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芸術とスポーツ【革命を起こしたいと君は言う……】

ジャパンバイクテクニーク

19世紀末、「シクロツーリズムの父」と呼ばれるヴェロシオ(本名ポール・ド・ヴィヴィ)が実施したコンクール・デュラルミンという自転車軽量化選手権があった。変速機もまだない時代、フレーム製作者たちの開発技術向上のために設立された。

この大会が2016年、フランスで「コンクール・マシン」として復活した。そして今年、日本でも「自転車の製造販売に携わる者に切磋琢磨する場を提供し、自転車に関わる技術の発展を促進させる」ことを目的とし、国内のビルダー、ショップなどの有志により「ジャパンバイクテクニーク(JBT)」の開催が発表された。

これは一般的な自転車レースとは異なり、自転車づくりの腕を競うイベントだ。プロフェッショナルとして自転車製作販売に携わる者が、みずからエントリー車両を製作して参加する。

出場する車両は、重量や工作技術、アッセンブルパーツのスペック、実用性、デザイン、コスト、独創性……など、さまざまな視点で評価される。

たとえばダウンヒルルートでは積載したお饅頭をいかにくずさず運べるかといった評価や、輪行のスピードを競う評価点などもあり、単純に速いだけでは評価につながらない大会となっている。

ふだんの競争なら非常にシンプルだ。極端な話、ヨーイドン!

最初にゴールした人の勝ち!

そんなイメージもあるが今回は一筋縄ではいかない。

実際にはライトの使用時間は早朝以外ほとんどないが自家発電がポイントになったり、軽量という項目も、このコースで軽量化の安全性や優位性は見出しにくい。

もちろん輪行する区間もないのでスピードを競う慣れ親しんだみなさんのスポーツとはずいぶん違う。しかし

取り組むにあたり多くのことを考え自問自答し勉強する機会を得た。

たとえばサッカーであれば定められたルール上のフィールドがあり、そこから足もボールも出てはならず、出た場合には規定に従い反則行為となったりもする。

もちろん手を使えば反則だ。フィールドの外が崖になっていて落ちたら死んでしまうからルールがあるわけではないし、手を使ってもケガをすることはない。しかし選手たちはルールのなかで、まさに死に物狂いで勝負をしている。スポーツってなんなんだろう?

そもそもスポーツとは?

ここでいうスポーツとは健康維持や体力作りの健康維持的なスポーツではなく、いわゆるオリンピック競技等を代表とする「競技スポーツ」のことだ。

スポーツの歴史は、一般的に知られいるのは、古く紀元前1700年前にさかのぼるとされる。ギリシャのレスリングなどの壁画も有名だ。

以前メキシコ、チチェンイッツァ遺跡にある古代球技場を訪問した。気になった石の机があったので詳細を聞いてみたら、驚きの回答があった。

マヤ人たちはサッカーやバスケットボールを混ぜたような競技を競技場でしていたらしいが、負けたチームは全員生きたまま皮を剥がされ神の生贄とされ試合ごとに殺されていたという。

その石の机は人間の皮を剥ぐための物だと。それがスポーツの原点なのです、みたいな恐ろしいことをサラッと聞かされた。

私はのけぞった。まさに生死をかけた真剣勝負で、これがスポーツの原点といわれても理解不能だ(よく聞けば敗者ではなく勝ったチームが生贄になっていたとのことで2度も驚いたことを思い出す)。

思うに、これはスポーツの原点ではなく儀式のようなものだ。古代スポーツは軍事目的とした軍人育成のデモンストレーションだったり、前述のように宗教的な要素を多く含んでいたりと、現代スポーツとはかなりかけ離れている。

近代競技スポーツという枠で考えるとじつは歴史は浅いことに気づく。人間の余暇や文化的なたしなみとしてスポーツが出現するには19世紀くらいまで待たなければならない。

この時期からスポーツのルール化が急速に進んだと考えられている。庶民や一般の娯楽として大勢の人が楽しむには生死をかけた戦いではなく、知能や体力を存分に使い、ルールのなかで楽しむという概念が必要不可欠だ。

