
自由にアレンジが楽しめるアルミ製ツーリングフレーム#901「OnebyESU(ワンバイエス)」

安井行生
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日本のサイクリストが本当に求めているものは何か? 欧米ブランドが主流のスポーツバイク市場において、その問いを常に持ち続けているのが、オリジナルブランド「OnebyESU(ワンバイエス)」だ。日本人の体格や嗜好、そして日本の道路事情を深く理解し、「日本人に合う自転車」を追求し続けている。
そのワンバイエスのなかでも過酷なシクロクロスシーンで評価を受けているアルミフレーム、#807シリーズから派生した#901。ワンバイエス初となるアルミ製のツアーモデルである。しかし42Cという太いタイヤも入り、この度フロントサスペンション付きフレームセットが追加された。何でもできる自由なフレームだけに、コンセプトを理解するのは難しい。ここでは自転車ジャーナリストの安井行生が試乗と開発者へのインタビューを通して、この自由すぎる自転車を紐解いてみる。
ワンバイエス・JFF ♯901開発ストーリーこの素晴らしき自由な自転車

遊び方は無限大
スポーツバイクは欧米由来の文化だから、どうしてもメイン市場は欧米となり、メーカーはそちらを主軸にした商品開発を行う。当然、サイズ展開やコンセプトもどうしても彼方を睨んだものになる。それが日本人の楽しみ方と体形にマッチすればいいが、そうではないケースも多い。
そんななか、「日本人が安心して気持ちよく乗ることができる自転車」をテーマにもの作りを行う東京サンエス。東洋フレームとの協働で立ち上げたテスタッチを経て、現在はワンバイエスというブランドでJFFシリーズというフレーム郡を販売している。JFFとはジャパニーズ・フィット・フレームの略だ。
JFFシリーズは2010年から開発をスタートし、初作であるロードフレーム、♯501を2014年にリリース。翌年にはシクロクロス用スチールフレーム♯801を作り、より実戦的な軽量アルミシクロクロスフレームを♯803、♯805、♯807と進化させる。2020年にはスチールディスクロードの♯701D、チタンのJFF Tiなどを送り出している。
数mm、コンマ数度というレベルで微調整を繰り返し、難産の末に生み出されたアルミシクロクロスフレーム、♯807z(807のマイナーチェンジ版)の兄弟モデルとなるのが、2023年に発表された♯901。ワンバイエス初となるアルミ製ツアーモデルである。
しかし♯901のコンセプトを一言で表現するのは少し難しい。広いタイヤクリアランスを活かして太いタイヤを入れればグラベルバイクとして組めるし、台座を活用すればツーリング車として走らせることもできる。悪路走行もツーリングも想定したマルチパーパスバイクだが、「晩ごはんなにがいい?」「なんでもいいよ」が一番困るように、「なんでもできるよ」と言われると、真面目な人ほどどう遊んでいいのか分からなくなる。
♯901を作ったその張本人に聞いてみよう
上司辰治さんプロフィール
野球のトレーニングとして自転車で走り回っていたことでスポーツバイクに目覚め、老舗自転車卸問屋の東京サンエスに入社。現在は専務を務めながら、オリジナルパーツの開発を積極的に行う。
今回紹介したワンバイエスの試乗車は埼玉・羽根倉橋のサンエスベース KURUにあり、営業中なら他のイベントと被らない限り誰でも試乗できるので試してみよう。
♯901は副産物?
上司:この♯901が生まれたのは、♯807(シクロクロス用アルミフレーム)がきっかけなんです。♯807を作る際、いろんな事情によって♯805から工場を変更しなければならなかったんです。検討を重ねた結果、いい工場が見つかったんですが、最低数量が♯805のときよりも増えてしまったんです。弊社としてはなかなかしんどい数量でした。ご存知のとおり、シクロクロスというマーケットは小さいですからね。紆余曲折を経て♯807は完成したんですが、工場の最低ロットをクリアできるほど売れるわけがない。そのロット数を消化するために、同じアルミ素材でなにか作れないか?というところから、♯901が生まれたんです。ある意味、♯807の副産物ですね。メディアで言うような話じゃないんですが、それが実情です。
安井:「まぁメディア上で言うような話じゃないんですが」などと言いながら包み隠さず教えてくれちゃうのが上司さんらしいです。シクロクロスのマーケットはそれほど大きくないので、「ロット数が増えてしまったからもう止めよう」という判断にはならなかったんですか?良識ある(?)メーカーならそうするような気がしますが……。
上司:止めるのはありえませんでした。テスタッチ時代から日本のシクロクロス競技へのサポートはずっと続けてきましたし、「世界で戦える日本人シクロクロス選手を育成する」という目標があり、それに対する特別な想いがあるので、ポリシーとして継続すると。
安井:なるほど。
#807と二卵性双生児の#901
上司:だから♯807と♯901は二卵性双生児のようなものなんです。それが実情ですが、いい風に言えば(笑)、♯807のアルミらしからぬ快適性・路面追従性を活かしたまま、ジオメトリを変更してツーリング車を作れば、さぞかし楽しいバイクができるんじゃないかと思ったんですね。原管は一緒ですが、チューブ形状や曲げ、細部(シートステーブリッジなど)は最適化しました。
安井:具体的にどういうところを変更したんでしょう?
