【後編】総距離37㎞、越えるピークは12座。ロング&ハードな1泊2日の大縦走。「大菩薩連嶺北南ファストトリップ」
PEAKS 編集部
- 2023年02月28日
カモシカスポーツのファストパッキング隊長、茂垣亮馬さんのアドバイスで装備のスリム化に成功した編集部員・カトウ。新調した装備を携え、茂垣さんとともに向かうは南北に峰々が連なる山梨の大菩薩連嶺。
いままでよりもっと速く、遠くへ――という体力無視の無謀なチャレンジは、果たして成功するのか?
編集・文◉PEAKS編集部
写真◉宇佐美博之
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ガス、強風、まさかの霧氷。季節が戻り、気持ちも冬眠モードに。
――ガス、強風、そして、霧氷。
穏やかだった昨日から一転、大菩薩峠まで登ったふたりに待ち受けていたのは、厳冬だった。
「予報は晴れだったはずなんですけどね……」
浮かない、というかほぼ無表情でつぶやくカトウ。
「滝雲に包まれちゃってますよね。待てば抜けると思うんですが、もうちょっとかかるかもしれないですね」
日の出を拝んで出発、のはずがまさかの展開に。しかし、大菩薩峠でしばらく待っていると、かすかに太陽が顔を現してきた。好転の兆しだろうか。
「そろそろ」と期待しながら白い世界を進むが、そのそろそろがなかなかやってこない。そのまま石丸峠を過ぎ、天狗棚山を越え、狼平へ。この狼平は、だだっ広いササの平原が広がる大菩薩連嶺のなかでも有数の見どころ。しかし、依然としてガスが抜ける気配はない……。
「まあ、まだこの先いい場所もたくさんありますし、行程も長いのでこのまま行きましょう」そうカトウに語りかけ、茂垣さんは歩みを進める。小金沢山の登りの樹林帯。ここで、そろそろがやってきた。ガスが抜け始め、コケと針葉樹の森に日が差し込む。まるで長い冬を抜け、春がやってきたかのようだ。
ロボットのように表情を失いかけていたカトウの顔にも少し笑顔が戻ってきた。心なしか軽くなった足取りで進み、あっという間に小金沢山のピークに到着。日は差すものの、まだまだ気温が低く、風も残っている。早出で朝ごはんをゆっくり食べる時間がなかったこともあり、山頂で湯を沸かし休憩することにした。ここでカメラマンの宇佐美さんが伝家の宝刀のごとくホットサンドクッカー(重量約500g)を取り出し、行動食のパンを焼いてふるまい始めた。
「とりあえず焼いたらなんでもうまくなりますから。お茶といっしょに食べてくださいね」
軽量なふたりの装備には存在しないチートアイテムと、仲間を思う心遣いのおかげで、すっかり身も心もほぐれたふたり。入れ替えたクロスオーバードームの重量630gに迫る不要不急なホットサンドクッカーだが、結局のところ、背負えるだけの体力があれば、細かい重量にとらわれる必要はないのだとあらためて気付かされる。軽さは正義、ではなく健脚は正義なのだ。
すっかり旅も終盤のような気になってくるが、この時点ではまだ2日目の行程の5分の1程度。山頂からの富士の展望を目に焼き付けて、笹原を進み次なるピークに向かう。
牛奥ノ雁ヶ腹摺山、黒岳――。
次々とピークを踏んでいくが、登頂を喜ぶというよりは、通過点を進むという雰囲気になってきた。そして次の山、白谷ノ丸へ。この山頂からはこれから歩く稜線を含む南側の大展望が広がる。このあとグッと高度を下げて湯ノ沢峠に下れば、今日の前半が終了だ。ちょうどここまでが、小金沢連嶺の北部とされている。
避難小屋、トイレ、水場がある湯ノ沢峠へ。時間にはまだ余裕があるので、ここでまた休憩。ファストパッキングでなければ、ここでもう1泊というスケジュールも良いが、今日は長く、速く歩き、さらに10㎞以上先にある初狩駅を目指す。半ば部活、あるいは修行のようになってきた感はあるが、体力はまだ十分。気持ちを入れ直して次なるピークの大蔵高丸を目指す。
結果よりも、その過程にこそファストパッキングの妙味が詰まっている。
