なぜ、人はひとりで山を歩くのか? ソロ登山の心理学
PEAKS 編集部
- 2021年01月27日
文・写真◉森山憲一 Text & Photo by Kenichi Moriyama
出典◉PEAKSアーカイブ ソロトレッキング
山好きの心理学者が語る
――先生はソロ登山者にどんなイメージをお持ちですか?
厳島 ひとりで登っているというと、一般には社交性に欠ける人とか内省的な人というイメージがあると思うんですが、私の経験からするとむしろ逆で、アクティブな人が多いように感じています。
――「アクティブ」というと?
厳島 いろいろ自分で考えて行動できるタイプの人ですね。そういった行動力のある人のほうがむしろ多いように感じるんです。ソロ登山はすべてをひとりでこなさなくてはならないですよね。だからそういう人のほうが向いているし、もっといえばそういう人でないとできない。
よく「ひとりで山を登る人は人嫌いが多い」なんていわれますが、私はそれにはうなずけない。むしろ積極的な人のほうが多いと思っています。定量的な調査をしたわけではないので、あくまで私の印象ですが。
――年齢とか性別で、こういう層が多いというような傾向は感じられますか。
厳島 年齢とか性別は関係ないように感じています。まあ、全体的にいえば女性のほうが少ないとは思いますが、最近は若い女性のひとり歩きもよく見ますしね。だから、ソロ登山者の固定的なイメージや特徴的な傾向はいまのところとくに感じていないです。
――現実的には、周囲に山をやる人がいないとか、友人と休みが合わないからしかたなく、という人も多いと思うのですが。
厳島 それはそうですね。ひとり歩きをする人みんながみんな、積極的にソロ登山を選択しているわけではないですからね。平日は人に囲まれて仕事をしているから、休日くらいは人のいないところでのんびりしたいという人も多いでしょうし。
実際にはそういう動機の人のほうが多いくらいかもしれないから、ソロ登山者の特徴的な傾向というのがつかみにくいのかもしれませんね。
――「単独登山は危険」ともよくいわれるのですが、あえてそれをする心理はどういうものでしょう?
厳島 ソロ登山をする人は登山の能力が高いのではないかと思っています。確かにソロ登山は統計的には事故率が高いでしょうけれど、実際にやっている人たちは危険に挑戦しているつもりはないと思いますよ。能力が高いから、トラブルが起こってもそれに対処できる。
だからこそひとりで行くのだと思います。『単独行』に出てくる登山家の加藤文太郎なんか、戦前の話だというのにものすごい実力の持ち主じゃないですか。まあそれは極端な例ですし、全員が全員、ハイレベルってわけではないですが、全体的にはそういう傾向があるといえるんじゃないかと思っています。
――危険を求めているわけではないと。
厳島 ヒマラヤなどに行くトップクライマーはそういう部分もあるかもしれないけど、それはごく一部ですよね。国内の一般的な登山でいえば、ある程度山の経験を積んで、自分でいろいろ判断していくおもしろさをわかった人が選択する登山の形態ということなんじゃないでしょうか。
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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