モデル仲川希良の「絵本とわたしとアウトドア」#41 おくりものはナンニモナイ
仲川 希良
- 2023年11月30日
人の心を温め、よろこばせる贈り物とはなんだろう?
贈り物下手な私。だれかをよろこばせたいと思ってもその気持ちばかり空回りします。あの人はあれはもう持っているだろう、これはいらないだろう、考えすぎてなかなか決まりません。ならば消えモノだ、とお菓子などを選んでみるも、渡す段になって躊躇して、結局賞味期限切れなんてこともしばしば。
なので大切な人から「山に連れて行ってほしい」と頼まれると、それならばお安い御用!と腕まくりするのですが、これはこれであれこれ迷う。相手の希望に応えるのみとはいえ、行き先は山。危険なこともある、慣れない人には不快なこともあるかも、とまたもや悶々。多すぎる事前注意連絡に、「山にはとくに何があるってわけじゃないんだけどね」なんていらぬひと言を添えちゃったりするのです。コーヒーくらいは用意しようか、特別なおやつもいるかしら、結局当日までソワソワしてしまいます。
『おくりものはナンニモナイ』の猫のムーチが贈り物をしたいのは、犬のアール。何でも持っている彼がよろこぶ物ってなんだろう、と考え込み、そうだ〝ナンニモナイ〞をあげよう、と閃きます。世の中にあふれる数えきれないほどのモノのなかから、無事にそれを見つけ出したムーチ。〝ナンニモナイ〞を前にポカンとするアールに、ムーチは堂々とこう言うのです「ナンニモナイ…きみと ぼくの ほかにはね」。ただじっとして、ナンニモナイを楽しむ満足げなふたりを見て、そう、これこそが、友人に贈る山歩き!と、私は思ったのです。
もちろん純粋に山に興味があることもありますが、山を求める友人の多くは、日常を抱え込みあふれ返った自分の心に、辟易していることが多いのです。山にある何かではなく、安らかな自分を取り戻すひとときがほしい。安心できるだれかといっしょに。
伊豆大島の三原山を、仕事に思い悩む友人と黙々と歩いたことがあります。景色も私も、あのときの友人の目には映っていなかった。それでも、植物さえ生えない足元の黒い溶岩をジャリジャリ踏み鳴らしながら肩を並べて歩くうち、友人の顔には微笑みが戻っていることに気付きました。知り合いのいない遠い土地で暮らす別の友人を、なんてことない里山に連れ出したこともあります。山頂で吹き抜ける風にふたりで包まれた瞬間に、なぜだか笑いが込み上げた。特別なことはナンニモナイ……でも私がいるよ。それを伝えるには、山歩きはとてもすてきな贈り物かもしれません。
今回の絵本は……
おくりものはナンニモナイ
作・絵 パトリック・マクドネル
訳 谷川俊太郎
あすなろ書房
ナンニモナイを贈れる相手がいることは幸せだなと気づく。驚きのストーリー展開に洗練されたイラスト、粋な訳。大人のプレゼントにもおすすめの一冊です。
モデル/フィールドナビゲーター
仲川希良
テレビや雑誌、ラジオなどに出演。登山歴は14年目。里山から雪山まで広くフィールドに親しみ魅力を伝える。一児の母。著書に『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』
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PROFILE
ランドネ / モデル/フィールドナビゲーター
仲川 希良
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの14年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』
テレビや雑誌、ラジオ、広告などに出演。登山歴はランドネといっしょの14年。里山から雪山まで幅広くフィールドに親しみ、その魅力を伝える。一児の母。著書に、『わたしの山旅 広がる山の魅力・味わい方』『山でお泊まり手帳』