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みんなちがってみんないい、あなたとぼくの勝負下着

高価なアウターウエアをいくつも揃えるのは現実的じゃないけど、ベースレイヤーならいろいろ試せる。快適に近づく、いちばん手っ取り早い方法だ。

文◉伊藤俊明 Text by Toshiaki Ito
イラスト◉佐々木悟郎 Illustration by Goro Sasaki

※この記事はPEAKS 2020年11月号 No.132からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっています。

 

ベースレイヤーはよく、もっとも重要なウエアといわれる。ウエアリングの重要事項である汗処理を担うからだ。素肌の上、レイヤリングの最下層だから「ベース」だが、なにごとも土台が大切という観点からも適切な呼び名だと思う。夏がすぎて、季節は秋から冬へ。これから、そのありがたみを文字どおり肌で感じる季節がやってくる。

いうまでもなく、素材やテクノロジーの進化は止まない。それとともにウエアも年々快適になっているが、なかでも2000年以降、ベースレイヤーは大きく変わったと思っている。

1990年代の終わりごろに、まずはウールの復権があった。もともとアウトドアウエアの定番素材だったウールは、ポリエステルをはじめとする化学繊維の台頭ですっかり影を潜めていたが、極細のメリノウールが一般的になったことでリバイバルを果たした。じかに身に付けてもチクチクしない、濡れても暖かい、着続けても臭わないなど、みなさんもその心地良さはよくご存知だと思う。さらに近年は弱点を化繊で補い、ますます存在感を増している。

メリノウールを追いかけるように登場したのが、ポリエステルやポリプロピレンを使った撥水・疎水系のウエアだ。従来のベースレイヤーの下に着て、汗の水分をすばやく肌から遠ざけようというもの。吸った汗は重ねたウエアに移して拡散する。強力な撥水性や疎水性によって「濡れ」を感じさせない。こちらもいまやおなじみだろう。

それまで主流だったポリエステル素材のベースレイヤーにこれらのウエアが加わったことで選択肢が広がり、ひとくちにベースレイヤーといってもその守備範囲は大きく広がった。シチュエーションに合わせてより細やかな着こなしができるようになった。

個人的な話をすると、夏場はウールでは追いつかないほど汗をかくので化繊一択だ。抗菌防臭加工の向上と、最近の優れた抗菌消臭剤には感謝しかない。冬は行き先や予想される天気によって使い分けている。主にテレマークスキー、たまにはスノーシューハイクやスノーキャンプでいろいろ試した末、最近は大きく2パターンに落ち着いている。寒い日用と、すごく寒い日用だ。

寒い日とは、冬の本州のよくある一日。基本的には晴れや曇りで、雪や風が一時的に強まることはあっても、荒れ続けることはたぶんなさそうという日。そんな日に、たとえばスキー場を起点として森林限界を越えないようなバックカントリーエリアに出かけるなら、撥水系や疎水系のタンクトップにウールハイブリッドのジップネックを重ねて着る。登りの程度によっては雪のなかでも結構な汗をかくからだ。寒さにも幅はあるが、組み合わせを変えたりミドルレイヤーを厚手にしたりすれば、ほとんどの場面はこれで対応できる。

それよりももう少し暖かくしたいことももちろんある。すごく寒い日。天気が悪くて風が強そうなとき、あるいは標高が高い場所や東北・北海道のような極寒地、活動時間が短かかったり停滞が長くなりそうなときも用心する。そんなときはウールハイブリッドの上にもう一枚ウールを重ねる。ワードローブの最強コンビは、北欧生まれのウールハイブリッドのメッシュとウールのワンピース。清水の舞台から飛び下りるつもりで購入したが、そのかいあって寒い思いをすることはめっきり減った。年に数度も出番はないが、ぼくの勝負下着だ。

雪が降ったり、風が吹き付けたり。同じ場所に立てば、外部からの影響はだれもが同じように受ける。しかし、外からの刺激は同じでも、体の反応は人それぞれだ。寒がりの人もいれば、汗かきの人もいる。それゆえ、ベースレイヤー選びに正解はない。信頼できる仲間が快適だといっても、あなたがそう感じるとは限らない。だから、これはと思うウエアがあれば、人の意見は気にせずぜひトライしてみてほしい。そうやって頼れる相棒を見つけたら、お気に入りのアウターを手に入れたときとはまた違う、ほっとするような満足感が得られるはずだ。

伊藤俊明

プロダクション勤務を経て独立した編集者&ライター。冬はテレマークスキー、そのぶん夏は机に向かっていたら「逆キリギリス」だって。使わせてもらいます。

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PEAKS 編集部

PEAKS 編集部

装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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