
サイモン・イェーツが最終日前日に大逆転! 初制覇でヴィスマを復権に導く|ジロ・デ・イタリア

福光俊介
- 2025年06月02日
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2025年のロードレースシーズン最初のグランツール、ジロ・デ・イタリアは現地6月1日に3週間の戦いの幕を閉じた。最高栄誉の個人総合「マリア・ローザ」は、サイモン・イェーツ(チーム ヴィスマ・リースアバイク、イギリス)が初の頂点に。同3位でスタートした最終日前日の第20ステージで、イサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG、メキシコ)とリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト、エクアドル)を大きく引き離し、総合で大逆転。キャリアでは2018年のブエルタ・ア・エスパーニャに続く、2度目のグランツール制覇を果たした。
デルトロがグランツール初勝利
5月9日にアルバニア・デュラスで始まった今年のジロは、3ステージを同国で行い、その後本来の舞台であるイタリアへ。第2週までは平坦路や丘陵地を多く走ってきたプロトンだが、トスカーナの未舗装路を走った第9ステージ、28.6kmの個人タイムトライアルで競った第10ステージなど、勝負におけるアクセントとなる区間も存在した。

そして第3週。山岳比重が急激に高まり、マリア・ローザをかけた争いは最後の1週間が本番でもあった。大会最終週を迎える時点での総合成績は、トップのデルトロから2位サイモンまでが1分20秒、フアン・アユソ(UAEチームエミレーツ・XRG、スペイン)をはさみ、カラパスが2分7秒差で追う構図となっていた。
2回目の休息日明け、第16ステージはときおり雨が降り、ロードコンディションが悪化。集団の各所で落車が発生し、レース半ばではプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ、スロベニア)も巻き込まれる。大会前は個人総合優勝候補筆頭に挙げられていたが複数回の落車で調子を崩しており、このクラッシュでついに限界を迎えた。リタイアを余儀なくされている。

レースは最大25人が逃げ、そのままステージ優勝争いへ。山岳賞でトップを走っていたロレンツォ・フォルトゥナートとクリスティアン・スカローニ(ともにイタリア)のXDS・アスタナ チーム勢が最後の上りで攻勢に出て、2人そろっての逃げ切りに成功。ワン・ツーフィニッシュの達成は、今季終わりに決まる次期ワールドチーム入りへ重要なUCIポイント獲得でもあった。

その後ろでは総合勢が競っていて、カラパスのアタックにデルトロとサイモンが続けず。さらにデルトロはサイモンのペースアップにも対応できず、両者から遅れてのフィニッシュとなる。デルトロは辛くもマリア・ローザを守ったが、サイモンとの総合タイム差は26秒に。カラパスが3位に浮上して、デルトロとは31秒差とした。

苦戦したデルトロだったが、一転して翌日の第17ステージでは攻撃的な走りを披露。この日もカラパスが山岳でアタックし、総合争いを活性化。前方では最大39人の逃げメンバーが走っていたが、後半にかけてこぼれた選手たちを少しずつ拾っていく。この日最終の上り、3級山岳ル・モッテで、逃げ残ったロマン・バルデ(チーム ピクニック・ポストNL、フランス)を追うように総合勢がペースアップ。レースリーダーのデルトロみずからが仕掛けて、これをカラパスだけがチェックした。

頂上通過直後にデルトロとカラパスがバルデに合流。総合を争う2人に、キャリア最後のグランツールであるバルデがついていく形となったが、最大の動きは残り2km。フィニッシュに向かって続く連続コーナーでカラパスが付き切れ。これを見たデルトロが一目散に加速して、下りとコーナーでさらにリードを広げた。
マリア・ローザみずからがステージ優勝を挙げて、カラパスとの総合タイム差を41秒まで広げることに成功。少し遅れてフィニッシュしたサイモンは、51秒差の3位に順位を下げた。

サイモンが7年越しのジロ制覇、第20ステージで大逆転
第18ステージも逃げが37人まで膨らみ、やがて人数を絞りながらステージ優勝争いへ。最後はフィニッシュまでの19kmを独走に持ち込んだ、ニコ・デンツ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)がジロ通算3勝目となる逃げ切り勝利。総合上位陣を含んだメイン集団は競うことなく、デンツから13分51秒差でこの日を終える。

