ホーボージュンが選ぶ、2020年イチ押しのベスト10
PEAKS 編集部
- 2021年05月18日
数多くのアウトドアギアをフィールドテストしてきた全天候型ライター・ホーボージュン氏が2020年登場のマウンテンギアを大総括。なかでも絶賛する厳選10アイテムを各カテゴリーより紹介する。
文◉ホーボージュン Text by HOBOJUN
写真◉樋口勇一郎 Text by Yuichiro Higuchi
出典◉PEAKS 2021年1月号 No.134
昨年も傑作品が多かった!
僕は山岳専門誌でフィールドテスト連載をしたりギア特集を担当していることもあり、年間60〜80アイテムを現場でテストする。またプライベートでも最新モデルを使うようにしているから、新製品のリアルな使い勝手にはかなりウルサイほうだ。
2020年シーズンは一例年に比べて新製品が少なくどこか地味な印象があったが、改めてギア部屋にこもってアイテムを点検し、取材ノートを繰ってみると意外に傑作が多いことを知った。
今回の特長はモンベルの寝袋、マムートのパック、そして僕のテント(!)のようなこれまでの概念を打ち壊すブレイクスルー型の発明品だけでなく、既存のモデルを進化させたブラッシュアップ型に良品が多かったことだ。
たとえばサロモンのシューズは今年でもう第8世代を迎えるロングライフモデルだし、ニーモのマットは大ヒット商品のサイズを拡大してより広い層に対応させた。
こんなふうにユーザーの声をくみ取り、コツコツと毎年改良を続けているメーカーの製品は、ガチで信頼ができると僕は思っている。
【TENT】ホーボーズネスト2/ホーボーワークス×テンマクデザイン
自画自賛ごめんなさい! だけど最高傑作なんだわ
最大の特長はインナーテント一体構造と変形3本ポールによる設営の早さだ。設営は3分、撤収は1分で完了する。
もともとは自分の海洋遠征用にデザインしたもので(そのためにインナーテントはフルメッシュになっている)、長時間行動で疲れ果てたときや荒天時にすばやく設営して逃げ込めることを第一義とした。
フライは全面をフルフライとし、風雨の巻き込みを完全にシャットアウトして、全閉時の保温性を上げている。逆に両サイドを全開放すると風がよく通るので換気性能も非常に高い。
フロアサイズは1.2×2mで大人ふたりが就寝可能。両サイドにそれぞれの出入り口と前室を備えるので、長期遠征でもストレスのない暮らしができる。海外トレッキングや何カ月も続くような放浪旅にぜひとも使ってほしい。
【BACKPAC】デュカンスパイン50ー60/マムート
背骨の動きに合わせてフレームが左右に動く!
これまでバックパックの世界にはさまざまな革命的アイデアが登場したが、今年出たコレもすごい。
腰骨と肩甲骨の中心に当たる位置にピボットを設け、両者をファイバー製ポールで連結することで、人の動きに応じてフレームが左右に大きくたわむのである。
スパインとは人間の「背骨」を表す言葉だが、まさにフレームと背骨がシンクロする感じだ。
バックパック関連の新技術でこれほど度肝を抜かれたのはひさしぶり。ただのギミックに終わらず、これからのスタンダードになることを期待したい。
パック本体は非常にシンプルで、ゴテゴテとしたポケット類はないが、登山慣れしたベテランやロールアップ式に慣れた人には使いやすいだろう。
【RAIN WEAR】ヤリジャケット2.0&ヤリパンツ/ティートンブロス
通気性を持つ独自素材で高温多湿の日本の夏に挑んだ
ティートンブロスは最新素材を使ったウエア作りで定評があるが、今年は東レと共同開発した高透湿タイプのオリジナル防水素材を採用した。
この新素材「アクアブレス」はわずかな通気性を持ちながら耐水圧は13,000㎜以上を確保。叩きつけるような豪雨でもまったく不安がない。
個人的に気に入ったのがフードだ。顔の両サイドのドローコードを引くだけで一発で調整が完了する。
またポケットのデキもいい。内側がフルメッシュになっていて、両サイドから開けられるダブルスライダーを使うとベンチレーションとして機能する。行動しながらでも開閉しやすく、熱のこもりやすい体幹部を積極的に換気できる。同社らしい実践的な装備だと思う。
ツルギジャケットばかりが注目されるが、じつは隠れた名作なのである。
【BURNER】マイクロレギュレーターストーブ フュージョントレック SOD-330/SOTO
この際はっきり言うけど、もうこれしか勝たん!
