宮澤 崇史のエタップ紀行「エタップと旅」前編

僕とエタップ

初めてエタップ・デュ・ツールの存在を知った時は、「ツール・ド・フランスのコースを走るのが売りのライドイベント」という程度の認識だった。
先頭集団ではレースを、集団から切れた選手やレースを走りに来ているわけではない選手は単にゴールを目指すというだけの、レースとロングライドが融合したグランフォンドの延長としてのイベントだろう、と。

けれども初めて参加した昨年、雄大な自然の中を1万数千人ものサイクリスト達が一斉に走る光景はなんとも壮観で、勿論それはレースでは見ることができない景色だった。

ツール・ド・フランスのコースを走る。
それはサイクリストにとって夢のようなこと。
しかも自分達が走ったそのコースでは、数日後には選ばれし世界トップ選手たちが競い合い、世界最大のステージレースの勝敗が決まる場所になるのだ。
こんなストーリーの中に我が身を置ける、身震いするようなその歓喜を想像できるだろうか。これまでに僕はヨーロッパの伝統的なレースや場所に足を運ぶことがあったけれど、こういったストーリーの中で興奮する経験はなかった。

ツール・ド・フランス第19ステージ本番、イズラン峠を駆け上がるプロの選手達

今年のエタップ

今年のスタート地点は、オリンピックでもその名に記憶のある人は多いであろうアルベールヴィル。
ただし滞在する場所はアルベールヴィルではなく、リゾート地のアヌシーでもなく、今回はあえて名もない山の中を選んだ。ゆったりとした時間を過ごすために。
人生の中でそうそう走れる機会はない、特別なロングライド。
走ることに集中するのも大切だが、せっかくならその国の文化や風景、そこに生きる人たちと同じようにリラックスして、ゆったり流れる時を感じてみたい。
旅とは、その土地の生き方を体験すること。そのためには、この異国の空気の中に自分自身が入り込み、受け入れ、且つ自分らしくいる、ということが必要となる。
そのような当たり前のことが、外国という地に行くとできないものなのだ。外国へ来ると、あれもせねばこれをせねばと、どうしてもスケジュールを詰め込んでしまう。
たまたま僕はヨーロッパで過ごした時間が長いので、その術を知っているだけのこと。何も大したことをするわけではなく、日常と同じようにリラックスして過ごせばそれでいい。

ゆったりとした時間が過ぎる。一日中眺めていても飽きないアルプスの景色

というわけで今回は、アルプスの名だたるリゾート地から離れた山間部にひっそりと佇むツリーハウスに宿泊した。樹々の間から見え隠れする荒々しい岩肌の山脈の、さらにその背後に聳えるモンブランが目に飛び込んできた瞬間、その偉容に圧倒された。

スタートへの準備

モンブランを望むツリーハウス

初日の調整ライドはモンブランの山麓の街、シャモニーへ。目の前に見えるモンブランは雪崩の爪痕が残り、今まで見た山とは比べものにならない。そしてこれは行った者にしか感じられない。写真では絶対にわからないこと。人生でこれを感じられる機会は何度もない。今、この時期にしか見られないモンブラン。特別な光景だった。

シャモニーへ向かう道から。遠景に聳えるモンブラン

ライドから戻って、ツリーハウスの屋上テラスでBBQの準備にとりかかる。食材は地元の専門店で買い込んだものばかり。ローカルフードを大いに堪能し、地元のワインを飲み、リラックスして大いに笑う。こうして心身ともにリラックスした状態で、エタップのスタートラインへの準備が整った。

仲間とおおいに食べ、飲み、語らう時間

次回、エタップがスタートする

 

宮澤崇史

NIPPO、ブリヂストン・アンカーを始め、UCIワールドチームにも在籍したスプリンターで、北京オリンピック代表選手。2014年に現役を引退後、チーム監督やレース解説、若手育成など多くのバイクに携わる仕事に携わっている。

SHARE

PROFILE

BiCYCLE CLUB 編集部

BiCYCLE CLUB 編集部

ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

BiCYCLE CLUB 編集部の記事一覧

ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

BiCYCLE CLUB 編集部の記事一覧

BiCYCLE CLUB TOPへ

No more pages to load