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<2000年代アルパインクライミングの王> スティーブ・ハウス 【山岳スーパースター列伝】#58

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2014年5月号 No.54

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
2000年代アルパインクライミングを代表するキングの素顔を紹介しよう。

 

スティーブ・ハウス

2014年3月、アルパインクライミングの世界的権威となる賞、「ピオレドール」の授賞式があった。賞を獲得したのは、スイスのウーリー・ステック、そしてカナダのラファエル・スラヴィンスキーとイアン・ウェルステッドの2組。とりわけ、ステックが行なった「アンナプルナ南壁28時間ソロ」というのは、近年のヒマラヤ登山の記録のなかでも図抜けたもので、授賞式以前から絶対本命視されていた。

このステックのパフォーマンス以前、2000年代の10年間を代表するクライミングだったのが「ナンガ・パルバット南壁(ルパール壁)アルパインスタイル」である。標高差4,000m以上、世界最大の岩壁ともいわれるこの壁を、たったふたり、わずか8日間で往復してきたのが、アメリカのスティーブ・ハウスとヴィンス・アンダーソンである。

2014年のピオレドールは、「アルパインクライミング界最強」の座が、ついに世代交代を迎えたことを感じさせるものとなったわけだ。

今回の主題は、ステックの登場以前、2000年代のアルパインクライミングを牽引した最強王、スティーブ・ハウスである。パタゴニアのカタログやウェブサイトで、尋常ならざる目力でこちらを見据える白黒写真の彼、といえば思い当たる人も多いかもしれない。

猛禽類のようなその表情からは、激しい性格を想像する人も多いだろう。数々の過激な登攀実績がその印象を後押しする。

しかしそのイメージのまま本人に会うと拍子抜けするはずだ。おとなしく、もの静かな人物がそこにいる。髪型や服装も目立った特徴がなく、地味とさえいえる印象なのである。

多くの人が集まるパーティのような場では、隅のほうで特定の人と静かに話しているだけで、精力的にあいさつしてまわったり、自分から場の中心に出て行くことは決してない。「あの人、来てたっけ?」というような人が、どんなパーティにもいるが、ハウスはまさしくそんなタイプの人物なのである。

私はこれまで3回、ハウスに会ったことがある。初めて会ったのは2007年。3回目は2014年のピオレドールの発表がある直前のことだ。その3回とも、ハウスの印象はまったく変わらなかった。「静かな人」である。

静かなだけではなくて、会話があまり得意でないらしい。アメリカ人というと、相手の目を直線的に見てオーバーアクションとともに機関銃のようにしゃべるステレオタイプなイメージがあるが、ハウスはまったく逆。会話はどこかぎこちなく、視線も一定しない。これはなじみのある反応だと思って気がついたが、内気な日本人そっくりなのだ。自分でも「話すのはうまくないんだ」と照れくさそうに言っていた。

「アルパインクライミングの王」がこういう人物であることは意外な話に聞こえるかもしれない。しかし実際は、ハウスのような性格はシリアスなアルパインクライマーには珍しくなく、日本の山野井泰史などもこういう控えめなタイプだ。

これは私の推測なのだが、彼らは日常の生活においてある種の欠落感を抱いているのだと思う。命の危険さえともなうハードなアルパインクライミングは、強烈な意思の力を必要とする。アルパインクライミングではテクニックよりも精神面のほうがはるかに重要で、最終的に成否を左右するのは渇望感の強さだ。

日常生活で満たされない思いが強い人であるほど、山で爆発力のあるクライミングができるのではないか。社交的ないわゆる「リア充」には過激なアルパインクライミングはできないのだ。身もふたもない言い方ではあるけれど、これは真実だと思っている。

私はハウスという人物にその典型を見た。つねに控えめなハウス。そこからは想像しづらいが、であるからこそ、彼は山で大爆発できる本物に違いない。

 

スティーブ・ハウス
Steve House
1970年生まれ。アメリカ出身のアルパインクライマー。学生時代にスロベニアに留学し、当地の先進的なアルパインクライミングとクライマーコミュニティにふれる。山岳ガイドとして活動するかたわら、1990年代後半から、アラスカ、ペルーアンデス、カラコルムなどで数々の初登攀を記録。少人数・速攻を旨とするライト&ファストなアルパインクライミングの盟主として知られる。ナンガ・パルバットルパール壁の初登攀で2006年にピオレドールを受賞。

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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