上司:シクロクロスは1時間で終わる競技なので、完全に短時間を睨んだジオメトリです。スタートダッシュが得意でコーナーで機敏で、という。対する♯901はツーリング志向なので、ヘッドとシートが寝てBBが下がってヘッドとトップチューブ長を伸ばしてます。ユーティリティを考えてチェーンステーとシートステーにブリッジも入れました。♯901の販売形態はフレーム単体とフォークとのセットがありますが、純正フォークはオフセット変更可能なGBD1.5。このGはグラベルのGなので、グラベル用フレームとして捉えることもできます。僕はツーリングフレームだと思ってるけど、解釈はいろいろです。
使い方を考えるのはユーザー
安井:広いタイヤクリアランスを活かして太いタイヤを入れれば純粋なグラベルバイクとしても組めるし、台座を活用すればツーリング車として走らせることもできる。まさにマルチツアーモデル。
上司:なんなのかよくわからないと思いますが、それぞれの人が自由に使い方を思い描いてくれたらいいと思ってるんです。
安井:その気持ちも分かりますが、今のユーザーは答えを明示されることを望んでいるようにも感じます。「このレース用のバイクでレースをしましょう」「グラベルロードでオフロードを走りましょう」「台座がいっぱい付いているのでバイクパッキングをしてツーリングをすべきです」。そう言ってもらえば確かに楽です。指示された通りの遊び方をすればいい。考えなくていい。一方、♯901のような「なんにでも使えるフレーム」って理解されにくいと思うんです。ただでさえ分かりにくいのに、さらに今年はフロントサスを入れたモデルもリリースして難解を極めつつある(笑)
上司:僕としては、こういう自転車は○○用と限定したくないんです。だから実物に触れて乗ってもらわないと分からない。その上で、「あなたはこれを何用と解釈しましたか?」と問いかけたいんです。サス付きモデルも、「これでどう楽しんでもらえますか?」と。
安井:サラッとそんなことを言われてますが、ライバル他社を分析して市場調査してコンセプトをはっきり決めて対象ユーザー像をきっちり決めて販売見込み数を出して……というメジャーなメーカーとは全く違う方法論で生まれたモデルということですね。
さらに分かりにくい自転車に
安井:では、今回発表されたそのサス付きモデルについて。リジッドフォーク仕様を前提にジオメトリが引かれた♯901にフロントサスペンションを入れると、当然ながらフォークの肩下寸法が長くなり、フレームが後傾するように変化しますね。もちろん、それによってヘッド位置とBB位置が高くなり、ヘッドもシート角も寝ることになり、ハンドリングをはじめとしたバイクの挙動は変化してしまいます。いじわるな見方をすれば、これは「やっつけ仕事」ですよね。それを上司さんが分かっていないはずがないし……と、ちょっと戸惑ってたんですが。
フォークの違いでジオメトリーが変わる
上司:JFF TiV2というチタンフレームを開発していたとき、肩下寸法が違うフォークを入れて乗ってみると、これがかなり良かったんです。ロード用のフォークを入れるのと、シクロクロス用のフォークを入れるのでは、もちろんジオメトリが変わるんだけど、破綻するというよりはその変化が面白かった。違う楽しさを持つフレームになった。「これはアリかもしれない」と思って、2種類の肩下寸法を入れることを前提にジオメトリを入念に考えて作ったのがJFF TiV2なんです。
安井:そうだったんですか。
上司:当然、ヘッド角からBBハイトから変わるので、カタログには2種類のジオメトリ表を載せてます。これをいろんな人にテストしてもらうと非常に評価が高くて、「違うフォークを入れるのも楽しいぞ」と確信を得ました。そこで♯901にはSRサンツアーのGVXを付けたフレームセットも用意しようと。
♯901のジオメトリー
安井:出来合いのフレームに「サスフォーク入れて売ったろ」ではないってことですか。
上司:そうです。最初からどっちも楽しめるジオメトリにしています。専用フォークじゃないとダメという設計はしていないので、♯901にはフレーム単体販売を設定してるんです。いろんなフォークを入れて楽しんでもらうために。
安井:「いろんな楽しみ方をしてほしい」「アッセンブルを限定せず、自分で考えて遊んでほしい」。そんな考え方で送り出される♯901は、故に「ちょっと分かりにくい自転車」になってしまった。
上司:まさにそうです。そこは承知のうえです。
サンツアー・GVXサスペンションフォークとの組み合わせ
OBS-GBD1.5THとの組み合わせ
「安い」のに「分かりづらい」とは是如何に
安井:最後にちょっとコストの話を。実物を見ると分かりますが、このアルミフレームは結構手が込んでますよね。各所に潰しや曲げが入っているし、台座も多い。溶接も綺麗だし、しかもカラーオーダーまでできる。それでフレーム単体で約10万円はなかなか驚きです。その秘密は?
