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蔵王 御釜

五色に輝く御釜を愛で、蔵王連峰をめぐる|山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記 Vol.5

温泉大国ニッポン、名岳峰の周辺に名湯あり! 
下山後に直行したい“山直温泉”を紹介している本誌の連載、「下山後は湯ったりと」。

『PEAKS No.165』では山形最古の湯、蔵王温泉にて“はしご湯”を満喫しました。
今回は、そんな温泉と同じく歴史の深い山々、蔵王連峰へ——。

紅葉やスノーモンスターが見られる観光地としてはもちろん、修験道の霊山としての姿もあるというこの山域。
晴天無風のグッドコンディションのもと、古来の行者もたどった修験の道をめぐります。

山直温泉の記事・情報は
『PEAKS 5月号(No.165)』の
「下山後は湯ったりと」のコーナーをご覧ください。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉山本晃市(DO Mt.BOOK)

地図にはない歴史ある山、蔵王連峰

真っ白な山を埋め尽くす樹氷(オオシラビソ=アオモリトドマツ)群。巨大なスノーモンスターを右に左に避けながらスキーで山を下る。そんな冬の蔵王を象徴する景観を体感したのは、遥か昔、学生時代のことだ。残念ながら、現在は滑走禁止。とはいえ、眺めるだけでも幻想的な世界に惹き込まれていく。

いっぽう、新緑はもちろん、夏山、紅葉の蔵王もまたすばらしい。山形・仙台両市からのアクセスがよく、シーズンを問わず多くの人が訪れる。観光地としても名高い蔵王だが、地図を見ると“蔵王”という単独の山はない。山形・宮城の両県にまたがり、東北地方中央部を南北に連なる奥羽山脈の一部を成す火山群、この一連の岳峰を総称して蔵王と呼ぶ。正確をきせば、蔵王連峰となる。

歴史を振り返ると、蔵王はかつて不忘山(わすれずのやま)と呼ばれていた。現在の名称は、天武天皇の時代、大和吉野の金峯山(きんぷせん)から不忘山山頂に分祀された蔵王権現に由来する。蔵王権現は修験道開祖の役行者(えんのぎょうじゃ)により刈田嶺神社奥宮に奉還されたとする説があり、以後、この地は多くの行者が訪れる修験の場となった。

権現(権=仮の姿)とは、仏や菩薩が化身して現れた日本ならではの神のこと。いわゆる本地垂迹説によるものだ。蔵王権現は修験道の御本尊、正式名称は金剛蔵王権現(金剛蔵王菩薩)となる。ちなみに奈良吉野の金峯山寺は、修験道の総本山。大峰千日回峰行者の塩沼亮潤大阿闍梨が修法されている名刹として知る人も多いのではないだろうか。

御釜
▲蔵王カルデラ、五色岳に囲まれた火山湖、御釜。五色に変化する水を浮かべる。
刈田嶺神社 奥宮
▲刈田嶺神社奥宮。蔵王町の刈田嶺神社里宮と蔵王権現を夏場と冬場で季節遷座する。

刈田岳山頂より、かつての修験道をゆく

さて、山を歩こう。今回のスタート地点は、蔵王エコーラインから続く蔵王ハイラインの終点、蔵王刈田岳山頂駐車場。すでにここで、標高1,720m。最高標高地点の熊野岳まで高度差約120mという「水平志向」の旅にありがたいスポットだ。
駐車場の目の前に建つレストハウスには、レストランや売店、トイレがあり、いつも多くの観光客や登山者でにぎわっている。登山情報コーナーもあるので、天候や火山に関する最新情報をここでチェックしてスタートする。

レストハウスを出たら、まずは標高1,758mの刈田岳(かっただけ)へ。緩やかなスロープを登り、10分ほど歩けば刈田嶺神社奥宮が建つ山頂だ。ウォーミングアップにちょうどいい。

