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望月将悟 【山岳スーパースター列伝】#32

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2018年2月号 No.99

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
「究極の山岳レース」で無敵を誇るウルトラスピード登山家がこの人である。

 

「ミスターTJAR」の登場である。

TJARとは、「トランス・ジャパン・アルプス・レース」の略。北・中央・南アルプスを踏破して、日本海から太平洋まで縦走する究極の山岳レースだ。その総距離は約415km、所要時間は1週間前後。ミスターTJARは、このレースを4連覇し、大会記録保持者でもある。

所要時間は1週間前後と書いたが、このレースと同じコースを、登山の標準的なコースタイムで歩いたとすると、26日ほどかかる計算になる。一方、ミスターTJARの最速記録は4日23時間52分。しかも全テント泊だ(実際にはツエルト使用だが)。

通常の登山者の5倍のスピードで山を歩き(いや、走り)、日本アルプスほぼ全山縦走を、5日間のちょっと長い程度の山行にしてしまう男。それがミスターTJAR、すなわち望月将悟その人である。

望月は1977年の生まれ。仕事である消防士としての訓練の一環で登山を始め、短い休暇を最大限に利用することとトレーニング強度増大を目的として、山を走って踏破していた。

国体の山岳競技出場をきっかけに、2000年ごろからトレイルランニングレースにも出場してメキメキ頭角を現す。石川弘樹や鏑木毅、横山峰弘らが日本のトレイルランニング黎明期を支えた第一世代だとすれば、望月は第二世代にあたる有望ランナーのひとりとして注目されていた。

国内のメジャーレースで数々のタイトルも獲得したが、望月が他のランナーと趣を異にしていたのは、「超長距離」に関心を向けていたことだ。

トレイルランニングレースでは、160kmというのがひとつの目安になっていて、ほとんどのレースはこの距離以下に設定される。山道を160kmというだけで普通の人には十分長いが、トップランナーはこれを20時間くらいで駆け抜けてしまう。つまり、基本1日(24時間)で終わるのがトレイルランニングの標準であるわけだ。

それ以上の距離になると、さすがに一気に走り抜けるわけにはいかず、休息も必要だし、食事や睡眠を含めた行動戦略や生活技術も重要になる。となると、トレイルランニングというより登山に近いものになってくる。望月は、ここに自身の適性と関心を発見した。

2008年に、南アルプスでTJARの選手に出会って刺激を受け、2年後の大会に出場。初出場ながらいきなり大会記録で優勝。以降、他を寄せ付けず、2016年まで4連覇を重ねている。この間、ヨーロッパの「トル・デ・ジアン」という330kmを踏破する山岳レースにも出場。日本人として当時の最高位を記録した。

あまり知られていないかもしれないが、2015年には、40ポンド(約18kg)の荷物を背負ったフルマラソンの世界記録(3時間6分16秒)も打ち立てている。

望月のパフォーマンスとしては余興的なものともいえるが、そうだとしても18kgである。登山をやっている人なら、18kgの荷物がどれだけ重いか、体感的に知っているはず。それを背負って42.195kmを3時間ちょいで走りきるとは。スマートに山を駆け抜けるだけではない、悪条件にも強いブルドーザーのような馬力を感じさせるエピソードだ。

世界には、トレイルランニングで頂点を極めた一方で、エベレストにも驚きのスピードで単独登頂を果たしたキリアン・ジョルネという怪物がいる。ジョルネは、トレイルランナーというより、オールコンディション対応の総合マウンテニアー。望月にも、枠に収まらないジョルネ的な総合力の高さを感じる。単純なアスリートというより、懐の深いマウンテニアー、あるいは総合格闘家ならぬ総合登山家という肩書きがふさわしいように思うのである。

望月はレスキューの専門家である消防士として、南アルプスで山岳救助隊員も務めている。生まれは南アルプスの麓の山村である井川。山で育ち、山を仕事の場とし、そこを舞台に他の追随を許さないパフォーマンスを続けている。

きっと彼は、アスリートを引退することはあっても、山から離れることはないのだろう。まさに山の申し子というにふさわしい人物なのである。

 

*この記事執筆後の2018年8月、望月さんは全食料・全飲料水を背負った「無補給」でTJARを完走しました(6日16時間7分)。これはある意味、最速記録4日23時間52分より難しい究極の記録。トレイルランニング・アルパインスタイルの完成形といっていいと思います。

 

望月将悟
Mochizuki Shogo
1977年、南アルプスの麓にある山村、静岡県井川に生まれる。高校卒業後、静岡市消防局に入局し、トレーニングの一環として登山を始める。消防署の業務で山岳救助隊も務めるかたわら、トレイルランニングレースにも積極的に出場。とくに長距離レースで強さを発揮し、TJARでは2010年から2016年まで4連覇。2017年には個人チャレンジとして、静岡市境235kmを踏破する「AROUND SHIZUOKA ZERO」も完走している(所要5日間)。
https://www.facebook.com/ShogoMochi

 

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

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