厚底+デカ底で、後半のバテを抑えるハイキングシューズ「ホカ/アナカパ 2 ミッド GTX」|これからの山道具図鑑Vol.3
PONCHO
- 2024年09月12日
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ロード、トレイル、そしてハイキング、ウォーキング、リカバリー等、さまざまなシューズを手掛けているシューズブランドの「HOKA」(以下、ホカ)。2009年にフランスで誕生し、現在はアメリカを拠点に展開している。トレイルでの下りを快適に走り抜けるために開発された高い衝撃吸収性を装備した厚底ソールを世界で初めて採用。以来、フツーとは異なるソール形状、機能を纏ったシューズを開発している。その熟成を感じさせるのが、今回取り上げるアナカパ2ミッドGTXだ。
このシューズは、リサイクル素材やサトウキビ由来のミッドソール、PFCフリーの撥水加工等、環境配慮製品でもあり、斬新な機能と合わせて、これからの山道具として紹介するのに、ぴったりだろう。
編集◉PEAKS編集部
文◉ポンチョ
写真◉長谷川拓司
ホカ厚底が日本上陸したときのこと
ホカが日本で話題になったのは、2010年の日本山岳耐久レース、通称ハセツネCUPで、そのシューズを履いた契約ランナーが優勝したことだった。筆者はトレランも好きで、奥多摩全山、距離71.5キロを制限時間24時間で踏破するハセツネを、過去に7回完走している。その年は雑誌の取材でゴール地点にいて、厚底シューズを掲げてゴールしたフランス人ランナーの姿を目撃した。
分厚いソールを装備した「ホカ オネオネ(当時はそう呼んでいた)」は、驚きとともに、「あの厚さは問題ないのか?」「あれで走れるのか?」「いったいどんな履き心地なんだ?」と、懐疑と興味も入り交じった感想が多く囁かれたのを記憶している。
斬新、固定観念の払拭、それがホカのおもしろさ
そのハセツネ以来、厚底シューズといえばホカだった。しかし、保守的な日本の山文化に対して柔軟だと思っていたトレイルランニングシーンでも、厚底はあまり浸透しなかった。またロードランニングでも、相変わらず「足裏感覚」を重視した薄底シューズが一般的だった。
流れが変わったのは2017~2018年のマラソンシーズン。ナイキが手掛けた厚底が、ロードランニングシーンで一世を風靡した。ナイキの厚底は、ミッドソールの厚さだけでなく内蔵されたカーボンプレートによる反発力の高さを装備。ホカのアイデアを進化させて、スピードを提供するシューズになっていた。
キワモノ扱いだった厚底シューズは、一気に市民権を得て、トレイルランニングでも愛用者が増えた。そして厚底経験者が増えてきた2020年、ホカは2010年の日本上陸時と同じくらいの衝撃を私たちに与えた。
ホーバークラフトにヒントを得たという、あり得ないほどにヒール部分が延長されたアウトソールを装備したトレランシューズ「テンナイン」とハイキングシューズ「テンナイン ハイクGTX」の発売だ。
しかし、そのカタチから想像できる通り、上り階段等はカカト着地となり、いつもよりも早い着地でヒールが引っ掛かるため、苦手。反面、緩やかな斜面やフラットなトレイルではヒールから押し出されるような推進力を感じられるシューズだった。
大胆な機能を、体感しやすいカタチに昇華
- アナカパ2 ミッドGTX
- ¥33,000
- 重量:510g(28.0cm)
ホカがテンナイン、テンナイン ハイクGTXで試みた機能は、大胆で行きすぎの感が強かった。
そこで、実験的な機能を現実的なモノ、つまりフツーのハイカーでもよさが体感できるモノにした。2021年発売の縦走向けトレッキングシューズのカハGTX、2022年発売の2,000m級まで対応するアナカパGTXが、それだ。
登山でも厚底が機能すると知られるようになったのは、これらのシューズからだ。
そして今回取り上げるのは2023年発売、上の写真にある「アナカパ2ミッドGTX」だ。デザインはフツーに見えるが、しかしほかにはない機能が、いろいろと盛り込まれていておもしろい。
公式HPではアナカパ2ミッドGTXの特長に、「最小限のサポートでクッション性を重視。そのクッション性はボリュームと反発性のバランスを装備」とある。
つまり極端な厚底ではないけれども、通常のトレッキングシューズよりもクッション性を感じられるものになっている、ということ。
テンナインハイクGTXの極端に出っ張ったヒールを見た後だと、かなり控えめに感じるが、実際に履いて歩いてみると、明らかにヒールの押し出しを感じられる。とはいえ、テンナインハイクにあった、登りでの引っ掛かりはほぼない。このシューズならではの足運びになれると、グイッっと推進力をもらっているように感じられるのが、いい。
また、ふたつに分かれたアウトソールのヒール形状も、左右のブレを防ぎ、直進性に効果を発揮しているように思われる。
ホカのシューズは、下りでの高い衝撃吸収性が特長でもある。
そこで砂礫のザレたトレイルを小走りで下ってみたのが、上の写真。