刈田岳山頂からは、これから歩くルートの前半部分を一望できる。約3万年前の火山活動により形成された五色岳の蔵王カルデラ、神秘的な水をたたえる御釜、その左側には御釜を見下ろすように馬の背が横たわる。
目の前に広がる荘厳な景観、見上げれば心地よい青空が広がっている。晴天無風、異常なし。清涼な気に満ちた奥宮に一礼し、かつての修験道を刈田岳山頂から歩き始める。

※蔵王エコーライン:夜間(17時~翌朝8時)通行止め(4月下旬開通後~5月上旬、10月中旬~11月上旬冬季閉鎖)。冬季(11月上旬~翌年4月下旬)通行止め。

刈田岳
▲刈田岳山頂へ向かう舗装されたスロープ。写真中央が、山頂に建つ刈田嶺神社奥宮。
刈田岳 山頂 展望
▲刈田岳山頂からの眺望。周囲約1km、直径約330mという御釜、馬の背の全貌を見わたせる。

神秘的な御釜を眺め、熊野岳、地蔵山へ

刈田岳山頂からの下り、右手を見下ろすと、御釜がみるみるうちに大きくなってくる。熊野岳へと続く広々とした鞍部、馬の背を少し進むと、御釜を見下ろす断崖沿いに敷かれた遊歩道への分岐に出る。そのまま真っ直ぐ進むのが最短ルートだが、分岐を右に曲がり、御釜へと近づく。

眺める角度の違いや陽光の加減、季節によって、御釜の水はいくつもの不思議な彩を魅せる。水面だけでなく、周囲の火口壁も微妙に表情を変えていく。五色岳とともに、御釜が五色湖とも呼ばれるゆえんがここにある。

御釜と蔵王カルデラの移ろう景観を眺めながら、馬の背をさらに進む。少しずつ道が広がり、鞍部から山の斜面へと入っていく。稜線上に建つ熊野岳避難小屋を右前方に見上げつつ、分岐を左に進めば、蔵王連峰最高地点にほどなく到達する。標高1,841m、熊野岳山頂だ。

見晴らしのよい山頂には熊野神社(蔵王山神社)が建ち、凛とした気に満ちている。小さな境内で手を合わせ、ここで2回目の参拝。熊野神社は本宮となる瀧山(りゅうざん)の離宮で、蔵王温泉にある酢川温泉神社(口ノ宮)とともに三社一宮となる神社。時間が許せば、下山後の温泉とともに三社参りをするのもいいだろう。

御釜 遊歩道
▲なだらかな馬の背のトレイルから御釜へと向かう遊歩道。指定エリア以外は立入禁止。
熊野岳 熊野神社
▲広々とした熊野岳山頂の一角に建つ熊野神社。山形の歌人、斎藤茂吉の歌碑もすぐそばに。
熊野岳山頂
▲熊野岳山頂より地藏山方面を望む。山形盆地と最上川、遠くには月山も拝める。

さらに進み、熊野岳山頂からガレガレの急坂を慎重に下り、鞍部に出る。途上、ワサ小屋跡で足が止まる。ワサ小屋は、かつて「おワサ」さんという老婆が小屋番をしていた小屋。さらなる昔、熊野神社参拝最後の登り口となるこの地で、土地を司る神官が参拝者に水を提供していたという。そんな場所を守る通称「姥神ヤマンバ」様の石像がここに建つ。現在の石像は、発見時に首のなかった「ヤマンバ」様に改めて頭と顔を再生し開眼したものだそうだ。

そんなワサ小屋跡の「姥神ヤマンバ」様にも一礼し、再び歩き始める。鞍部の登り返しはけっこうな急登だが、距離は短い。ここを登り、小ピークをひとつ越えれば、標高1,736mの地蔵山山頂だ。刈田岳、熊野岳と同様、さえぎるものは何もない。南北40kmにも及ぶ山形盆地や月山をはじめとした出羽三山の山並みが眼前を埋め尽くす。