すなわちスポーツとはルールが大前提にあり、そのなかでプレイヤーたちが切磋琢磨しながら行う行為のことだ。

マヤ遺跡、骸骨柄のレンガ。古代スポーツでは勝ったチームは「戦士の神殿」で生きたまま皮を剥ぎ取られ生贄にされた

スポーツこそ真の芸術

芸術は自由なもので個性を存分に発揮するものだから、ルールなんてナンセンス。芸術に対する見解は一般的にはおよそこんなところだろう。

しかし芸術にもルールはある。一見枠に捕らわれぬ異端アーティストでも「色を使う」「造形を作りだす」など決まりがある。

また音楽であれば根本的に限られた音階のなかでの表現であったりする。

つまりそれぞれのルールをもとに表現を楽しんでいる。これは現代アートなどを知れば知るほど浮き彫りになる。日本のお茶文化などは最たるもので、徹底的にルールを作り、そのなかでの表現を目指している。

芸術とスポーツはまったく別のジャンルであり、むしろ対立する物と見なされる傾向にある。しかしじつは、人間の根本的な自己表現という行為でみれば、非常に近い関係と知るべきだ。

トップアスリートたちは、私からみれば真のアーティストそのものだ。人間のポテンシャルを極限的に引き出す体力と鍛え抜かれた肉体。そしてその状態で驚くべき発想や知能を使い戦う。

彼ら自身の達成感は想像を超え、また見る者に感動を与えてくれる。またわれわれ自身も気楽に楽しめる文化的行為だ。

古代オリンピック時代から、技や力は、美と同様に尊ばれてきた。アスリートたちをモチーフとした古代の彫刻などがそれらを物語っている。

フランス発信?

芸術は19世紀ごろまでがピークでそれ以降は大きな改革は行われておらず、新たな芸術として「スポーツ」が打ち出されたと推測する専門家もいる。

一般的にはイギリスが多くのスポーツを提案したと考えられているが、広めていったのはフランスの力という見解が多い。

自動車レースや近代オリンピックやFIFAなどの発祥国もフランスだ。

興味深いのは、競技スポーツにおいてメートル法が多く使われていることだ。フランスはメートル法をいち早く取り入れ推奨する国だ。各競技にフランスの足跡が多く見られる(ヤードやフィートなど競技で使われる単位を見ると発祥国が見えてくる)。

ツール・ド・フランスに始まり、今回われわれが挑戦するJBTもフランスのコンクール・デュラルミンを手本としている。やはり、競技スポーツの立役者にフランスは大きく関わっていると思う。

JBT専用マシン

今回は時間的制約や初めての試みでもあり、この大会に全身全霊で挑めたかというと、戸惑いもある。専用マシンというにはほど遠くなってしまったかもしれないが、お許しいただきたい。

しかしルールのなかで遊ぶという行為を、強く意識するきっかけとなったことが、最大の収穫だった(まだこの時点では出走はしておりませんが)。

われわれの思うところの、最もこのコースに適した自転車を作った。また何よりランドナーの持つ美しさ、そしてそれらを操るアスリートの芸術性などを重視してマシンを製作した。

JBTマシン。650Bでスルーアクスルのディスク仕様。同色にペイントされた泥除けやコンパクトな直付けキャリアなど、美しさと現代の旅に必要な要素がしっかりと埋め込まれている(現車販売予定)

選手も職人もアーチスト

自転車作りに関わる人間は「造形」「芸術」という言葉とは切っても切り離せない世界にいる。

朝から晩まで外にも出ず、不健康きわまりない職人が、研究に明け暮れ作ったフレーム。まさにアトリエで絵描きが作品を仕上げているような光景だ。

その自転車を極限までトレーニングを積んだアスリートが乗り駆ける。おおよそ共通点のないように見える両者だが、やはり同じ芸術家であることを知っていただければ幸いだ。

三連勝の今野義氏のステム。勝負にこだわり続けたが「More Beatiful ?(もっと美しく)」と自分に言い聞かせていた

 

Cherubim Master Builder
今野真一

東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)

(出典:『BiCYCLE CLUB 2019年8月号』

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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