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筆とまなざし#253「怪我明け初の小川山。クラシックルート完登、そして気付けたこと」

怪我をとおして成長できたこと、ポジティブになれたこと。

医者から「登ってよし」のお許しが出てから、初めての復帰戦に小川山を訪れました。人気課題のある分岐ボルダーから金峰渓谷の涸れ沢をしばらく歩くと、小さな広場に小さなケルンがあります。鬱蒼とした森のなか、かすかな踏み跡をたどって登ると、わずかに右上した細い前傾クラックが姿を現します。1985年に初登された「ローリングストーン(5.12d)」。純粋なクラックとしては小川山でもっとも難しく、1980年代中盤に日本最難ルートが更新される過程で登られた、まさに小川山のみならず日本を代表するクラシックルートです。

10月初旬に初めて触ったものの1日では完登できませんでした。翌週、気合を入れて再訪するも以前できたムーブができない。空を見ると小雨が降っており、湿度が高いと印象がまるで違うことがわかりました。下部のナッツのセットが難しく、位置とサイズを決めるのに苦労してその日は終わり。翌週に再訪したものの、上部クラックから水が滴り落ちている有りさまで、トライすることなく別のエリアへ。その後は雨が降る日が続きました(なんと雪も!)。日が当たらないこの岩は乾きが悪く、おまけに晩秋になると寒くなる。ようやく待ちに待った晴れの周期がやってきたところで左腕を怪我してしまい、ベストシーズンを棒に振ってしまったのでした。

左手は日常生活でもできるだけ使っていなかったので明らかに細くなり、指が弱くなっているのもわかりました。この細いクラックは第一関節までかかるレイバックとフィンガージャムが主体となるため、指で耐えられるかどうかが大きなポイントになります。少しだけジムに行ったもののリハビリらしいリハビリもできないまま、不安を抱えて友人と約束していた小川山行きの日を迎えました。翌週から一気に気温が下がるため、今シーズン最後の小川山です。

すっかり落葉した森を歩き、数週間ぶりにローリングストーンを訪れました。アップを済ませて早さっそくトライ。けれどもナッツのセットに手間取りテンション。岩のコンディションは最高ですが、アップが足りないようで動きがぎこちなく、指先が非常に冷たい。プロテクションとムーブを確認してから降り、しばらく休んでからもう一度トライしました。下部の核心はうまく越えられました。けれど、上部のフィンガークラックに差し掛かると急激に指先が冷えてきました。なんとか指先を温めようとしたところで足が滑ってフォール。その後、ちょっとしたハプニングが起こったため早めに終了し、翌日に備えることにしました。

人気のない廻り目平キャンプ場。星降る夜空にはやがて大きな月が上り、葉を落とした白樺が長い影を落としていました。霜で真っ白になったテントから這い出し、屋根岩が朝日に照らされるようすを眺めながら朝食を取りました。やがて谷間に光が届き始めると、ストレッチポールとマットを持って朝日の当たる場所へ移動。暖かい光を浴びながらゆっくりと体をほぐしました。

朝は清々しい天気だったのに、ウォーミングアップを済ませると雲が広がってきました。今日の予報湿度は60%。昨日が40%くらいだっただけに岩を持った感触がずいぶん違います。一回目のトライは湿度を感じる上に指先が悴んで核心最後のピンチが止まらずにフォール。粘っただけに疲労が激しく、大休止。そして2便目。出だしから指先が滑ってすっぽ抜けそうになるのを堪えながらなんとか上部へ。さっきより指先の冷たさを感じず、滑る指先をクラックに押し込んで核心の終わりを告げるガバへ。易しいクラックを慎重に登って終了点にクリップしました。トライを始めて4日目、今シーズン中に滑り込みセーフで完登することができました。

ビビりな自分は、これまでクライミングで怪我したことはあまりありませんでした。そして焦燥感を感じたのは初めてのことでした。大した怪我ではないし、10日間で登れるようになったのだけれど、その間、いろいろなことを考えました。意外にも、もっとも大きかった変化は、クライミングに対しても絵に対しても以前よりポジティブになれたこと。ほどほどの痛みをとおして人は成長していくものだ。この歳になってそう気づけたのは、この怪我のおかげです。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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