地蔵山山頂からは急な石段を一気に下り、蔵王地蔵尊へ。大きなお地蔵様は、1775(安永4)年に建てられたもの。当時の道は険しく遭難が絶えなかったが、お地蔵様が祀られた以後、遭難者が減ったという。そんなありがたいお地蔵様にプチ巡礼最後のお参りをして、往路終了。

熊野岳 景色
▲熊野岳山頂から地藏山方面を望む。傾斜の厳しいガレた岩場の先に平坦な鞍部が広がる。
ワサ小屋跡
▲熊野岳と地蔵山を結ぶ鞍部の途上に位置するワサ小屋跡。「姥神ヤマンバ」様の石像がある。
地蔵山山頂
▲木道が敷かれた地蔵山山頂へと向かう稜線上のトレイル。右前方の開けた地が山頂。
蔵王地蔵尊
▲訪れる者を見守る蔵王地蔵尊。厄除け、諸願成就の地蔵尊として多くの信仰を集める。

お地蔵様の周りにあるテーブルでランチをいただき、スタート地点へと折り返す。復路は、地藏山、熊野岳のピークを踏まずに巻き道を歩く。斜面をトラバースするため急登がない。木道と石畳の登山道を散策気分で進み、ワサ小屋跡を経て、熊野岳稜線上の避難小屋へ。

避難小屋から再び御釜を横目に馬の背をのんびり歩けば、まもなくレストハウスに到着する。往復3~4時間程度。ちなみに蔵王地蔵尊から蔵王ロープウェイを利用すれば、一気に蔵王温泉に降りることも可能だ。

蔵王古道
▲蔵王地蔵尊からワサ小屋跡へと続く巻き道、蔵王古道。部分的に木道が整備されている。
蔵王 馬の背
▲避難小屋下から見渡す、馬の背の全景。穏やかな稜線の左側底部に御釜がある。

 

山行&温泉data

コースデータ 蔵王連峰

コース:蔵王刈田岳山頂駐車場~刈田岳(刈田嶺神社奥宮)~御釜展望台~馬の背~熊野岳(熊野神社)~ワサ小屋跡~地蔵山~蔵王地蔵尊~ワサ小屋跡~熊野岳避難小屋~馬の背~蔵王刈田岳山頂駐車場
標高:1,841m
コースタイム:約3~4時間
距離:約8km

下山後のおすすめの温泉 山形県/蔵王温泉大露天風呂・共同浴場

蔵王温泉大露天風呂
▲「蔵王温泉大露天風呂」。6~10月の特定日には夜も特別営業(要問い合わせ)。
蔵王温泉 共同浴場
▲「共同浴場」下湯。小屋の外に無料の足湯と手湯がある。こちらももちろん温泉。

■蔵王温泉大露天風呂
山形県山形市蔵王温泉853-3
TEL.023-694-9417(蔵王温泉観光)
入浴時間:日帰り 平日9:30~17:00 土日祝9:30~18:00(最終受付いずれも30分前)
定休日:例年11月下旬~4月中旬まで冬季休業
入浴料:日帰り700円(大人)
泉質:強酸性硫黄泉
アクセス:蔵王刈田岳山頂駐車場より車で約40分

■蔵王温泉共同浴場
山形県山形市蔵王温泉45-1(共同浴場上湯)
山形県山形市蔵王温泉30-2(共同浴場下湯)
山形県山形市蔵王温泉43-3(共同浴場川原湯)
TEL.023-694-9328(蔵王温泉観光協会)
入浴時間:日帰り 6:00~22:00
定休日:無休
入浴料:日帰り200円(大人)
泉質:強酸性硫黄泉
アクセス:蔵王刈田岳山頂駐車場より車で約40分

 

山直温泉の記事・情報は
『PEAKS 5月号(No.165)』の
「下山後は湯ったりと」のコーナーをご覧ください。

 

▶「山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記」一覧はこちら

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PROFILE

山本 晃市

PEAKS / 編集者・ライター

山本 晃市

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

山本 晃市の記事一覧

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

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