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岳都の隠れ家料理店「もっきんどう」(長野・松本)【グルメトラバース】#001

人はなぜ山に向かうのか――。
さまざまな答えはあれど、季節ごとに変わる山の魅力を味わう、というのは万人にとっての喜びであり、経験値や体力を問わずに享受できる自然の大いなる恵みだ。
そして、豊かな山の麓には、その地の食の魅力を伝えてくれる店もかならずある。
山と食の最高のマリアージュを追い求める、とある山岳ガイドのグレートトラバース、ならぬグルメトラバースがスタート。

初冬――雪の感触を試すため、まずは西穂高岳の独標へ

毎年雪の便りがちらほらと届き出すころになると、まず頭に浮かぶのは西穂高岳の独標。山岳ガイドが初心者の方を連れて行くにも良い山だ。

冬のシーズンは途中での乗換が必要だが、松本からはバスで約2時間。新穂高ロープウェイを経て1時間ちょいの道のりで、通い慣れた西穂山山荘へ。冬でもよっぽどの大雪の時でない限りはトレースもバッチリもあり、通年営業の西穂山荘は心強いベースとなる。

そこからほんのひと登りで、いよいよ吹きさらしの北アルプス稜線となるが、丸山までの平坦な尾根がいきなり急登となり、小屋から約1時間ほどで独標の基部。夏でも鎖混じりの岩場がキツいが、積雪期は雪の付き方でその難易度は大きく変わることに注意すると良い。目の前のピラミッドピークやその奥の真っ白な稜線を眺めれば……。「あ~、これだから雪の山は止められね~」という気分になる。

さて、下りたらグビッと一杯だ。

西穂独標から見た西穂高岳~奥穂高岳方面

今夜はちょっと隠れ家に行こう……
そんなときは「もっきんどう」

もうだいぶ前になるが、涸沢ヒュッテの山口浩一さんと酒を飲んだとき、「松本で旨い日本酒がそろっていて、旨い料理が食べられるところと言ったらどこ?」という質問をした。そのとき、「もっきんどう」という名前を初めて聞いた。
もっきんどう=「木・金・土」。一週間の内、木曜日と金曜日と土曜日だけ営業しているお店ということでつけた名前だそうで、「今夜はやっているかな?」と思ったときに、なんともわかりやすく、しかも覚えやすい名前じゃないか。そして、そんな名前をつけた人の“しゃれっ気”を感じ、思わずニヤリとしてしまった。

もっきんどうを教えてくれた涸沢ヒュッテの山口浩一さん

その後、何度となくもっきんどうに通った後、いつも乗る西村ドライバーが運転するタクシーの中で、同乗のお客さんに「松本には『もっきんどう』という良い店があるんですよ……。今夜もそこに行くので楽しみです」と話したことを、次に乗ったときに西村さんがしっかり覚えていて、にやりとしながら「今夜ももっきんどうに行くんですか?」と言われてしまってびっくりしたことがある。

西村さんは以前の会話の中で初めて「もっきんどう」の名前を聞いたそうで、つまりそれだけ覚えやすい、印象に残る名前だってことで、この名前をつけた人は天才じゃないかなと思った。

ただし、いまは木金土以外の日も営業していることを付け加えておこう。

2階、3階と2フロア構成のもっきんどう。隠れ家的な3階のカウンター席で一杯。2階は3つのテーブル席とカウンター

松本で旨い日本酒とそしてなんと言っても旨い料理がそろっているのはこの店だ。そして松本という内陸の都市なのに鮮魚が旨い。これが、富山や新潟や北海道なら、鮮魚が旨いのは当たり前で、旨くない店を探す方が大変なくらい。最近は流通が極めて良くなったこともあり内陸でも質の高い鮮魚が食べられるようになったが、それにしてもここは特筆に値する。

この店に初めて行ったときに、最初の一品目で出された海胆(ウニ)の旨さは格別で、北海道以外でこんなに新鮮で臭みのないウニを食べたのは初めてだった。そしてこの最初のウニの一口が、この店に通い出すきっかけとなった。

ウニがあふれんばかりの軍艦
お作り盛り合わせ

おまかせで楽しむ大将の創作料理

そしてこの店の次の驚き(二の矢)は、大将の創作料理だ。行くたびに趣向を変えた、手の込んだ料理が出てきて毎回驚かされる。料理はすべておまかせで、次から次へと感動の料理が目の前に現れる。なかでも〆のサツマイモの天ぷらは、厚切りの芋の中の中までふっくらとしていて絶品。これは以前修行をしたお店にあった料理だということを聞いた覚えがあるが、見たときの驚き、そして食べたときの驚きが二重に味わえた。ぜひみなさんも御笑味あれ(料理はおまかせだが、予約の際にお願いすれば大丈夫)。

絶品。サツマイモの天ぷら
素材に合わせた創作料理も(キンメの煮付け)

大将の神木光さん、初めて店で会ったときから変な人だなと思ったが(失礼)、これが会えば会うほどに深みのある変な人なのだから始末に負えない。まずは神輿好き、祭り好き、神輿の上で尻を出すのが好き(?)、そして横乗り系(スノーボード)、趣味はウクレレ。他のお客様がいなくなり、気分が良いとウクレレをつま弾き披露してくれる。多趣味の経験深さが会話から想像ができ、出てくる話がすべておもしろおかしい。テンポの良い会話が弾む。

大将の神木光さん。テンポの良い会話のキャッチボールでついつい酒が進む

出身は徳島県阿南市、店を始めて16年。当初はゴルフ場のレストランとの兼務で、そちらとの兼ね合いで「木」「金」「土」のみでの営業を始めた。当時、松本には新鮮な魚が手に入らず、仕入れ先を探すところから始めたそうだ。奥様が私と同じ神奈川県横須賀市の出身で、それも話が弾むきっかけとなった。いまでは松本に行けばいろいろと行く店が増えたが、松本に着いて、「さて……」と思うと、やっぱり「もっきんどう」に足が向く事が多い。私の大事な隠れ家である。

今夜の酒とアテ

信州松本の酒「大信州/超辛口純米吟醸」(大信州酒造/長野県松本市島立)

長年培った秘伝の技でデリシャスリンゴの香味を創り出したという超辛口純米吟醸。スッキリ淡麗辛口のなかにも旨味あり、ほのかな酸味が心地よい。そしてアテは「もつきんどう・おまかせセット」。今夜は蟹と大間のマグロであった。

もっきんどう

長野県松本市中央2-3-24 米田屋ビル2~3F
TEL.080-3492-2008
営業時間:12:00〜14:00、18:00〜23:00
定休日:日曜日(不定休なので要問い合わせ)

 

 

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PROFILE

川名 匡

PEAKS / 山岳ガイド

川名 匡

「K&K山岳ガイド事務所」主宰。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージⅡ。 登山歴45年、ガイド歴25年のベテラン。神奈川県・横須賀を拠点に各地の山を飛び回る。 山業界きってのグルメ通であり、下山後のうまい酒とメシが欠かせない。

川名 匡の記事一覧

「K&K山岳ガイド事務所」主宰。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージⅡ。 登山歴45年、ガイド歴25年のベテラン。神奈川県・横須賀を拠点に各地の山を飛び回る。 山業界きってのグルメ通であり、下山後のうまい酒とメシが欠かせない。

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