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ハイカーズデポ土屋さんが語るウルトラライトの本質とは

日本にもすでに定着した感のあるウルトラライトというカルチャー。しかし、その言葉にはどんな意味が、その奥にはどんな歴史が流れているのだろう。「いまだからこそわかることがある」。そう切り出す土屋さんに存分に語っていただいた。

文・写真◉三田正明 Text & Photo by Masaaki Mita
イラスト◉maikoperry Illustration by maikoperry
出典◉PEAKS 2017年3月号 No.88

大事なことは軽い道具を使うことじゃなく、まず自然のなかへ行くこと。歩くこと。

ULのメリットって?

「ウルトラライトハイキング(以下UL)」って、良くも悪くも言葉のインパクトが強かったから、それで注目を集めた部分は大きかったと思います。

反面、メディアではショッキングな部分||たとえばレイ・ジャーディンが上半身裸でバックパックを片側で担いでいる写真とか、そういう過剰な部分だけが抽出されちゃうから、果たしてULは安全なのか、メリットはあるのかって話によくなるんだけど、そもそも大前提として、登山用品の歴史は軽量化の歴史ですよね?「ULにメリットがあるのか、ないのか?」って議論自体が、僕はおかしいと思うんです。

メリットしかないとは言わないけど、あることは間違いない。それはもう10年近くいろんな場所で繰り返されてきた議論だし、もうある程度結論が出ていることだから、新しい読者のためにも、もうちょっと突っ込んだ部分まで説明してあげないと、多分5年後にも「ULのメリットって?」という話をし続けないといけない。

もう、そこから一歩出ていく努力を、伝える側としてはしてもよいのかなって。正直、ULのメリットだったら、僕の本(『ウルトラライトハイキング』山と溪谷社)を読んでくれたら、そこに全部書いてあります。

「荷物が軽ければ歩くことが快適になるし、遠くまで早く行けるようになるから限界が広がる。ひとつの道具をどう使うかを考えるから発想が豊かになるし、その道具で自分が本当に大丈夫なのかどうかを考えるから自分を見つめ直せる。道具が少ないぶん、自然との結びつきが強くなる」。

それがその本に書いているULのメリット(笑)。でも今日は、これだけULという方法論が認知されてきたいまだからこそ、新しい世代のハイカーにもULの理解を深めてもらうために、少し歴史の話をしたいと思うんです。

レイ・ジャーディンとバックパッキングライト

ULの歴史は、先ほども名前の出たレイ・ジャーディンという人が1992年に『PacificCrestTrailHikerHandbook』という本を出版したときに始まっています。それはアメリカのロングディスタンストレイルを歩く人に適した方法論として書かれたものだったんですが、それが1999年に『BeyondBackpacking』と改訂されるんです。

「バックパッキングのその先」という意味を込め、より普遍的な内容に改訂したのが『BeyondBackpacking』で、この本の登場とともにULは本格的に始まった。レイ・ジャーディンはライトウェイトハイキングと呼んでいて、ULという言葉は一切使っていないんですが、いま僕らが考えるUL的なものの源泉には彼がいて、ロングディスタンストレイルがあるのは間違いありません。

と、ここまではULを語るときによく出てくる話なのですが、僕が最近思うのは、2001年に登場したライアン・ジョーダンという人が主宰するバックパッキングライト(BPL)というウェブサイトの影響も、じつはすごく大きかったのではないかということ。

1970年代から活躍する伝説的クライマーにしてULの方法論を確立した人物。現在は自身のサイトを通じて自らの書籍やULギアのキット販売も行なっている。2016年初来日し、土屋さん始め、日本のハイカーと交流した。

僕自身、これは意図的にやっていた部分もあり、反省すべき点でもあるんですが、ULは道具遊びでも数字遊びでもなく、ロングハイクのためのまっとうな方法論として始まったものなんだということを強調したいがあまり、ULの歴史を語る上でBPLについてはあまり語ってこなかったんです。

1999 年出版にされ、UL という方法論を世に知らしめた記念碑的作品。内容はロングトレイルでのすごし方からギア自作の方法まで多岐に渡る。現在は『Trail Life』と改題された改訂版が手に入る。

でも、僕がULを知った時点で『BeyondBackpacking』はすでに出版されていたし、僕らのリアルタイムはなんだったのかといえば、まさしくBPLなんですね。みんなBPLで情報収集していた。

レイ・ジャーディンのULは基本的にロングハイクでの生活をよりシンプルにするための方法論で、道具をシンプルにすれば必然的に軽くなる、という考え方。
一方、ライアン・ジョーダンのBPLは語弊を恐れずにいえば、「軽量化のための軽量化」を推し進めた。