マリア・ローザをかけた最終決戦は、第19・第20両ステージでの山岳2連戦。「クイーンステージ」との呼び声も高かった第19ステージは、今大会最大の獲得標高4950m。33人が先頭グループを形成し、リーダーチームのUAEチームエミレーツ・XRGが集団を統率する形でしばらくは進んだ。
流れが大きく変わったのは、最後から2つ目の上りである1級山岳コル・ド・ジュー(登坂距離15.1km、平均勾配6.9%)。まず先頭グループでは、ニコラ・プロドム(デカトロン・AG2Rラモンディアル、フランス)がアタックに成功し、独走に持ち込む。かたや、メイン集団では頂上を前にカラパスがアタック。デルトロとサイモンが続き、さらにデルトロのチームメートであるラファウ・マイカ(ポーランド)が前に出てカラパスらの動きを抑える。

完全にペースに乗ったプロドムは、最終登坂の2級山岳アンタニョーも難なくクリア。28歳のフレンチクライマーが初のグランツール勝利を挙げた。

その歓喜の後ろでは、カラパスが再びアタック。デルトロはすかさずチェックしたが、サイモンがついていけない。これで協調態勢に入った2人は下りを経て、勢いのままフィニッシュへ。最後はマッチスプリントになって、デルトロが先着。ステージ2位として6秒ボーナスを獲得。カラパスは同じく3位で4秒ボーナスを得る。サイモンは2人から24秒差でフィニッシュ。これらの結果から、個人総合トップのデルトロから同2位カラパスとは43秒差、サイモンは1分21秒差となった。

いよいよ迎えた、事実上のマリア・ローザ争い最終バトル、第20ステージ。やはりこの日も31人と大人数の先頭グループが形成され、逃げ切りを狙う選手と総合エースの前待ちを図る選手とで前半の動きがまとまった。メイン集団では、カラパス擁するEFエデュケーション・イージーポストが主だってコントロール。下りでコントロールを失いコースアウトする場面もあったが大きなトラブルにはならず、その後も着実に勝負どころまで進んでいく。

残り50kmを切って山岳区間へ。頂上の標高2178mは今大会の「チーマ・コッピ」(最高標高地点)になるコッレ・デッレ・フィネストレに入ると、先頭グループではクリス・ハーパー(チーム ジェイコ・アルウラー、オーストラリア)がアタックし、独走に持ち込む。メイン集団では、アシスト陣のペーシングを受けたカラパスが仕掛けるが、前日同様にデルトロがすぐにチェック。サイモンも一定ペースで上って、2人に追いつくと同時にアタックするなど、こちらも応戦。

大きな局面は、フィニッシュまで40kmの地点で起こった。カラパスとデルトロの様子を見たサイモンが一気のアタック。2人が追ってこないのを受けてさらに加速した。動じないデルトロはカラパスを徹底マーク。牽かされる形になったカラパスもスピードを上げ下げしてデルトロのアクションを促すが、こうしている間にもサイモンはリードを拡大。頂上へ向かう未舗装路もグングンと攻めるサイモンに対し、デルトロとカラパスはペースを上げられず、個人総合4位につけるデレク・ジー(イスラエル・プレミアテック、カナダ)に追いつかれてしまう。

“モード”に入ったサイモンは、逃げからこぼれる選手たちを拾いながらフィネストレの頂上を通過。下りでは、前待ちしていたワウト・ファンアールト(ベルギー)への合流に成功。強力なアシストを得て、フィニッシュ地のセストリエーレへ急ぐ。この間もデルトロとカラパスはお見合いを続け、遅れていた選手たちが次々と合流。サイモンとの差が5分以上となってしまった。

トップを走り続けたハーパーが初のグランツール勝利を喜んだ1分57秒後、サイモンがフィニッシュへと到達。最後の最後までペダリングには力がこもり、ついにマリア・ローザ奪取を確信。この瞬間に、サイモンのジロ2025制覇が実質決定。歴史的な大逆転でマリア・ローザを手に入れることとなった。
結局、デルトロとカラパスは同グループでレースを完了。リードをすべて吐き出し、さらにはサイモンとの総合タイム差が4分前後までついてしまった。
ローマ教皇・ルイ14世が祝福
3週間の長旅を終えたプロトンは、最終目的地ローマへ。スタート前には、チーム ヴィスマ・リースアバイクのメンバーが最前列にならび、昨年まで同チームで走り引退したロベルト・ヘーシンク氏の妻であり、闘病の末に5月30日に亡くなったデイジー氏への黙祷が捧げられた。

