山中に温泉が沸いている理由に迫る【Part.1】そもそも温泉ってなんだろう
PEAKS 編集部
- 2021年04月23日
温泉は日本全国随所に点在し、こと登山後に楽しめる温泉地は数知れない。それはなぜなのか? 山岳地帯に温泉が数多ある理由を探ってみたい。
文◉堀内一秀、山本晃市 Text by Kazuhide Horiuchi, Koichi Yamamoto
写真◉鈴木千花、宇佐美博之、後藤武久 Photo by Chica Suzuki, Hiroyuki Usami, Takehisa Goto
イラスト◉藤田有紀 Illustration by Yuki Fujita
監修◉関 豊(日本温泉協会) Supervision by Yutaka Seki
そもそも温泉とは
【古来、親しまれてきたニッポンの温泉】
成層火山の構造例
『古事記』や『日本書紀』、『風土記』にも記述がある温泉だが、「地中から湧き出る温かい泉」は、さまざまな文献に登場するよりも遥か昔から全国各地で認知されていた。そう、ニッポンはいわずと知れた世界有数の温泉大国なのだ。
では、そもそも温泉とは? 近世までの概念は「普通の地下水より高温の水が地表で出てくる現象」という曖昧なものだった。そこでまず1921年(大正10年)、日本薬学会協定にて「普通より高温」を水温25℃以上と定める。この数字は時代をもの語り、当時統治下だった台湾に由来する。台湾の年平均気温が、日本全土を含めた統治下の最高気温だったからだ。
その後、1948年(昭和23年)に「温泉法」を制定、より明確な定義ができる。概要は、「地中から湧出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く)で、湧出口での温度が摂氏25度以上のものか、鉱水1㎏の中に定められた物質が規定以上含まれるもの」。
要は、以下のどちらかに該当すれば温泉となる。
・湧出した25℃以上の水、水蒸気、ガス
・25℃未満でも指定成分(メタほう酸など19種類)ひとつ以上を規定量以上含む
こうした温泉は、周知のとおり全国各地に点在する。こと山中や山麓周辺には数多ある。それはなぜか? 理由を探るべく、温泉とは切っても切れない火山について、まずは見ていこう。
温泉と火山を生み出す地形
【日本ならではの地形的特徴】
地中から湧出する“温かい水”、これが温泉。では、温泉を生成するうえで不可欠な要素は? それは「水」と「熱」。このうち「熱」の供給源として温泉と深く関わっているのが、まさに火山なのだ。温泉を知るうえで、まずは火山についての基礎知識を知っておきたい。
火山フロントと活火山
日本に住んでいると、火山や温泉があったり、地震が起こったりするのは当たり前のことに思える。しかし地球全体で見てみると、火山も温泉も地震もない地域のほうが多い。だから世界的に見ると、日本はかなり特殊な国だといえる。なぜか?
それは日本列島が4つのプレートに挟まれた極めて特殊な場所に位置しているからだ。
プレート移動とタイプ別火山
ご存知のように、地球の地殻は約15の大きなプレートによって構成されていて、そのプレート同士がたがいに移動し、ぶつかったり下に潜り込んだりしている。
世界中で起こっている地震を地図にプロットしていくと、プレートの境界がみごとに浮かび上がる。そのうち、日本はユーラシアプレート、北アメリカプレート、フィリピン海プレート、太平洋プレートという4つのプレートが接する場所に位置している。
なかでも東から西に移動する太平洋プレートとフィリピン海プレートは、北アメリカプレートとユーラシアプレートの境目で下に潜り込んでいる。そのため、日本列島の東側には、日本海溝や南海トラフといった深い海が並んでいる。
このプレートの境目が地震の原因になるわけだが、同時に火山の成因にもなっている。沈み込むプレートが深く潜っていくにしたがって温度が上がり、プレートが溶けてマグマを生み出す。
マグマは比重が軽いので上昇し、それが地上に達して吹き出すと火山になる。このように沈み込むプレートによる火山を「海溝型」火山という。
火山を成因で分けるとこの「海溝型」のほか、プレートが生まれてくる場所でできる「海嶺型」、マントルからマグマが直接上がってくる「ホットスポット型」の3つがある。
