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闇雲な軽量化は危険。装備選びの基本は足元から、軽量な登山靴を選ぶときの注意点

山登り装備の土台となる登山靴の軽量化についての疑問をたずねるため、千葉県習志野市にある山とスキーのアウトドアショップ「ヨシキ&P2」を訪れた。店長の別所さんに聞く軽量な登山靴を選ぶ際のポイントとは。

文◉村石太郎 Text by Taro Muraishi
写真◉柏木ゆり、村石太郎 Photo by Yuri Kashiwagi, Taro Muraishi

体力や経験、荷物の重さと山行に応じた登山靴選びが重要

軽量な登山靴について教えてくれた「ヨシキ&P2」店長の別所義文さん。すべてではないものの、同店では今回紹介したモデルの多くを扱っている

「接客でお客さんの話を聞いていると、やっぱり普通の登山靴がいいですね、となることは結構ありますよ」

軽量な登山靴選びについて相談すると、千葉県習志野市にあるアウトドアショップ「ヨシキ&P2」店長の別所さんはこう答えた。

SNSで見るテント泊登山者の多くは、最新の軽量装備を身にまとった姿で投稿写真を飾っていることが多い。そんな姿を見て突き進む、自身の体力や技術、経験値にマッチしない闇雲な軽量化には危険がともなう。とくに登山をするうえでの土台となる登山靴選びをおろそかにしては、思わぬ事故にも繋がりかねない。

「いまはなんとなく登山でも軽装の流れになっていますよね。そうした要望には応えつつ、でもやっぱりお客さんの体力や経験、荷物の重さと山行に応じた登山靴選びが重要だと思うんです。正直、あえて軽い登山靴をすすめることはしません。話を聞いて、ちょっと不安だなと思ったときには、一般的な登山靴をすすめることが多いかもしれませんね」

別所さんは、足元を軽量化する大前提として、装備全体の軽量化を挙げる。たとえば従来どおり15㎏前後のテント泊装備を背負って数日間の縦走登山に出かけるのであれば、700~800gほどのミッドカットの登山靴をすすめるという。

今回紹介している500g前後の軽量モデルならば、装備を12~13㎏程度には抑えるほうが安心だ。さらにアプローチシューズやトレイルランニングシューズを選ぶならば、水や食糧を含めても8㎏以下にした超軽量な装備が必要となるだろう。ただし、これも登山者の経験値や体力によって変わってくる。

「店内の階段を登り下りしてもらって、ちょっとバランスが優れないなと感じたら、軽い登山靴はあまりおすすめしていません。または、ずっとスポーツをやっているとか、毎日走っているだとか、自転車をやってるといった方でなければ不安かもしれないですね。それと、若い人だったらバランスがいいので、柔らかなソールを備えたモデルでもいいと思うんです。でも年齢を重ねて40代や50代になってくると、徐々にバランス感覚も低下してきますからね」

こうした理由から「軽い靴がいい」と来店しても、やはり「しっかりしたものが安心ですよ」と話すこともあるという。とくに若いころに登山をしていて、ひさしぶりに登るというような登山者は、想像以上に脚腰などの筋力が衰えてきていることが多い。

「うちはどちらかというと昔ながらの登山靴のすすめ方をしているほうだとは思いますが、登山靴はしっかりとした、シチュエーションにあったものがいいと経験上思うんです。あえて軽い靴をおすすめすると不安材料になりますからね。個人差もあると思うんですが、靴に頼っちゃったほうが安心です。自分のバランスと力でリカバリーできればいいんですが、岩場などで足首を捻挫したり、筋力が追いつかないと下りでヒザを痛めてしまったりする原因にもなりますからね」

それぞれのモデルには特徴や対応する山行スタイルなどを明記したPOPもつけられていて非常にわかりやすい

そのいっぽうで、登山靴を軽量化するメリットも大きいとも話す。現代の登山靴はゴアテックスファブリックなど、高い防水性を発揮する素材を用いることで、比較的薄手のアッパー素材を採用することが可能になった。驚くほどのグリップ力を発揮するアウトドア用のソールのほか、樹脂製のTPUプレートをミッドソールに内蔵することで、疲労の原因となる地面からの突き上げ感を軽減することにも成功している。さらに足型の研究も進み、より確実に足をホールドできるよう進化してきた。

