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チャールズ・コール 【山岳スーパースター列伝】#15

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2018年9月号 No.106

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
クライミングシューズ界の革命家であり、ステルスラバーの開発者が今回の主役。

 

アウトドアにおいて、滑りにくい靴の重要性は、日常生活よりはるかに大きいものとなる。なにしろ、野山の路面はただでさえ滑りやすいうえに、一歩滑ったらあの世行きというシチュエーションも珍しくないからだ。

ミリ単位の足場に全体重をかけることもあるロッククライミングでは、それはとりわけ重要な機能となり、ときに、ほかがすべてダメな靴でも、ソールが滑りにくいという一点だけでユーザーに支持されることもあるほどだ。

そしてまさに、滑りにくさ(=フリクション)の向上に人生を捧げ、フリクション一点突破で世界的なシューズメーカーを築き上げた人物が、「ファイブテン」の創業者、チャールズ・コールである。

コールは、「ラバーキング」(ゴムの王様)と呼ばれるほど、滑りにくいゴムの開発に偏執狂的な情熱を傾けた。彼が作った「ステルスラバー」は登場からすでに30年以上がたつが、いまだにフリクションNo.1の座を他に譲っていない。

近年はさすがに聞かなくなったが、一時は、他のシューズメーカーからスポンサードを受けているクライマーが、ソールだけこっそりステルスラバーに張り替えて使うということも広く行なわれていた。それくらいステルスの威力は圧倒的だったのだ。

ブリヂストンやグッドイヤーなどの世界的タイヤメーカーが開発に乗り出せば、ステルスを超えるラバーなどあっという間にできるのではないかともいわれていたが、そんなことがささやかれていた時代からすでに20年以上、それはまだ登場していない。

コールによれば、一時期、グッドイヤーが実際に開発を行なったことがあるらしいのだが、途中で挫折したという。岩の上で滑りにくいゴムというのは、ただやわらかくすればよいのではなく、岩の粒子に的確に食い込む性質も必要で、その配合には、ゴムと岩の両面を知り尽くした人物による職人的なさじ加減が重要なのだという。

なぜコールにだけそれができたのか。それは、コールが、大学で機械工学を学んだエンジニアであると同時に、ヨセミテなどのビッグウォールで名を馳せたクライマーでもあったからだ。

古いクライマーであれば、エルキャピタンの「ジョリーロジャー」や「スペース」、ハーフドームの「クイーン・オブ・スペード」などのルート名に聞き覚えがあるだろう。どれも強烈に難しく、これらをひとつでも登ればクライマー間で一目おかれるようなルート。その初登者はコールである。

ヨセミテのガイドブックを開くと、随所に「First Ascent : Charles Cole」という記述が出てくる。そしてそのほとんどがおそろしく難しいルートばかりなのだ。

その経験を生かしてステルスラバーの開発に成功し、クライミングシューズ界の頂点に駆け上がっていったコールとファイブテン社であるが、世界的ブランドとなった後もどこか素人っぽさが残る会社だった。ロゴデザインは垢抜けないもので、広告ビジュアルは人を食ったようなパロディチックなものが多かった。

ガレージブランド的なこういうセンスは会社が大きくなっていくにつれて洗練されていくものだが、ファイブテンはずっとこうだった。これは創業者であるコールの意図であったらしい。1970年代のアナーキーなヨセミテカルチャーで育ったコールには、こうしたパンキッシュなセンスが肌に合ったのだろう。

素人っぽかったのはPRセンスだけではない。製品自体が、ソール以外は他メーカーに全然かなわなかった。フィット感は適当で、アッパーはすぐに壊れた。ソールさえよければ、あとはどうでもいいといわんばかりのアンバランスな靴作りだった。

それでも人々はファイブテンを選ばざるを得ない、ステルスラバーの圧倒的性能。まさにゴム一点突破でビッグブランドの座を勝ち取ったのだ。

そのステルスラバーがどうしても欲しかったのか、2011年にアディダスがファイブテンを買収。コールは買収後数年はファイブテンの仕事を続けたが、じきに会社を離れ、大好きな物理と数学の研究に余生を費やしていたらしい。

「余生」と書いたのは、2018年7月14日に亡くなったからである。享年63。

フリクションで革命を起こした男、ラバーキングの早すぎる死を残念に思うと同時に、その一生に敬意を表します。

 

チャールズ・コール
Charles Cole
1955年~2018年。アメリカ・ヨセミテ渓谷などで多くの難ルートを初登し、ビッグウォールクライマーとして世界的に知られる。1985年にファイブテン社を設立。圧倒的なフリクション性能を持つソールをはじめ、ベルクロシューズやダウントウシューズなどを開発し、クライミングシューズ界に数々のイノベーションをもたらした。

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

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