
タデイ・ポガチャルがクラッシュを乗り越え 劇的な2連覇|ストラーデ・ビアンケ

福光俊介
- 2025年03月09日
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ときに痛みに顔をゆがめながら、勝利へと突き進んだ。ロードレース界の絶対王者が、イタリア・トスカーナの土の上でも強さを証明。現地3月8日に行われたワンデーレース「ストラーデ・ビアンケ」(UCIワールドツアー)は、“白い道”と呼ばれる未舗装路が舞台。タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG、スロベニア)が途中、落車に見舞われながらも、トーマス・ピドコック(Q36.5プロサイクリング チーム、イギリス)との優勝経験者対決を制し、3度目の優勝。大会史上初の連覇を達成した。
全行程の3分の1以上が未舗装区間
イタリア語で“白い道”を意味する「ストラーデ・ビアンケ」が大会名に冠され、未舗装路と大小さまざまな起伏が特徴のイベント。今年で19回目と、歴史は浅いながらも、コースの難しさとレース展開の激しさから、春のクラシックシーズンにおける重要度は年々高まりを見せる。出場選手の豪華さと、フィニッシュ地点となるシエナ・カンポ広場の荘厳さこそが、何よりの証拠となっている。
一昨年まではレース距離が200kmを切り、ワンデークラシックとしては短めに設定されていたが、昨年からそれが延伸され、213kmに。スタートして14.2kmで1つ目のセクションが始まる未舗装区間は、しめて16カ所。全長は81.7kmで、全行程の3分の1以上で“土の上”を走ることになる。
迎えたレースは、早々に10人がリードを開始。メイン集団はポガチャル擁するUAEチームエミレーツ・XRGが主導権を握って勝負どころに向けて進んでいった。

落車後にトップを猛追 傷を押してアタックしたポガチャル
大きく動いたのはフィニッシュまで80kmを切った直後。UAEの牽きで人数が絞られていたメイン集団から、ピドコックが先制攻撃。これに唯一反応したのがポガチャルだった。昨年はポガチャルが80kmに及ぶ驚異的な独走劇を演じたが、それを生んだのが11.5kmある未舗装区間「モンテ・サンテ・マリエ」。今年も同じポイントで両雄が動いた。

この頃には最大10人いた逃げのメンバーにも脚の差が出ていて、コナー・スウィフト(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)が先頭に残る状況。ポガチャルとピドコックは数キロでスウィフトに追いつくと、そのまま引き連れて猛進。フィードゾーン(補給地点)通過後には、ポガチャルがボトルをピドコックに譲る様子が見られるなど、その先を協調しながら進む姿勢を示す。
しばし続いた3人逃げの形勢が崩れたのは、思わぬきっかけから。残り50kmを切った直後、急な下りコーナーをポガチャルがオーバースピードで突っ込むと、タイヤを滑らせ落車。その勢いは、減速せぬままコース上を滑り出て脇の草むらへと飛ばされてしまうほど。急いでバイクまで戻ったポガチャルだが、巧みにこなしたピドコックとは1分近く差がついてしまい、同様にバランスを崩したスウィフトも先行。2人を追う格好となる。
いったんバイク交換をして追走を始めたポガチャルは、2kmほどでスウィフトをパスし、さらに数キロで先頭復帰。後ろの状況を見てピドコックもポガチャルの還りを待ち、再び協調して先を行く態勢を整えた。

そんな両者の激闘に決定打が生まれたのは、残り19km。戦前から勝負どころのひとつと目されていた第15セクターのコッレ・ピンツォーロでポガチャルがアタック。最大勾配15%の未舗装区間で一気に踏み込むと、一瞬抵抗したピドコックも対応しきれない。みるみるうちにその差は広がって、ポガチャルが大会制覇へ向けて独走に突入した。

落車の傷は左側に集中し、肩・肘・膝・下腿と幅広く流血。ときに痛みに苦悶の表情を見せながらも、力強いペダリングは決して衰えることはなかった。フィニッシュ地・シエナに入ると、カンポ広場へと向かう最後の急坂では沿道のファンとハイタッチをしながら上っていく。

2022年、2024年に続く3度目、大会史上初となる連覇は、カンポ広場に集まった大観衆を全身で煽ってのウイニングセレブレーションで決めた。
ポガチャルの次戦はミラノ~サンレモ
2025年シーズンは2月にUAEツアーでシーズンインし、“予定通り”に個人総合優勝。ストラーデ・ビアンケが今季2戦目だったポガチャル。ここも制して、ワンデーレースにフォーカスする春のレースプログラムに弾みとしている。なお、3回目の大会制覇はファビアン・カンチェラーラに並ぶタイ記録。落車による複数の負傷が気がかりだが、レース後のチームからの声明によれば、大きな心配はないとのこと。

予定通りであれば、次戦は3月22日のミラノ~サンレモ。あと一歩のところで逃し続けているタイトルに再び挑戦する。
最終的に、ポガチャルから1分24秒差でピドコックが2位フィニッシュ。3位には、ポガチャルをアシスト後も上位戦線で走り続けたティム・ウェレンス(ベルギー)が入り、UAEチームエミレーツ・XRG勢がワン・スリーフィニッシュを達成した。

ストラーデ・ビアンケ優勝 タデイ・ポガチャル コメント

「クラッシュしてバイクから落ちた瞬間はさすがにパニックに陥った。今日のレースを勝つためにチーム一丸となって走っていたので、何とか前線に戻って最後まで走り切りたかった。先頭に戻ってからは、まずピドコックに謝った。僕のクラッシュによって先頭グループのメンバーに危険が及ぶ可能性があった。
自分は改めて幸運な男だと思う。トムがどの程度僕を待ってくれていたのかは分からないけど、追いつく頃には彼は待ちの姿勢だったし、一緒に走った方が得策だと考えていたのかもしれない。互いにリスペクトしていたし、僕にとっても彼と走ったことで素晴らしいレースになった。彼はマウンテンバイクでオリンピックチャンピオンになり、シクロクロスでも世界王者になっている。コース適性は彼の方があったと思う。だから早めに攻撃をしないといけないと思った」
ストラーデ・ビアンケ2025 結果
1 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG、スロベニア)5:13:58
2 トーマス・ピドコック(Q36.5プロサイクリングチーム、イギリス)+1’24”
3 ティム・ウェレンス(UAEチームエミレーツ・XRG、ベルギー)+2’12”
4 ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト、アイルランド)+3’23”
5 ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス、スペイン)+4’20”
6 マグナス・コルト(ウノエックス・モビリティ、デンマーク)+4’26”
7 ジャンニ・フェルミールス(アルペシン・ドゥクーニンク、ベルギー)+4’29”
8 ミケル・ヴァルグレン(EFエデュケーション・イージーポスト、デンマーク)+4’37”
9 レナルト・ファンイートヴェルト(ロット、ベルギー)+4’47”
10 ロジャー・アドリア(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ、スペイン)+5’06”
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