地図を読みながらの山歩きのすすめ・後編
PEAKS 編集部
- 2021年08月16日
スマートフォンやGPS機器を活用して山を登る人は増えた。紙の地図とコンパスは、ちゃんと使えるだろうか? まずは道を迷うことなく目的地に到着するための地図読みの基本ポイントをおさえたい。実際の山中で読図の知識が生きるケースを見ていこう。
>>>前編はこちらから
文◉村石太郎 Text by Taro Muraishi
写真◉松本 茜 Photos by Akane Matsumoto
出典◉PEAKS 2020年9月号 No.130
実際の山中で地図読みの技術が生きる場面とは?
運よく雨足が落ち着いてきたため、レインウエアを羽織って再び歩き始めることにする。幾度か川を右岸から左岸へ、そして右岸へと渡ると、鳥居のある綾広の滝に到着。ここからの道は渓流から離れて、徐々に高度を上げていくことになる。ふたつ目の東屋を通りすぎて、間もなくすると芥場(あくたば)峠で尾根道へと出た。ここからは目的地とした大岳山まで開放的な尾根道が続くことが地形図からわかる。
もうひとつ読み取れるのは、尾根道の西側斜面は広葉樹林帯、東側斜面は植林の針葉樹林帯が広がっていることである。芥場峠でそのことがはっきりとわかる。地形図では広葉樹林を「Q」のような記号で、針葉樹林は「V」を逆さにしたような記号で示される。この記号を地形図上で見れば、歩く場所が植林された針葉樹林帯なのか、それとも広葉樹林帯なのかがわかるのだ。なお、高山帯などで見られるハイマツ帯や笹原のほか、岩崖などの記号があるので知っておくと地形図を読むうえで役に立つ。
登山中に地図を読むときの基礎知識として、等高線が混んでいると急斜面、間隔が広ければ緩斜面ということは覚えておきたい。多くの場合、尾根道や渓流沿いの道は等高線の間隔が広く、谷間を登り下りする道は間隔が狭いところを通過することが多い。登山道の表記がジグザグに記載されていれば、そこは急登であることを意味する。また、登山地図にはポイントからポイントまでの歩行時間の目安が記載されているが、登りの時間と、下りの時間に差があるほど急登であるということだ。
芥場峠から大岳山までの道は、尾根道や尾根の脇で標高を上げずに歩くトラバース路である。そのため、あっという間に大岳山の山頂下にある大岳山荘へとたどりついた。しかし、ここから山頂までは少し急な道が続く。ちょっとした岩場もあり、山頂までは少し苦労する。じつは山頂へは寄らずに大岳山荘から引き返そうとも考えていたのだが、途中で出会った登山者から「いい景色だから、絶対に行ったほうがいいですよ」と聞いていたのだ。そこまで言われたなら、急登はイヤだけど登るしかない。そう思い、やってきたというわけなのだ。
実際、大岳山の山頂からの景色はすばらしかった。ところどころ雲に覆われた奥多摩の山々が一望でき、コロナ禍と長梅雨が続くなかでひさしぶりに清々しい気分に浸ることができた。大岳山は、御前山(1,405m)と三頭山(1,531m)とともに奥多摩三山に数えられ、200名山にも挙げられる。山頂から南面側の展望が開け、地形図とコンパスを頼りに御前山や三頭山を探した。しかし、いずれも雲に隠れてしまっているのか、見つけることができなかった。
現在地から見ている方角を割り出すのはとても簡単だ。コンパスを適当に地図上に置き、体ごと回転して磁針と磁北線が同じ方向になった景色が、地図の向きと同じ景色となる。地形図上の記号も、コンパスの目盛りや数字なども一切見る必要はない。ここでこれ以上の使い方は説明しないけれど、山頂からの展望を理解して眺めるのも地図読みの楽しみのひとつだろう。
大岳山からの展望を楽しんだあとは、歩いてきた道を引き返して、鍋割山を経由した尾根道へと向かった。分岐点に到着するたびに、地図と道標を見て正しい道を確認する。このように僕は最後まで安心せず、いくら急いでいたとしても分岐点で進む方向をつねに確認することを習慣にしている。これが道迷いを防ぐためにもっとも有効だと思っているからだ。また、途中で登山道が不明瞭になったときは迷わず引き返して、明瞭な道を探す。経験上、日本の一般登山道はどこでも明らかな踏み跡がある。倒木などを迂回するためわかりにくいところもあるけれど、踏み跡が薄くなったらほかの道があるはずだ。
たまに出くわす地図上にない分岐点では、どちらに進むか悩んだら不明瞭な道をまず下見する。だいたいは道が途中で消えてなくなっていることがほとんどだ。こうすれば、第1候補の道へと安心して進むことができる。これは僕が第2の故郷と呼び、過去20年以上も旅を続けてきた北アラスカの原野で学んだ方法だ。現地では登山道は存在せず、つねに道なき道を進む。森林限界以下のエリアでは獣道を頼りに歩くのだが、いつも不明瞭で、すぐに消えてしまう。そこで少しでも樹間の空いた明るい方向へと向かい、道が二手に分かれているときは第2候補を先に下見をしてから、第1候補へと進むのだ。こうすることで、より安心して進むことができるのである(とはいえ、第1候補もいずれは消えてなくなることは同じであるのだけれど)。
鍋割山へといたる尾根道で、もう一カ所間違えやすい地形を見つけた。これまでずっと尾根道を歩いてきたためそのまま尾根道を進むかと思っていたら、左に逸れるトラバース路になっていたのだ。尾根の方角も開けていて、そのまま尾根沿いを歩いてしまいそうだった。こうしたところは恐らく多くの人が間違えて尾根をそのまま進んでしまい、踏み跡ができていたり、林業のための作業道として使われているのだろう。低山では、こうした道も多いので注意したい。
この山行では、最後に印象的な景色と出合った。それは、御岳山の奥の院から少し下りたところで見た東京都心の景色だった。午前中に雨が降ったため空気が澄んでおり、新宿の副都心や東京スカイツリーなどがよく見えた。次にまたここを歩くときのため、僕は地形図に「展望よし」と印をつけた。ほかにも、東屋の位置や道標にあった峠の名前、道の状況などを記入した。それが上に掲載した地形図だ。こうすることで、実際に歩いた記憶とともに地形図が立体的に見えてきて、ほかの地形図を見たときにも理解力がついたように感じるのだ。もし機会があれば、同じように試してはいかがだろうか。
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文◉村石太郎 Text by Taro Muraishi
写真◉松本 茜 Photos by Akane Matsumoto
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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