山のガイドに聞いた、『夏』の自然&生物によるトラブル対処法!
PEAKS 編集部
- 2022年03月23日
都会の喧噪と暑さから逃れて多くの登山者が山に訪れる。そのため事故も起こりやすいのが夏山だ。山のガイドたちはトラブルをどのように判断し対処しているのだろうか?
INDEX
サル
農作物や観光地の土産店などの被害がたびたびニュースになるが、里山だけでなく、近年は標高の高い山岳エリアでも見かけることが多くなっているようだ。登山者がとくに気をつけたいのは食べ物。もしも猿が頻繁に目撃されているエリアであれば、休憩中の行動食や昼食などは控えるように心掛けたいところ。背後から不意に食糧を奪われることがあり、そのときに爪で引っかかれたり、頭に噛みつかれたりといった事故も起きているので注意が必要だ。
アイコンタクトは厳禁(廣田)
最近は、南アルプスの標高3,000m付近までやってきていると聞きました。犬は嗅覚で、猿はおもに視覚で判断するらしく、子猿を見つけたときなどは近寄って目を合わせたりしないこと。とくに怖いのは猿の集団です。出合ったときはアイコンタクトしないように気をつけたいですね。
食べ物には気を付けましょう(近藤)
北アルプスや南アルプス、上高地や信州では街中にも。私がガイドを行なっている山域にはどこにでもいます。稜線まで上がってきて雷鳥を捕まえていたとのニュースも聞きました。人間の食べ物の味を知っていると人を襲ってくることもあるので、とくに食べ物には気をつけたいですね。
落雷
夏山でもっとも怖いのが雷ではないだろうか? 頻繁に起こるのは6月から9月ごろにかけてだが、冬季に見舞われることもまれにある。雷を避けるためには、夏山では13時以降に稜線歩きをするようなルートを選ばないようにすること。そのうえで、14時には行動を終了するように事前計画を組む。また、万一近くで雷が落ち始めたら、アイスアックスやトレッキングポールなどはバックパックに装着するのをやめて、少しでも落雷を避けられるよう手で低く持つようにしよう。
上空の寒気という表現に注意(廣田)
ニュースなどの天気予報で、「上空に寒気があります」といった表現をするときがあります。その言葉が非常に重要で、平地は平穏でも標高が高いところでは雷が鳴る可能性が高まります。真冬でも雷は落ちますが、なかでも7〜 8月が危険性が高いといえるでしょう。
高い場所から離れましょう近藤)
山頂や尾根、稜線などの高い場所から離れることが大切です。なるべく姿勢を低くしながら移動して、低い場所やハイマツのなかに隠れたりすること。山小屋などが近くにあれば、雷と雷の間の数秒間を使って避難しましょう。緊急時は地面からの電流を避けるためパックの上に座って!
落石
比較的どこでも起こるのが落石。とくに開けたガレ場などは注意して、落石が発生しそうなところではひとりずつ速やかに通過するように心がけよう。多発地帯では、自分で落石を起こさないようにトレッキングポールは慎重に使うようにしたり、バックパックに収納したりするなどを心がけけたい。混雑している山頂付近の岩場などは登山者による落石も多いが、自然発生する落石もある。続けて起こる可能性もあるので、どこから落ちてきたのか確認も忘れずに!