延長されたヒールの効果は、やはり下りの方が強く感じられる。適度な厚さのミッドソールのクッション性とともに、ヒールが延長されたことで摩擦力が高くなり、路面に対してフラットに着地できれば、強いグリップ力を発揮してくれる。
しかし、フラットではなくカカト着地をすると、延長されたヒールがやや引っ掛かり、違和感がある。だが、このシューズを選んだのなら、シューズの性能を発揮できる、フラットな着地を身に付けるしかない。
デカ底ならではの機能
ちなみに私はホカのトレイルランニングシューズを、これまでに4足愛用しているのだが、ここ数年のモデルは、厚底だけでなく、ワイドなソールが採用されていることも特長だと感じている。
アナカパ2ミッドGTXは、さらにヒールが延長された長底モデルでもあり、それらを総合すると、このシューズは、デカ底と呼んでいいものだ。
そのデカさは下記の通り。それぞれの部位の最大幅を比較している。
ホカ/アナカパ2 ミッドGTX | 前足11.8㎝ | 土踏まず8.3㎝ | ヒール9.5㎝ |
サロモン/Xウルトラ プロ | 前足11.0㎝ | 土踏まず6.8㎝ | ヒール8.6㎝ |
※編集部調べ
同サイズで、標準的なワイズ、ソール形状のサロモンに対して、アナカパ2ミッドGTXはひと回り大きい。特に土踏まず部分は絞り込まれてなく、アウトソールがフラットに接地する形状になっている。
フラットなソールは重心移動をスムーズに
そのフラットさがわかるのが、上の写真だ。
広い接地面積はグリップ力と推進力を生み、歩行の安定感も際立たせている。そもそも、登山道の歩き方は、足裏全体をベタッと着地させるフラット着地が基本。
登りで前足部ばかりを接地させるとふくらはぎが疲れ、下りでカカト着地をすると、重心が背中側に下がり、尻もちをつく原因になる。
アナカパ2ミッドGTXのデカ底はフラット着地をすることで、推進力と安定という、山歩きの際に欲しい機能を提供してくれるシューズだ。そう、このシューズは岩場を登るのではなく、整備された登山道を、確実に歩くためのシューズだ。
土踏まず部分は、ミッドソールの素材が突起状のデザインになっている、その柔らかさで中足部の路面への食い付きを高めているように思えた。だが、ミッドソールむき出しということは耐久性が劣るので、アスファルト等で早めに削れてしまう可能性は高い。
アウトソールはグリップ力で評判のヴィブラム社のメガグリップを採用。デカ底とともに、滑りにくい確実な歩行をサポートしている。
多用途で機能している突起状のプルタブ
ところで、アナカパ2ミッドGTXは、前モデルからプルタブと呼ばれる突起状のアキレス腱サポートを装備している。ホカでは、近年、多くのシューズにこのプルタブを採用。基本的には着脱のしやすさに機能するものだ。
アナカパ2ミッドGTXにおいては、シューズ本体とは縫い合わさっているものの別体になっている。履き口のヒール側がローカット並みに低くなっているのを、このプルタブでフィット感を高めてサポート。アキレス腱を守るとともに、ミッドカットでありながら、ローカット的な足首の自由度も実現。安定感と運動性を両立しているように感じられた。
他ブランドにはローカットにプルタブ状の突起を装備させ、安定感と運動性を両立させたシューズもあるが、ミッドカットでこのような機能を装備させたモノは記憶にない。あまり注目されていないが、この機能もホカらしい新しさを感じさせる。
ところで、このプルタブはシューズ内への小石や小枝の浸入を防ぐ、ゲイター的な機能ももっている。なんてことのない突起に見えるが、じつに多用途で機能している。
環境にやさしい素材を多用
機能はもちろん、環境にやさしい素材選びも、ホカは先進的だ。
撥水加工は、環境リスクが懸念されるPFC不使用。防水透湿素材はリサイクルポリエステルを使ったゴアテックスインビジブルフィットを採用。アッパーやシューレースにもリサイクル素材を、ミッドソールには30%サトウキビ由来のEVAを使用している。
欧米の軽量ハイキングシューズを手掛けるブランドは、こうした環境配慮製品を多く開発。自然、山で遊ぶ私たちが選ぶべきブランド、シューズに思える。
歩きの安定感は、ホカならではの機能
今回、テストで樹林帯、岩場、一歩進むと半歩下がるような砂礫道を歩いて感じたのは、このシューズの安定感の高さ。本当にグラつきが少ない。そしてクッション性が高いので、疲労の影響が出る後半の下りで、足さばきが軽いままだったということ。
もし、これまでよりも長い距離の山歩きに挑戦するなら、また後半の下りでいつも足がグラグラとなって笑いがちなら、トレーニングに励むとともに、このアナカパ2ミッドGTXを試してみるとよいかも。そしてカカト着地ではなく、フラット着地で足にやさしい歩き方を身に付けて、このシューズを履きこなしてみてほしい。
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PROFILE
登山、ランニング、旅、島、料理、道具をテーマに執筆、撮影。低山ハイクとヨガをMixしたイベント『ちょい山CLUB』を主催する。