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熊野古道・大辺路と人の想いをつないで、街から町へ。出合いをくり返しながらたどり着く場所(和歌山県南紀エリア)

和歌山県南紀エリアまでは、羽田空港から飛行機で約1時間15分。身近な山にアクセスするような感覚で訪れることのできるこの場所で、モデルの菖蒲理乃さんは世界遺産・熊野古道の大辺路(おおへち)を歩く旅へ。旅先でのさまざまな出合いが、“また訪れたい”と思うきっかけに。そんな旅のようすを、理乃さんの言葉でお届けします。

旅のはじまりは大辺路の玄関口・田辺から

春を待ち遠しく思うころ、紀伊田辺駅には地元・田辺高校のセンバツ甲子園出場を祝うのぼり旗が飾られていた。もう日は暮れているけど、南紀はやはり暖かい。田辺といえば……味光路(あじこうじ)。200店舗以上の飲食店が連なる南紀最大の飲み屋街が広がっている。酒場好きの私にとって、いつか行ってみたい憧れの場所だった。いままで一度も来たことがないのに、グーグルマップには気になる酒場にピンが無数に刺さっている。まずは明日への英気を養うため乾杯としよう。地元の酒場で、地酒を飲み、地元の人と会話をすれば……旅のムードはいっきに高まる。ずっと地元に住んでいる人もいれば、Uターンで戻ってきた人もいて、ここに住む理由はそれぞれ。だけどみんな口を揃えて「良いところだ」と言う。その目はキラキラと輝いており、明日からの旅路を照らしてくれるようだった。

▲紀伊田辺駅のすぐそばにある鈴屋の銘菓「デラックスケーキ」の“端”を集めた「はしっ子」は、山歩きの行動食にぴったり。
▲田辺の夜は飲食店が軒を連ねる「味光路」へ。「居酒屋ぐぐっと」では、もちガツオをはじめ、旬の食材を使った料理をおつまみにおいしいお酒もいただける。

▲この日は、古民家の宿「田辺ゲストハウス ICHIE」。8畳と6畳の2部屋あり、朝食には併設するカフェで作るシフォンケーキを。

古道を歩き、海を眺めまた次の町へ

熊野古道には、東西南北から熊野三山へ参拝するための5つのルートがある。田辺を分岐にスタートするのが中辺路と大辺路。江戸時代に建てられた道分け石には「左りくまの道」「すくハ(まっすぐは)大へち」と書かれた分岐の案内がある。中辺路は紀伊山地の山々を越えていくルートで、皇族や貴族の公式参詣道としても使われるなど、いまも昔も多くの人が訪れる人気ルート。一方、大辺路は紀伊半島を南下し海沿いを歩く道で、昔は時間に余裕のある画家や歌人などが海岸風景を愛でながら歩くことが多かったようだ。実際に大辺路を歩きながら見た枯木灘を題材にした絵や歌も多く存在する。現在は海岸線に沿って鉄道や路線バスが走っており、当時のまま残された風景のなかにも人々の暮らしが顔をのぞかせる。

▲案内人は、長井坂クラブの上田勝司さん。今回歩いたのは、周参見駅から見老津駅までの「長井坂(約10.5km)」。
▲のどかな里山風景のなかを進むと現れる、天照大神を祀る和深川王子神社。旅する人の無事を祈るような、御神木・なぎの木もあり。
▲「熊野古道 大辺路 押印帳」のスタンプ台のある長井坂西登り口。ここから先は山道へ。

コンクリートの国道から、土の古道へ入っていく。春に向かってぷっくりと新芽が伸びる明るい森のなかを歩きながら、おいしい空気をいっぱいに吸い込んだ。途中、小学校の跡地があったり、古い電柱の跡があったり、つい最近まで人々の生活がそこにあったことを感じさせる。世界遺産に登録されたいまでこそ、木を1本切るのにも大変な手続きが必要になったけれど、当時の人々にとっては普段から当たり前に歩いている生活道だ。人々が暮らしていくうえで、ある程度開発されるのも自然な流れ。だから古道はところどころ分断されている。その新旧が入り混ざった時代のコントラストがおもしろさでもある。ときおり木々の隙間から見える枯木灘海岸を眺めながら、昔の人もおなじ景色を見ていたのかなと想像してみた。時代は違っても、おなじ足跡をたどる古道歩きは、横軸だけでなく縦軸にも移動しているような感じがしてワクワクする。

