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イヴォン・シュイナード【山岳スーパースター列伝】#02

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2015年7月号 No.68

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
今回は、アウトドアメーカーの創業者としておそらくもっとも有名なこの人。

 

イヴォン・シュイナード

いま私の手元に一枚の古いカラビナがある(カラビナは一枚、二枚と数えるのだ)。刻印が削れてほとんど読めなくなっているのだが、かろうじて「CHOUINARD」と読める。買ったのはおそらく1987年か88年。確か「ライトD」という商品名で、当時もっとも高品質とされていた一品だ。

もうとっくに現役を引退して部屋の飾りになっているのだが、このカラビナを捨てることは今後もないだろう。なにしろ伝説のメーカー「シュイナード・イクイップメント」純正の製品なのだから。

シュイナード・イクイップメントは、1960年代から80年代にかけて、クライミングのあり方をがらりと変えてしまうような革新的なギアを次々に開発していた。

それだけではない。現在のパタゴニアとブラックダイヤモンドの前身といえばその価値がわかるだろうか。パタゴニアはシュイナード・イクイップメントのウエア部門が独立したもので、ブラックダイヤモンドはシュイナード・イクイップメントそのものというか、名前が変わっただけともいえるブランドなのだ。

名前からもうおわかりだろうが、創業者は、現在はパタゴニアの会長として有名なイヴォン・シュイナード。アウトドア界ではカリスマ的な存在であり、その一風変わった経営スタイルからビジネス界でも注目を集めている。

さらに、独自の環境哲学を持ち、環境問題にも積極的に提言を続けている。その多才ぶりには驚くばかりで、著書が書店の山岳書コーナーとビジネス書コーナー両方に置かれている人物なんてこの人くらいなものだろう。

多方面で活躍しているように見えるシュイナードだが、そのモチベーションの源泉となっているのはクライミングで、生きていくうえでの知見もすべてはそこから得てきたという。

1938年生まれのシュイナードは、10代でクライミングを始め、1960年代には、アメリカのクライミングの聖地ヨセミテにたむろするクライマーのひとりとなっていた。60年代のヨセミテには、いまにして思えばオールスターともいえるクライマーが集っていた。

ロイヤル・ロビンス、ウォーレン・ハーディング、トム・フロスト、チャック・プラットなどなど。彼らが行なっていたロッククライミングは世界的にも突出してレベルが高いもので、ここで培われたノウハウがその後のクライミングの基礎になったといってもいい。シュイナードはそうしたシーンをリードするひとりとして、世界的に名声を高めていった。

同時にシュイナードは、クライミングで使うピトン(ハーケン)を自作し始める。モノ作りにも才能があったのだろう。シュイナードが作るピトンは使いやすいと評判を呼び、それを売ることで生計を立てるようにもなった。これがシュイナード・イクイップメントの始まりである。

1970年代に入ってもシュイナードは自分のクライミングを続けながら、いくつもの革新的なギアを発明する。その代表格といえるのが、ストッパーとヘキセントリック。

ピトンは同じ場所に何度も使うと、少しずつ岩を削り破壊していく。自分たちが作ったピトンによって岩が壊されていくことに心を痛めたシュイナードは、岩を傷つけず、セットも回収ももっと簡単にできるギアを求めてこれらを開発した。

しかしストッパーやヘキセン(と略して呼ぶと通っぽい)は用途がピトンとかぶるもの。当時、会社の売り上げの7割を占めていたピトンが売れなくなってしまうかもしれない。それでもシュイナードは発売を決めた。

結果、ストッパーとヘキセンの使いやすさはピトン以上の評判を呼び、クライミングに革命を起こすほどのヒットになった。

シュイナードはビジネスのリスクよりも自らの思想をとった。しかしユーザーはその思想に共鳴したからでは必ずしもなく、それが革新的に使いやすかったから買ったまでだ。シュイナードはここに、環境保護とビジネスの成長という矛盾する問題の解を見つけたのだ。

ここまで書けば、いまパタゴニアがやっていることも理解できるのではないだろうか。シュイナードは、ストッパーとヘキセンが起こした革命をいまでも求めているはずなのだ。

 

イヴォン・シュイナード
Yvon Chouinard
1938年アメリカ生まれ。1950年代から60年代にかけて、ヨセミテのロッククライミングを世界に知らしめた立役者のひとり。アイスクライミングでも独自のギアや技術を考案したことで知られる。
https://www.patagonia.com/company-history/

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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