上司:潰しや曲げの加工って金型が必要になるので結構大変なんですが、でもうちが10万円で提供できていることに意図やからくりはありません。ブランド料とかプロモーション費用のようなものも乗せてません。普通に適正価格を付けてるだけですよ。
安井:秘密はなんにもないと。しかし結果的に、♯901は手が出しやすい価格になりました。フレーム単体で10万円。そこそこのパーツで組んでも30万円前後で形になります。気軽に買えてお財布的にはハードルが低いのに、「考える力」を必要とするという、珍しいフレームになりました。価格帯とターゲット層がちぐはぐと言えるかもしれませんが。
上司:このバイクのターゲットは、作った僕でもよくわかってないです(笑)。これでシクロクロスを走ってる方もいらっしゃいますし、一台目のスポーツバイクとしてショップと相談しながら組み立てるのもいいと思います。自由に考えて自由に楽しんでほしいですね。
自由に考えて自由に楽しんでほしい―― 各々のジャンルに特化したバイクが多いなか、正々堂々とこう謳える自転車は少ない。自転車評論家の「価格帯とターゲット層がずれているのでは」などという的外れな指摘は、素直に「安くて自由な自転車なんて最高じゃん」と言い換えるべきなのかもしれない。
1台でキャラ変できるツーリングバイク JFF #901
18万7000円(フレーム&SRサンツアー・GVXサスペンションフォーク)
16万8300円(フレーム&OBS-GBD1.5TH)
10万7800円(フレーム)
- フレーム:6061 アルミチューブ (トップチューブ・シートチューブ・ダウンチューブ: トリプルバテッド/シートチューブ・チェーンステー: プレーン ※扁平加工)
- サイズ (SL):XS (400mm)・S (460mm)・M (510mm)・L (540mm)
- カラー:オーダー・サンドチタンブラウン (アノダイズド)・サンドディープレッド(アノダイズド)
- 仕様:Di2・ワイヤー変速・ディスク対応 (インターナルケーブルルーティング)、フラットマウントディスク (台座の高さ:15mm)、スルーアクスル (レバータイプ・アクスル12mm・アクスルピッチ1.5・挿入幅163mm)、シートポスト径:27.2mm、Fメカバンド径:31.8mm、リアエンド幅: 142mm、BBシェル幅:68mm、想定最大歯数(Qファクター 143.8mm・チェンライン43.5mm想定):48-39T、フロントシングル想定最大歯数 (Qファクター 143.8mm・チェンライン43.5mm想定):44T、リアタイヤ通過部チェーンステー幅:約45mm、リアタイヤ通過部シートステー幅:XS/約46mm・S/約54mm・M/約61mm・L/約63mm
- 重量:約1290g(フレーム単体、XSサイズ未塗装、装備付属品なし)
フレーム各部のこだわり



2種類のフォーク
肩下寸法400mm弱のリジッドフォーク(右)、肩下寸法430mm弱のサスペンションフォーク(左)どちらでもバランスがとれるジオメトリ。「出来合いのフレームにサスフォーク入れて売ったろ」という安直なセット商法ではないということだ。ちなみに、このSRサンツアー・GVXサスペンションフォークの市販カラーはブラックで、#901に組み合わされるのはグレー。特別に供給チーム用カラーに塗ってもらったのだという
Mサイズのフレームにリジッドフォークとサスフォークを装着し比較した。写真では僅差に見えるが、実物を見るとジオメトリは別物。フォークの肩下寸法が伸びると、BBハイトは上がるものの、ヘッド位置が高くなってヘッド角もシート角も寝るため、よりアップライトでゆったりとした挙動のバイクになるはず。「2種類の肩下寸法を入れるジオメトリを最初から入念に考えて作りました。変化を楽しんでください」(上司さん)。
インプレッション:どう使うか、どこを走るかは、あなた次第
オフロードを視野に入れた金属フレームにしては軽いのに運動能力は価格から想像するよりずっと高く、手の込んだ潰し加工が施されたリアセクションの効果か、振動吸収性はアルミにしては高い。大径アルミらしいしっかりとした剛性感と軽やかなハンドリングでラフな路面を嬉々として踏破し、凹凸に弾かれてリアが暴れてどうしようもないという事態には陥らない。サスペンションフォークを入れると肩下寸法が30mmほども変わるのでハンドリングは変化するが、破綻までは至らず、どちらの仕様でも楽しめることには驚いた。「自由に使い方を考えてほしい」と上司さんが言うように、メーカーが使い方を決めてしまうのではなく、ユーザーに委ねてしまうところが面白い。フレーム単体で約10万円と安価なのに、「遊び方を考えさせてくれる」という貴重な一台である。
- BRAND :
- Bicycle Club
- CREDIT :
- 撮影:BicycleClub
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