アイスランドなどは「海嶺型」、ハワイは典型的な「ホットスポット型」だ。日本にはホットスポットもないし、ましてや海嶺がある場所ではないので、日本にある火山はすべて「海溝型」になる。日本海溝や南海トラフと平行に火山ラインが走っているのは、このような地形の特徴による。
温泉ができる要因にもいくつかあるが、火山の存在は大きな割合を占める。プレートの所為で地震や火山の噴火があるのは困るが、そのおかげで温泉の恩恵を受けられることもたしかだ。
♨︎ 温泉と鉱泉の違い
環境省の「鉱泉分析法指針」では、鉱泉のうち25℃以上を「温泉」、25℃未満を「冷鉱泉」と分類。鉱泉の定義は「地中から湧出する温水および鉱水の泉水」「多量の固形物質、ガス状物質、特殊な物質を含むか、あるいは泉温が源泉周囲の平均気温より常に著しく高いもの」。
要は、温泉のうち液体として湧出するものは鉱泉であり、「鉱泉分析法指針」に定める鉱泉はすべて温泉となりうる。
日本にある代表的な火山 レベル別一覧
火山はその成因によって、「海嶺型」「ホットスポット型」「海溝型」に分けられることは、先に説明したとおり。さらには、溶岩の粘度などによって異なる形状でも分類される。
何度も噴火し溶岩や灰が重なってできるのが成層火山で、富士山が代表例だ。また、噴出した溶岩が固まったのが溶岩円頂丘で、昭和新山などがこれになる。火山の岩石や灰が積もったのが火砕丘で大島の三原山などがこれに相当する。
そのほか、以前は噴火の度合いによる火山の分類もあった。大まかにいうと、現在活動している火山を「活火山」、噴火の記録はあるが現在は活動していない火山を「休火山」、噴火の記録はないが火山と思われるものを「死火山」としていた。
しかし、活火山はいいとして休火山と死火山の定義は曖昧だ。噴火の記録があるかないかといっても、有史以来の記録であればたかだか2000年程度のもの。地球の年齢は46億年といわれている。
こうした地質的時間のスケールからすれば、噴火の記録の有無がほとんど意味をもたないのがわかるだろう。
そして、休火山や死火山と思われていた火山がいきなり噴火することがあり、休火山と死火山の定義は廃止された。
さらに2003年からは、「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」を活火山として定義し直し、休火山や死火山という分類は廃止された。現在日本では111の火山が活火山とされている。
ただ、漠然と「活火山」と一括りにされたのでは現在噴火している火山も、噴火しそうにない火山もいっしょになってしまう。そこで現在では「噴火警戒レベル」という分類があり、レベル1の「活火山であることに留意」からレベル5の「避難」まで分類されている。
このレベル分けは日本気象協会のホームページ(https://tenki.jp/bousai/volcano)で見ることができるので、登山を計画する際、自分が登ろうとしている山が火山なのかどうか、またどのレベルに評価されているのか調べておいて損はない。
ただし、覚えておきたいのは、火山や地震の予測は極めて難しいということ。だからたとえレベル1の山であっても登山中に絶対噴火しない、という保証はない。
ちなみに、2014年9月にいきなり噴火して多数の犠牲者を出した御嶽山は、当時「レベル1」だったことからも予測の難しさがわかるだろう。
と、火山の成因や分類について説明してきたが、被害をもたらす火山は、温泉という恩恵もまたもたらしてくれる。
火山性ガスの注意点
噴火しない火山でも、目に見えない危険がある。それが火山性ガスだ。火山性ガスには水蒸気や二酸化炭素が含まれるが、二酸化硫黄や硫化水素など、人体に危険を及ぼすガスも含まれている。
こうしたガスは比重が高いので、窪地に溜まる傾向がある。火山性ガスの危険が考えられる場所では、とくに窪地に注意したい。窪地で倒れている人を助ける場合は自分が降りずに済む方法を考えよう。
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文◉堀内一秀、山本晃市 Text by Kazuhide Horiuchi, Koichi Yamamoto
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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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