好の展望地として名高いその山頂は、僕をきっと感動させてくれるはずだ。

徳沢から長塀尾根を使い、標高差1,100mにもなる蝶ヶ岳へと歩を進める。僕以外の足跡はなく、笹の上には前日に降った雪。体が触れるたびにサラサラと落ちていく。

これまでに何十回と歩いた小梨平から徳沢までの平坦な道。僕はすでに飽きてしまい、いつもならば走るように通過する場所である。

だが冬は違う。真っ白なカーペットのような雪の上にはかわいらしい大小の動物の足跡が残り、見慣れたはずの明神岳は雪をまとって夏以上の迫力があり、なにかと新鮮な気持ちにさせられる。こんな上高地の姿を見られるとは、雪山登山者だけの特権である。

標高2,500mほどまで登ると周囲を覆い尽くしていた樹林帯を抜け出し、やっと視界が開けてくる。見失いそうになるルートをなんとかたどれば、山頂までもうすぐ。

徳沢から蝶ヶ岳山頂までは、標高差1100m以上の登りの連続だ。なかなか雪が降らないこの冬、上高地の積雪はわずか5㎝ほどだったが、笹が生い茂る斜面を進み、凍てついた木々のあいだを抜けていくと、雪は次第に増していく。

10㎝、20㎝、30㎝……。もはやアイゼンなしでは歩けないほどだが、その反面、やっと本格的な雪山らしくなったと喜びが湧き上がる。

蝶ヶ岳山頂直下の雪原。雪は50㎝以上もあったが硬く締まり、持参してきたワカンを使う必要はなかった。背後には乗鞍岳が大きく見える。

長塀尾根から登る蝶ヶ岳は山頂直下まで樹林帯が続き、森林限界を超える部分はごく短距離だ。しかも傾斜は緩く、今回は間違いなく積雪量も少ない。何度も通ったことがある登山道でもある。

僕はアイスアックスを持参する必要がないと判断し、トレッキングポールのみで行動していた。むしろ両手に体重を分散できたほうが、この長い登り道を可能な限りラクに進むには好都合なのであった。

稜線の東側には真っ白な雲海、僕の奥には常念岳。僕は一昨年の11月にその常念岳へ登ったが、積雪量はもっと多かった。この冬は12月になっても本当に雪が少ない。

樹林帯が終わり、突然のようにハイマツ帯に変わる。とはいえ大半のハイマツは雪の中に没し、その気になればどこを歩いても山頂まで行けそうだ。だがやはり適切なルートを見定めないと、ハイマツの下の空洞に足を取られ、雪中に太ももまで捕らわれる。

バックパックの中に収納しておいたワカンを取り出そうかとも考えるが、そのうちに完全に締まった雪面を見つけ出し、大した困難もないままに山頂に到着した。

槍ヶ岳山頂の右に北鎌尾根、左に丸みを帯びた大喰岳、真下から右に表銀座コースである東鎌尾根。雪をかぶるだけで、夏とは印象が変わる。

雲ひとつない青空。純白の美しいドレスを身にまとった穂高、槍、常念の山々。真っ黒なサングラス越しにでも伝わってくる「どうだ!」といわんばかりの大迫力に、ズキンと心が鋭く貫かれる。一生忘れることができない、特別な記憶が生まれた瞬間だ。

稜線の雪は強い風で吹き飛ばされ、強烈な日光で溶けている。その結果、はるか下の上高地よりも積雪が少ないのがおもしろい。
僕はそんな蝶ヶ岳の山頂に長居し過ぎた。あとは来た道を戻るだけとはいえ、再び上高地を歩くときは夕暮れになるだろう。そろそろ急がねばならない。

足元の雪を口に放り込み、その冷たさをじっくり味わう。そして僕は下山への一歩を踏み出した。

出典

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PROFILE

PEAKS 編集部

PEAKS 編集部

装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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