TREK・DOMANE SLR9【ハシケンのロードバイクエクスプローラー】
ハシケン
- 2019年10月16日
スポーツバイクジャーナリストのハシケンによる100kmインプレッション連載。
気になる最新フラッグシップモデル1台を徹底的に掘り下げて紹介。
テクノロジーからライドフィールまで、その特長を明らかにする。
今では市民権を得たエンデュランスロード。その地位を飛躍的に高めたモデルこそトレックのドマーネだ。単なるロングライド向けの快適仕様ではなく、目指すところは北の地獄こと「パリ〜ルーベ」など石畳の悪路でも高いパフォーマンスを発揮できるピュアレーシングマシンだった。
実際に現地のパヴェ(石畳)で型取りを行い、それをアメリカのトレック本社で忠実に再現。振動テストなどが繰り返し実施されたことは有名なエピソードだ。
そして、ドマーネの誕生には、当時史上最強のクラシックハンターとして名をはせたファビアン・カンチェラーラが深く関わっていた。彼のフィードバックを生かし、二人三脚で2012年にドマーネは姿を現した。
そんなドマーネに搭載されたコアテクノロジーがIsoSpeed(アイソスピード)テクノロジーだ。トップチューブとのクロスセクションで、シートチューブを分離させることで、バーティカルコンプライアンス(垂直方向に対する柔軟性)の飛躍的な向上を実現。
革新的な機構を手にしたドマーネは、パリ〜ルーベでカンチェラーラとともに勝利。勝てるエンデュランスロードであることを証明してみせた。
今月は、第三世代へとフルモデルチェンジを果たしたドマーネを徹底インプレッションする。
路面とライダーとの距離感は常に一定!? 脚を休められるシーンもたびたび訪れた
実走派ライター・ハシケンが、新型アイソスピードを搭載して4年ぶりに
フルモデルチェンジを果たしたエンデュランスロード「ドマーネSLR9」を徹底インプレッション。
ライド前のポジション調整を行いながら、その情熱みなぎる艶やかなグラフィックに目を奪われた。ICON(アイコン)カラーに加わったモルテンマーブルカラーだ。まるで、床の間にでも飾りたくなるような上品さも兼ね備えた“走る芸術品”だ。
そんな新型ドマーネのペダルに力を込めて走り出す。まだ数漕ぎめにして、想像以上の滑らかな動きだしに心が躍りだす。やはりこのバイクは並のエンデュランスロードではない。前後にアイソスピード機構を搭載していることもあり、重量は軽くない。あえて明記してしまうが、トレックのフラッグシップにして実測重量7.8kgとUCI規定プラス1kg増だ。
ところがだ。そのフレームに伝わったパワーがトラクションに変換された瞬間、より大きな加速が発揮される。重量なんぞ関係がないことを思い知らされるほど軽やかだ。軽量ロードのエモンダのようなキレある短時間の伸びとは異なり、しなやかに伸びる世界観はラグジュアリーな大人のフィーリングと言える。少ないパワーでより大きな推進力を生み出し続ける能力に驚かされる。
続いてダンシングに切り替えても、地を這うようにバイクの挙動は安定する。初めて乗るバイクとは思えないほど左右への振りのリズムも取りやすい。ジンバルに搭載したプロのカメラ映像を見ているかのように、一切の不安定要素なくバイクが安定する。
さて、ここからはリアに新型アイソスピードを搭載した快適性をじっくりと確かめていく。まずはしなり量を最小(リジッド状態)にセッティングして走り出すも、サドルから伝わると予想された微振動はほぼ感じられない。ボリュームのあるタイヤとフレームを介する間に収束していると考えられる。時速30〜40km台で印象が強まるしなやかで流れるような心地のよいライドフィールの中にロードノイズはじゃまをしてこない。
次に、しなり量を最大化して比較する。スライダーを動かすにはトップチューブとシートチューブの裏面の2つのボルトを緩める。