新富士バーナーがガスストーブに「レギュレーター」を搭載して以来、ガスストーブは雪山を含む登山のメインストリームとなった。そんななか、ついに登場した“真打ち”がこの分離型モデルだ。
もともと僕は汎用性や安全性の面から一体型より分離型のほうが好きで、MSRの「ウィスパーライト」が山岳ストーブの世界最高傑作と考えていた。
だからコイツを見た瞬間に「これはヤバい」と思っていたのだが、実際の山行で使ってみると想像以上のパフォーマンスを発揮してくれ、完全に惚れ込んでしまった。
標高3,000mを超える高所や、氷点下5℃の厳寒でもまったく問題なく使える。自動点火装置は備えないが、高所でのトラブルを考えればライターのほうが実践的だ。マジでもうこれしか勝たん。
【TREKKING SHOES】XA プロ 3D V8 GTX ワイド/サロモン
18年間、8世代に渡るノウハウが込められている
トレランシューズやローカットシューズを登山に使うのはめずらしいことではなくなったが、僕も夏の日帰り山行には軽快なローカットモデルを使う。でも雨男なので完全防水構造であることがマスト。
このモデルはゴアテックスと安定感の高いシャーシで武装してあり、頼り甲斐がある。商品名の「XA」はクロスアドベンチャーを、「V8」はその8世代目を意味し、2002年の発売から18年間に渡って売られ続けている超ロングセラーだ。
僕がとくに気に入ってるのは砂塵や雨の侵入の少ない一体構造のアッパー。甲の高い僕の足にもよくフィットし、しっかりとホールドしてくれる。また製品名にあるようにワイドラストが選べる点も非常にうれしい。
僕がとくに気に入ってるのは砂塵や雨の侵入の少ない一体構造のアッパー。甲の高い僕の足にもよくフィットし、しっかりとホールドしてくれる。また製品名にあるようにワイドラストが選べる点も非常にうれしい。
極細のラインを引き上げるだけで甲全体がホールドされるレーシングタイプのレースは普段使いでもとても便利だ。
【HEAD LAMP】スポット325/ブラックダイヤモンド
モード切替ボタンを新設し、操作性が劇的に改善された
BDの「スポット」はその名のとおり、フラット照射とは別に夜B間行動に頼りになるスポット照射を備えた小型ランプ。その明るさとコンパクトな筐体のバランスから山の定番品になっていた。
しかし近年では照射モードが増え、それにともなって操作が非常に煩雑になってしまっていた。正直、しばらく使う気をなくしていた。
それが今年モデルには独立したモード切替ボタンが新設され、操作性が劇的に改善された。これでもう操作に迷うことはない。
325ルーメンという強力な明るさ、電池込みで88gという軽さ、そしてIPX8という圧倒的防水性。今季モデルは最高のデキになった。強く、明るく、コンパクト。スポットは再び定番品に帰り咲くだろう。
【CHAIN SPIKE】トレイルクランポン/ヒルサウンド
中途半端な軽アイゼンはもう要らないと思うぞ
残雪期登山や雪渓歩行になくてはならないのがチェーンスパイク。今年は全部で5モデルほどを試したのだが、そのなかで圧倒的なパフォーマンスを見せたのがこれだ。
最大の特長は大型の一体型鋼鉄プレートを備えていること。材質はS50C鋼材で、プレートには前部7本、後部4本の11本爪が備わり、雪や氷にしっかりと食い込む。
一般的な製品は爪パーツをチェーンで連結しているがこいつは一体構造でホールド感が段違い。また柔らかいブーツの動きにも追従するように前後プレートの接合部は稼働する。
本格的なクランポンの食い込みの良さとチェーンスパイクの手軽さと携行しやすさ、そしてフレックスさを併せ持つクラスを超えた製品だ。コイツの登場でもう中途半端な軽アイゼンは不要になったと感じている。
【SLEEPING BAG】シームレス ドライ ダウンハガー900 #3/モンベル
今年最大の発明品は間違いなくコレだろう
登山業界の今年最大の発明品は間違いなくこれだろう。特殊な糸を使うことでダウンの片寄りを排除し、寝袋からバッフルチューブをなくしてしまった快心作である。
最初はあまりの薄さと軽さに不安になったのだが、実際に山で眠ってみると、体温で温められた暖かい空気が寝袋全体にしっかりと対流しとても暖かい。収納サイズも非常にコンパクトだ。
僕が使っているのはシェルに防水透湿素材を使ったドライタイプ。構造上表側に縫い糸が出ない作りなので、こういう芸当ができる。シュラフカバーが不要になるのでますます便利だ。
ショートジッパーで温度調整がしにくいのが難点だが、2,000mを超える高所登山では問題ないだろう。
現在は一部の中核モデルだけだが、来年からはラインナップも拡大。今後の業界を大きく塗り替えるだろう。
【SLEEPING MAT】テンサーレギュラー ワイドレクタングラー/ニーモ
幅64cmの天国。一度眠ると病みつきになる
数あるエアマットのなかで僕がもっとも気に入ってるのがニーモ数のテンサーだ。独自のバッフル形状のおかげで底付きしにくくフワフワ揺れない。
不快なカシャカシャ音もしないし、専用ポンプサックですばやく簡単に膨らませられるので、夏山の縦走登山ではもっぱらこれを愛用している。今年から新採用された二重バルブは一気に空気が抜けるので撤収も早い。
今年はそのテンサーからワイドサイズが出た。最初は登山にはトゥーマッチだと思っていたが、重量は460gと軽く、収納サイズも悪くない。長さ183×幅64cmは一度慣れるとクセになる。
大きいベッドに寝るとシングルベッドに戻れないように、安眠感がまったく違う。シビアなコンディションになればなるほど睡眠の質は大事になるので、長期山行におすすめしたい。
【LANTERN】クールブライト・ミディアム/キャリー・ザ・サン
バッテリーインジケータを備え、もはや死角はどこにもない
ソーラーパネルを備えるのでバッテリー切れの心配がなく、小さくたためてしかも軽い。バックパックにぶら下げておけば行動中に充電できるので長期縦走にも安心。正直言ってこれ以上のキャンプ用ランタンを僕は思いつかない。大のお気に入りだ。
ただし一点だけ不満があった。それがバッテリー残量がわからないこと。充電されているつもりで持っていったが、いざ点灯したら電池切れ……というトラブルが何度もあった。
それが今年からバッテリーインジケーターを装備し、4段階で残量がチェックできるようになった。これで不意のトラブルから解放された。もはや死角はなくなったと思っている。
ちなみに最近ブランド名が「ソーラーパフ」から「キャリー・ザ・サン」に変更になったのでお間違いなく。
ホーボージュン
全天候型ライター。業界きってのギアマニアで、年間を通してすさまじい数のフィールドテストをこなす。新素材やテクノロジーにも詳しい。小誌連載「道なき道のケルン」担当。
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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