湯ノ沢峠から大蔵高丸までは100mちょっと登るものの、そこからは次第に高度を下げながらハマイバ丸、大谷ヶ丸、そして今日の最終ピークである滝子山へと稜線が続いている。この小金沢連嶺の南部も展望は良好。ただでさえ先週の立山で焼けていた茂垣さんの顔がさらに黒くなってきた。秋田出身、美白が自慢のカトウの顔もほろよいのような赤ら顔に。2日間の行動時間の長さが、ふたりの顔からも感じられる。
そろそろ、カトウの足取りが……とはならず、ちょっと疲労感は見えるものの、変わらず茂垣さんの背にピッタリと張り付いて、サクサクと歩き続けている。軽量化と元からの体力、両方の賜物なのだろう。体育会系的な根性も兼ね備えた、今回の挑戦にふさわしいチャレンジャーであった。
滝子山からの下り。次第に樹木の緑が目立ち始め、今朝の厳冬から一転、まるで春の様相を呈してきた。山々から望む富士の展望は美しかったが、今日の一番のハイライトは、長く歩くことで感じられた自然の変化と感情の揺れ動き。どれだけ歩いたかという結果より、その過程にこそファストパッキングの妙味が詰まっているのかもしれない。
「今朝寒かったのなんて、だいぶ昔のことみたいですよね。下りたらとりあえず、コンビニでアイスを買いましょう!」
KATO’S COMMENT
テント泊装備でこれだけ長く、速く歩いたことがなかったので少ししんどかったですが、普段より装備が軽かったからこそ無事に歩ききれたような気がします。茂垣さんにおすすめしてもらったアイテムも私に合っていて、好みを推測して選んでくれたんだなとあらためて感じました。今後さらに装備を見直して、こういう山行を楽しんでいきたいと思います。合わせて体重も減らさないとですね……。
一歩ずつ富士に近づきながら、稜線をつなぎ歩く。北から南へ。大菩薩連嶺大縦走
盟主は標高2,057mの大菩薩嶺。このエリアは首都圏からのアクセスが良く、日帰りで歩かれることが多いが、稜線をつなげば40㎞近くのロングルートとなり、のんびり2泊3日でも、ファストパッキング的に1泊2日でも、自由に楽しむことができる。
スタートは鶏冠山登山口(1,150m)。もちろん南の初狩駅(458m)からも歩くことはできるが、標高差を考えると北からのほうがラクで、さらに駅がゴールであれば多少下山時間が遅くなってもアクセスには困らない。南に位置する富士山を眺めながら歩けるというのも南進の大きなメリットだ。
ルート上にとくに危険箇所はなく、健脚な人であれば問題なく完踏できるが、天候悪化や体調不良の際は福ちゃん荘からさらに下った上日川峠、湯ノ沢峠、米背負峠からエスケープするのがベター。行動時間が長く、アップダウンもそれなりにあるので、初日、2日目ともに早出で余裕をもった行動ができるように注意しよう。
- 【DATA】
- 1日目:鶏冠山登山口~丸川峠~大菩薩嶺~福ちゃん荘
- 2日目:福ちゃん荘~大菩薩峠~小金沢山~湯ノ沢峠~滝子山~初狩駅
ACCESS
鶏冠山登山口まで4月下旬~ 11月下旬の土日祝日は塩山駅から山梨交通のバスでアクセスできる。平日であれば塩山駅からタクシーを利用。下山時に利用する初狩駅近くにはコンビニがあるので、食事や飲料の補給が可能。
ADVICE
稜線のルートなので水場が乏しい。途中、少し下れば何箇所かは水場があるが、時間のロスにもなるので2日目は福ちゃん荘でしっかりと補給を。そのためにも余計な荷物は減らし、なるべく軽めにしておきたい。
※この記事はPEAKS[2021年6月号 No.139]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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編集・文◉PEAKS編集部 Text by PEAKS
写真◉宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami
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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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