しなり量を最大化すると、走行中に目に付く大小の凸凹でさえ、きめ細やかなアスファルトのごとく路面をやさしく滑走していく印象だ。しなり量の違いによるパワーロスは感じられないため、個人的にはいつでもしなり量を最大にセッティングして走ることになりそうな予感だ。
とはいえ、ライドシーンに合わせてフィーリングをカスタマイズできるバイクというだけで、付加価値は高いと言える。
さて、新型ドマーネの走行性能をまとめていくと、低速域の登坂さえ除けば、ダウンヒルも含めて速度変化にも気持ちよく対応するよどみのない走りが魅力だ。アイソスピードが凸凹に対する衝撃を吸収し、常に路面とライダーとの距離感は一定に保たれ水平移動をしている感覚。さらに、空力性能の向上と高い振動吸収性が相まって、クルージングの途中で脚を休められるシーンもたびたび訪れた。
最小のパワーで最大の効率を得られる新型ドマーネは、ロングライド向き、ロードレース向きというようにシーンを絞るにはもったいない。シチュエーションを問わず、いつまでもそのしなやかな走りを堪能していたいと思えた。
INFO
ドマーネ SLR 9完成車
完成車価格:112万6000円(税抜)※写真のICONカラー(モルテンマーブル)は+11万2000円(税抜)
■フレーム:700シリーズOCLVカーボン
■フォーク:700シリーズOCLVカーボン
■コンポーネント:シマノ・デュラエースDI2
■ハンドルバー:ボントレガー・プロアイソスピードコアVR-CF
■ホイール:ボントレガー・アイオロスXXX4
■タイヤ:ボントレガー・R4
■サイズ:47、50、52、54、56、58、60、62cm
■完成車実測重量:7.8kg(52cm・ペダルレス)
テクノロジー詳細!
新型アイソスピードと空力性能の追求。守備範囲を広げる拡張性の高さも獲得
フルモデルチェンジをとげた新型ドマーネには、
トレックがエンデュランスロードに求める仕掛けが詰まっている。
その一つひとつをピックアップしながら紹介していこう。
第3世代のドマーネSLRに搭載されるアイソスピードテクノロジーは、しなり量の調整機構が付いた最新型だ。これは昨年フルモデルチェンジを果たしたマドンに初めて搭載されたものと同機構となる。ただしKVFエアロチューブを採用するマドンとはチューブ形状が異なるため、新型ドマーネ版として新たに開発されたものだ。
フルモデルチェンジを果たしたドマーネには、先代から引き継がれるエンデュランスジオメトリーを採用。長距離走行での身体へのストレスの軽減を果たす。54サイズ以上はややアグレッシブなH1・5フィットも選択可能だ( 52サイズ以下はエンデュランスジオメトリーのみ)。
さらなる快適性の向上とともに新型ではエアロダイナミクス性能を改良。ヘッドチューブやフロント、ダウンチューブの形状はシェイプされている。
またクリアランスをグラベル走行にも対応できるほどの、最大38mmタイヤ対応のワイドクリアランスを確保。オンロードだけではない拡張性の高さを獲得している。
なおトップモデルのドマーネSLRには、OCLV700を採用し、フレーム重量は付属パーツを含めて1335g(56サイズ)。今回のテストバイクの実測重量は7.8kg(52サイズ)であった。
軽さと剛性を高次元で両立する独自の700シリーズOCLVカーボン
調整式アイソスピードが可能にするシーンに応じたカスタマイズ
フロントアイソスピードテクノロジーが路面からの突き上げを遮断
マドンに似たヘッド形状で空力性能も確実に向上
サドルバックにお別れする理にかなったフレーム内蔵式
一体型マウントによりスタイリッシュに安全性を高める
快適性とトラクションそれぞれを両立させたリアバック設計
先端をややベンドさせた軽量フロントフォーク
整備性と拡張性を高めるBB「T47」
標準32mm、最大38mmのワイドクリアランス
IMPRESSION RIDER
ハシケン
問:トレック・ジャパン www.trekbikes.com
ハシケンのロードバイクエクスプローラーの記事はコチラから。
SHARE