▲山道に入ってすぐは、まっすぐに伸びるスギの木が広がり、凛とした空気に包まれる。
▲枯木灘などの海を臨むことができる眺望スポットも。
▲尾根まで上がると、広葉樹が立ち並び道は明るい雰囲気に。自然林の中を歩けるのも大辺路の特長のひとつ。

ちょうど小腹が空いてきたころ、茶屋の段でひと息つく。明治末期頃までお茶屋さんがあったというこの場所は、昔から旅人たちの心と体に癒しを与えていたのだろう。私も産直市場で買ってきたポンカンを頬張る。ほどよい甘さにジューシーな果汁が体に行き渡り、全身が潤っていく……。さぁ、ラストスパート!このあたりはアップダウンが多いので、うっかり足を滑らせないよう慎重に。最後まで気を抜かずに行こう。

▲行動食に、と田辺の産直市場で調達したポンカン。みずみずしくて甘い。
▲「みぎはやまみち ひだりはくまのみち」と書かれた、熊野古道の道標が残る。

踏切を越え、JRきのくに線の見老津駅にたどりついた。駅の目の前は、どこまでも青い海と空。そこに白い木造の駅舎がレトロで可愛らしい。時刻表を見ると……次の電車まであと2時間ほどある。ふと生まれた余白が心地よくて、この時間を尊く思う。駅のベンチに置かれていた「駅ノート」をパラパラとめくってみる。ここを訪れた旅人たちが書き記した思い出の数々。熊野古道を歩いた人もいれば、サイクリストや鉄道マニアなど、いろいろな人たちが各々の想いを綴っている。読みながら共感したり、クスッと笑ったり、だれかと旅の思い出を語り合っているかのようだった。初めて訪れた町で新しい思い出ができると、その町にすっかり愛着が湧いてくる。今度はどこを歩こうかな、と思いながら、日が沈みかけていく海を眺めた。

▲長井坂東登り口に下り、駅に向かうまでは海沿いの道を歩く。
▲長井坂ルートのゴール、レトロな雰囲気の見老津駅へ。

今夜の宿である「Lacomaゲストハウス」は、古い旅館をリノベーションしたという風情ある佇まい。引き戸を開けるとオーナーのさっちゃんこと高柳沙月さんが明るく迎えてくれた。田舎暮らしに憧れ、7年前にOLを辞めて大阪から移住してきたそうだ。「夢を叶えるために」と話す彼女のまっすぐな眼差しがまぶしい。しかし慣れない田舎暮らしに最初は戸惑いもあったと言う。まずは虫があまりにも大きすぎること。そして人との距離感もいままでとはまったく違った。都会では隣人の顔さえ知らないことが多いけれど、田舎では家の外に出ればだれかに会う。そんな強いコミュニティの中に飛び込み、地道に関係性を築いていった。この日も近所の方が畑で採れたイチゴをおすそ分けにと持ってきてくれたそうだ。Lacomaという宿の名前は、「人生を繋ぐ母親(life connect mother)のような存在でありたい」という想いが込められている。名前の通り、町を訪れる旅人や地元の人たちを繋ぐ、母親のような存在になっている。そして私にとっても、また帰ってこようと思える場所になった。

▲30年間空き家だった元旅館の建物を改装し、2020年にオープンした「Lacomaゲストハウス」。見老津駅から田子駅までをつなぐ大辺路の途中にあるため、旅の拠点にぴったり。
▲「人と人、自然をつなげたい」とオーナーの高柳沙月さん(左)。フリーアコモデーション制度などを活用しながら、ひとりで宿を切り盛りする。
▲1~3名が宿泊できる部屋が全5部屋。キッチンやワークスペースは自由に利用できる。
▲2階にあるシェアスペースには、本やプロジェクター、ゲームなどあり、宿泊者同士の交流の場に。

今回歩いたルート/10.5km(歩行時間3時間10分)
周参見駅~(15分)~馬転坂入口~(30分)~西浜入口~(40分)~和深川神社~(15分)~長井坂西登山口~(1時間5分)~茶屋の段~(25分)~見老津駅

>>>熊野古道・大辺路を歩く旅におすすめ!南紀エリアの立ち寄りスポット

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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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