落石はどこでも起こりうる(廣田)
わかりやすいのは山と高原地図などに落石地帯などと書いてあるところ。過去に事故があった場所だということでもある。傾斜30度以上の斜面であれば、どこでも落石は起こると考えましょう。自分よりも上に不安定そうな岩が見えるならば、人がいてもいなくても注意しましょう。
通過時は落ち着いて(水野)
ひとりずつ速やかに 落ち着いて通過するのが基本。待っている人は上からの落石がないか気をつけながら待機して、落石が起ったら通過中の人に伝えましょう。野生動物が落石を生じさせることもあるので、まわりの草木の音や動き、獣臭などにも気をつけたいですね。
ホイッスル
落石を知らせたり、滑落時に登山者に見つけてもらったりするためにも備えたい。
虫
世界でもっとも死者を出すと言われている蚊をはじめ、山中には不快な痒みや出血などを引き起こす害虫も多い。発生シーズンは春から秋にかけての比較的温暖な季節で、こうした時期はTシャツやショートパンツで行動したいシーズンでもある。発生エリアでは、なるべく肌を露出しない服装を心掛けよう。また、日本国内では被害に遭っても生命を脅かすことはないが、マダニなどに噛まれた場合は感染症などを引き起こす可能性があるため、医療機関で適切な処置を受けたい。
【マダニ】無理に引き抜かない(近藤)
森のなかや笹原、草むらなどは注意をして、長袖のジャケットやロングパンツを穿いて肌の露出を少なくしたいですね。とくに春から秋の間はマダニの活動が盛んなので注意しましょう。噛まれたときは体の一部が体内に残るため、無理に引き抜こうとせず医療機関へ行きましょう。
【ヒル】火を当てて落ちるのを待つ(廣田)
ヒルが多い地域でのグループ行動ならば、たがいの首周りとか見えない場所を定期的にチェックする時間を作るといいでしょう。噛まれてしまっても無理に剥がさず、ライターやタバコの火を当ててポロッと落ちるのを待つこと。裏技として男性でもストッキングを穿くと防止できますよ。
【蚊】ミントの香りがおすすめ(水野)
僕はいつもミントスプレーを使っています。ドラッグストアなどで売っているミント液と精製水を混ぜて自分で作ったものですが、ミントは強ければ強いほど効果を感じます。市販品もありますが、レインウエアなどに付着した際、防水性に影響がないか使用前に確認しましょう。
【ノミ】シュラフカバーがあると安心(廣田)
暖かく湿度が高い山域の避難小屋などに敷いてある古い畳とかで噛まれることがあります。梅雨時などで布団を干せない日が続くと、山小屋の布団などでもたまに発生してしまうようです。対処法としては、薄いものでいいのでシュラフカバーなどを持っていくといいでしょう。
【ブヨ】蚊取り線香で対処(水野)
関東地方ではブヨ、関西ではブトなどと呼ばれ、噛まれると赤く膨れあがって激しい痒みや発熱がみられます。僕の経験上、対処法は蚊やアブなどと同じで蚊取り線香が一番かな。レインウエアを着たり、厚手の服を着て防ぐこともありますが、熱中症や脱水症状にも気をつけましょう。
【アブ】車のエンジンに気を付けて(水野)
初夏、水がきれいなエリアでいっぱいいますね。僕の対処方法は、大きな蚊取り線香のような「森林パワー」という虫除けを使うこと。根拠は不明ですが黒色の服を好むということもよく聞きます。それと排気ガスが大好きなんです。登山口に到着したらすぐに車のエンジンはとめましょう。
日射
夏山でとくに気を遣いたいのが、高温多湿な状況での日射の影響を最小限に抑えること。極端に日差しが強い日には、肌が火傷をしないように長袖シャツやロングパンツを穿いたり、日焼け止めを塗るなどの対策を怠らないようにしよう。また、脱水症状が起きやすいのも夏山だ。飲料水を多めに持って、こまめな水分補給を心掛けることが大切だ。もしも汗をたくさんかいてしまったら、行動終了後は体を冷やさないためにも、乾いたウエアに着替えることを心掛けたい。
20分に1回、水を口に含む(水野)
とにかくこまめな水分補給が大切です。でも、これができない人が多いんです。僕はハイドレーションシステムを推奨していて、20分に1回は水を口に含みましょうと伝えています。それを繰り返すことによって余分な水分は汗となって出てしまうので、トイレに行く回数も減りますよ。
暑さに順応する対策を(近藤)
熱中症や脱水症予防として水分補給は当然ですが、十分な睡眠、朝食を食べてエネルギー摂取するなどの体調管理が大切です。あとは普段からの体力作り。暑さに順応できず、それだけでバテてしまいます。皮膚を露出しないことも重要です。標高の高い山は紫外線の量がすごいのです。
教えてくれた人
水野隆信さん
日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド。楽しく安全をテーマにしたオールシーズンの登山、バリエーションクライミング、渓流釣り、BCスキーのガイディングに定評がある。
廣田勇介さん
日本山岳ガイド協会認定登山ガイドやカナダ雪崩協会の雪崩業務レベル2などの資格をもち、スノースポーツや登山、山岳信仰と銅像にまつわる撮影で知られている。
近藤浩子さん
日本山岳ガイド協会認定登山ガイド、信州登山案内人、応急手当普及員。南アルプスや北アルプスエリアを中心に、参加者の要望にあったガイドを行なうことで人気。
※この記事はPEAKS[2021年3月号 No.136]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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