自転車にたとえるなら、シンプルなシングルギアのピストバイクがレイ・ジャーディンで、カーボンのロードレーサーがBPL、という感じでしょうか。BBPLでは1g単位での軽量化の議論が交わされ、でも、だからこそULは広まったともいえる。

大きかったBPLの影響

そもそもロングディスタンスハイカーなんて、1990年代のアメリカでもすごく少なかったんです。それを考えたならば、そのころレイが提唱していたULを知る人はとても少なかった。BPLで行なわれていたことは週末で気軽に行けるからこそ思い切った軽量化を図れるといった実験や考察で、だからこそULがロングディスタンスハイカーの枠を超えて多くの人の間に広がっていったのではないでしょうか。ライアン・ジョーダンがいたことで、ULはロングディスタンスハイカーからすべてのハイカーのものになった。

2001年にBPLを立ち上げULカルチャーの発展に大きく寄与した立役者。一時の勢いをなくしたといわれてひさしいBPLだが現在も立派に継続中。フォーラムの過去記事もすべて読めるのでぜひチェックを。

当時のBPLでいちばん熱かったのはフォーラム(掲示板)で、「アルコールストーブこんなの作った」とか、「寝袋でこういう問題があるんだけどなんかいい方法ない?」とか、いろんなトピックが立っていて、そのひとつひとつにたくさんのレスがついていて、言葉の壁はあってもフォーラムが盛り上がっていることは日本からもわかった。BPLの功績は、じつはそういう「場」を作ったことがいちばん大きかったのかもしれません。

2005年出版のライアン・ジョーダン編集のULガイド。小指一本でバックパックを持つ表紙写真は上半身裸のレイ・ジャーディンの写真とともにULのアイコンとなった。ゴッサマーギア創業者のグレン・バン・ペスキも参加。

当時、その空気感を日本に伝えてくれていたのが寺澤英明さんの『山より道具』というブログでした。
『山より道具』を通じてBPLやさまざまな海外のガレージメーカーを知ったという人は多いはずだし、『山より道具』のコメント欄は、規模はまったく違いますがBPLフォーラムの日本版的な役割を果たしていました。

そして『山より道具』を中心に、T’sストーブの塚越利尚さんやフリーライトの高橋淳一さん、ローカスギアの吉田丈太郎さんや山と道の夏目彰さんなども集い、日本のULカルチャーの根幹がここで練られたとすると、そもそも日本のULは僕を含めて、じつはレイ・ジャーディンよりもBPLの影響の方が大きかったのではないかと思うのです。

ULのエッセンス?

僕はいま、ULに対して興味は持ってるけど踏み込めないでいる人の疑問は大きくふたつあると感じています。そのひとつめは、これは僕にも責任はあると思うんですけど、「ULはロングハイクが出自なんだ」と言い続けてきたことで、「ロングディスタンストレイルを歩かない自分たちにはULは必要ないんじゃないか」と思われていること。

でも、BPLがいかに日本のULに影響を及ぼしたかを知ってもらえれば、ULは決してロングハイクだけのものではないということがわかってもらえると思います。

ULの方法論は、もはや「あたりまえ」な時代かもしれない

そして、「ULっていわゆるULブランドの道具を使うことなんでしょ」と言われることもすごく多い。要はハイカーズデポで売っているものや山と道やローカスギアを使うのがULだ、的なイメージ。

当時のULハイカーは全員読んでいたといっても過言ではない寺澤英明さんのブログ。著書『ウルトラライトハイキングギア』(山と溪谷社)出版と前後して更新は止まっているが、過去記事はすべて読める。

ですが、昨年の秋に初来日したレイ・ジャーディンと実際に会ってみて改めて思ったのですが、彼は道具へのこだわりはないんです。もちろん、自分自身の基準や必要な機能はわかっていますが、彼の方法論は長期間にわたるトレイルでの生活をよりシンプルにしていく、その結果としての軽量化であて、BPLのようにさまざまな道具を比較検討してベストなものを選ぶようなことにはおそらく興味がないはずです。

もちろん、道具を軽くすることはULの根幹ですが、それは決してULブランドのものを使うことではありません。
実際、ULの基準とされるバックパックのベースウェイト(水、食料、燃料を除いた重量)4・5㎏以下は、現代の道具を使えばUL的な道具を使わなくてもできます。