こうした工夫を取り入れることで、登山での歩き方も変わった。以前は片方で1㎏あるような重登山靴を振り子のように振って歩いていたが、最新の軽量登山靴はまるでスニーカーのように軽快に歩くことを可能にしている。

その理由のひとつがソールの屈曲性にある。従来の登山靴はカカト部分に大きな段差があり、ソールも固くて屈曲しにくい。こうした登山靴は重い荷物を背負ったときに体がブレにくく、長時間歩いたときの疲労感も軽減するようにつくられている。かたやトレイルランニグシューズは軽量で、屈曲性が高いソールは足裏感覚に優れ、素早く軽快に歩くことができる。足首も同様で、強固に固定されていると一歩一歩確実に歩くような動作になるものの、ある程度の自由があればストレスも少なく、足が前に出やすくなる。

「たとえば上高地周辺の道を歩くときは靴を変えたくなったりしますよね。北アルプスの縦走路なども同様ですが、比較的平坦な登山道を長く歩くときは重い登山靴ではなくて、軽いシューズで軽快に歩きたくなるんです。足の自由が奪われていないほうが疲れにくいんですよね。足首もきつく固定されてなければ、足どりも軽やかに進むことができるんです。若くてスピードが出せそうな人だったら、バランスも取りやすいと思います。ただ、斜度が増してきて岩場が増えてくると、岩に乗る際につま先で踏ん張る状況が多くなり、そんなときにソールが曲がってしまうと滑り落ちてしまいます。そうならないためには足裏に力を入れるのですが、そこを靴に頼れたほうが疲れにくい。さらに大キレットなどであれば、今度はさらにしっかりとしたライトアルパインブーツのような登山靴のほうが歩きやすいと思います」

そんな話をしつつ、店内の登山靴コーナーにずらりと並べられた軽量な登山靴を、別所さんは一つひとつ手に取りながら特徴をていねいに教えてくれた。そして最後に「軽いことはいいことだとは思うんですけれど、それには自身のスキルや体力面としっかり相談をしてほしいと思います」とアドバイスしてくれた。

軽量化のための工夫もさまざま

現代の登山靴は軽量化のためさまざまな工夫を取り入れている。重厚な皮革を使わずに高いフィット感と防水性を確保するアッパー素材を用い、ミッドソールのTPUプレートを軽量化しながらも地面からの突き上げ感を軽減するなど、趣向が凝らされている。

500g前後の軽量ミッドカットシューズには皮革と防水透湿性素材を組み合わせたモデルも多い(左)。これが400g前後になると、より軽量なナイロン素材などを採用することがほとんどだ(右)

アウトソールに見る歩き方の違い

登山靴やハイキングシューズと、トレイルランニングやアプローチシューズとの大きな違いはソール面にも見ることができる。カカト部分に大きな段差がある登山靴では、より高い安定感を得ることができる。その真価は重い荷物を背負い、長い下り道で発揮される。

通常の登山靴では左の写真のようにカカト部分に大きな段差をもつソールが採用される。いっぽう、より柔軟さがほしいアプローチシューズでは写真右のようにフラットなソールが有効だ

目的が異なれば、つくりも異なるもの

見た目の違いは少ないが、トレイルランニングシューズとアプローチシューズには異なる目的がある。アプローチシューズは岩場で立ち込む際につま先を安定させるため、先端までシューレースが伸び、ソールにもクライミングソーンが備わるなどの工夫がされている。

右がアプローチシューズ。左はトレイルランニングシューズで、前足部は軽量化のため、必要最低限の保護機能が備わる。運動量が多いため、アッパーも蒸れにくいものがよく用いられる

 

※この記事はPEAKS[2021年5月号 No.138]]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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