スタートが切られると、完走が目前となった159選手がバチカン市国へ入国。5月8日に就任したばかりのローマ教皇・レオ14世に謁見。4賞ライダーが代表して教皇に挨拶し、教皇からも祝福の言葉が贈られた。その後送り出された選手たちは、しばしパレード走行を行って、3週間の労をねぎらい合った。

やがてレースへと移ると、6人が先行。ただ、メイン集団もスプリントに向けて本記モードになって、残り6kmで逃げていた選手たちをキャッチ。大会のフィナーレは、スプリントにゆだねられた。
ここでも主導権を獲ったのは、チーム ヴィスマ・リースアバイク。エドアルド・アッフィニ(イタリア)の牽きからワウトへリードアウトが移り、最後はオラフ・コーイ(オランダ)を発射。他のスプリンターの追随を許さず、最終・第21ステージの勝者となった。
チームメートがスプリント勝利を喜ぶ後ろで、サイモンもマリア・ローザを確定。笑顔でフィニッシュラインを通過した。2018年大会では、総合制覇まであと3ステージとしながら大失速。7年のときを経て、ついにジロの頂点に立った。
32歳のサイモンは、今季ヴィスマ入り。加入早々に大きな仕事を成し遂げるとともに、不運続きだったチームを復権させた。7月にはツール・ド・フランスにも出場を予定していて、そこではヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)の山岳アシストを務める。ジロ制覇を受けて改めてコメントし、ヴィンゲゴーを支えると宣言した。

サイモンに続き、21歳のデルトロが殊勲の個人総合2位。あと一歩で逃したマリア・ローザを目指して、再びジロに戻る意欲を示している。同3位にはカラパスが続き、総合表彰台を占めた。
マリア・ローザのサイモンほか、ポイント賞のマリア・チクラミーノはマッズ・ピーダスン(リドル・トレック、デンマーク)、山岳賞のマリア・アッズーラはフォルトゥナート、ヤングライダー賞のマリア・ビアンカにはデルトロが、それぞれ輝いている。
マリア・ローザ サイモン・イェーツ コメント

「プロデビュー以来、最高のレースで勝つことを夢見ていた。グランツールはまさに、このスポーツの頂点だ。2018年に僕の身に起こったことを多くの人が知っていると思う。それから僕はジロへの思いを強め、勝ちたいと願っていた。
勝つことは決して簡単ではないと分かっていた。でも、仲間は挑戦を後押ししてくれた。僕もそれを信じて走り続けて、困難をも乗り越えられた。第20ステージで仕掛けるプランは持っていて、それができる自信もあった。長い上りの方が自分に合っているし、シンプルに走れるあたりもプラスに働いた。
今年は私の年になった。過去にあった不運には見舞われなかった。バチカンでの教皇の祝福も一生忘れない」
ジロ・デ・イタリア2025 最終成績
個人総合成績
1 サイモン・イェーツ(チーム ヴィスマ・リースアバイク、イギリス)82:31:01
2 イサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG、メキシコ)+3’56”
3 リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト、エクアドル)+4’43”
4 デレク・ジー(イスラエル・プレミアテック、カナダ)+6’23”
5 ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)+7’32”
6 ジュリオ・ペリツァーリ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ、イタリア)+9’28”
7 エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ、コロンビア)+12’42”
8 エイナル・ルビオ(モビスター チーム、コロンビア)+13’05”
9 ブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ・XRG、アメリカ)+13’36”
10 マイケル・ストーラー(オーストラリア、チューダープロサイクリングチーム)+14’27”
ポイント賞
マッズ・ピーダスン(リドル・トレック、デンマーク)
山岳賞
ロレンツォ・フォルトゥナート(XDS・アスタナ チーム)
ヤングライダー賞
イサーク・デルトロ(UAEチームエミレーツ・XRG、メキシコ)
チーム総合成績
UAEチームエミレーツ・XRG
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