1㎏以下のテントも、50g以下のガスストーブもある。うちの店に来なくたって、普通の店にあるものだけでもUL並みの軽量化はできるんです。まだみんなの感覚が道具の進化に追いついていないだけで、ULの方法論は、もはや「あたりまえ」な時代にさしかかっているのかもしれません。

1968 年、バックパッカーのバイブル『遊歩大全』を出版。日本では長らく絶版となっていたが、2013 年に山と溪谷社が1974 年版を文庫版として復刻した。『遊歩大全』のすばらしい序文は、ハイカーを自認するものなら一度は読んでおきたい。

ですが、これは逆説的な話になってしまうかもしれませんが、いまでも僕がお店でULブランドにこだわっているのは、たしかに一般的な道具やマスプロの道具でもUL的なメソッドはできるようになったけれど、やっぱりそこにULのエッセンスはないと思っているから。

僕がレイ・ジャーディンやBPLに感じた初期衝動こそをお客様に届けたいと思っているからなんです。「そのエッセンスってなんですか?」と尋ねられると難しいし、僕自身が感じているものと、他の人たちが感じているものも、厳密には違うかもしれない。

それでも、僕自身ULと出合うことによって独立してこういう店をやっていることもそうだし、なぜ山と道の夏目彰さんやムーンライトギアの千代田高史君のようにまったくの異業種からこの世界に飛び込んでくる人があとを絶たないのかといえば、ULにはたんなる軽量化の方法論を超えた「なにか」があるからだと思うんです。

連綿とつながっていくもの

その「なにか」を自分なりに考えてみると、ULはバックパッキングの正統な継承者だからかもしれません。レイはそもそも「もっと自然のなかへ行きなよ」ってことしか言っていないんです。大事なことは軽い道具を使うことじゃなくて、まずは自然のなかへ行くことなんだ、まず歩くことなんだってことを、すごく重視してた。

でもそれって、’70年代のバックパッキングが言っていたことといっしょなんです。ULの歴史をレイのとこをまでたどってパッと向こうを見てみると、そこにはバックパッキングの姿が見えてくる。

そしてバックパッキングの歴史をたどってみると、その向こうにはケルアックやスナイダーのようなビート文学があり、バックパッキングというカルチャーに影響を与えた人たちが見えてくる。そして、さらにたどっていくと、そのもっと向こうには、ソローやエマソンという19世紀の超絶主義の人たちがいるのが見えてくる。

超絶主義は19世紀中頃の社会不安がある時代、人間に対して超越的なものに立ち返ろう、自然に還ろう、自然のなかへ入ってなにかを得ようという運動で、それはバックパッキングにしてもレイにしても、まったく同じですよね。そんなふうに、僕にとってULはアメリカのアウトドアや自然に関わるカルチャーの大いなる系譜のなかにあるもので、だからこそおもしろいし、魅力的なんです。

そこで大事なのはスポーツじゃないってこと。ある種、文学的な行為なんです。でも山と文学って元々すごく近くて、日本でも昔は畔地梅太郎さんや辻まことさんのような人もいて、むしろ外国よりもその傾向は強かったくらいですよね。しかもそれを頭じゃなく、感覚で、体で味わうことができる。

19世紀アメリカの思想家。ウォールデン湖畔での2年間にわたる自給自足による生活実験を綴った著書『森の生活』はあまりにも有名。ナチュラリストの始祖と目されるのみならず、思想家としてはガンジーやキング牧師にも多大な影響を与える。

でも、それは別にULから始まったことではなくて、いま言ったように連綿とつながっているんです。
大げさにいえば、自分もそのバトンをつないでいきたいなって。

うちでジマービルトや山と道のザックを買ってくれている人は、見た目も含めてなにかが違うってことを感じてくれてるから買ってくれているんだと思います。でも、その向こうに今日話したようなバックグラウンドがあることも知ってほしい。

だって、たとえばヒップホップを聞いたことないのにヒップホップ風のファッションだけしているのは格好悪いでしょ?
ディグろうよって(笑)。ディグればもっとおもしろいし、たんなるスタイルを超えた自分のアイデンティティにできるかもしれない。

そのくらい、深くて長い世界がじつはつながっているんです。
これからも自分の登山にUL的な手法を取り入れていく人はどんどん増えていくと思います。それと同時に、今日話したようなことを体験したもらえる機会も設けていきたい。その両方が積み重なっていくのが理想ですね。

ハイカーズデポ/土屋智哉さん

言わずと知れた三鷹のハイカーズデポ店主にして『ウルトラライトハイキング』(山と溪谷社)著者。イベントやトークショー、製品プロデュースなども精力的に行なう日本のULの第一人者。

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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