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速度の正体現る【革命を起こしたいと君は言う……】

「自転車×カメラ」をテーマにトークショー「CHERUBIM×FUJIFILM SPECIAL TALK自転車とカメラの素敵な関係」を開催してきた。私今野真一と富士フイルムの上野隆氏に加え、俳優にして七代め自転車名人&カメラマニアの石井正則氏が登壇し、マニアックな議論を展開してきた。そしてカメラ、自転車はスピードを体感できる道具だという結論になった。

山を下り思ふこと

たとえばあなたが猛スピードで下り坂を走っているとき、どうやって速度を体感しているか想像してみてほしい。

私もこの夏、富士スバルラインを下った。(もちろん上ってもいる)上りはトレーニング不足で思ったように上れなかったストレスもあり、その反動で下りはかなり飛ばした。時速70km近い速度で気持ちのいい走りを楽めた。

油圧ディスクブレーキの性能を試す機会ともなり、キャリパーブレーキと比べるとその性能の差は歴然だ。

ディスクが出はじめのころはオーバースペックだとか、いろいろと理由をつけて自身のバイクには付けなかったが、一度使うともう手放せなせない。というより20kmを超える距離の下りではもはやディスクブレーキ以外考えられないとさえ思ってしまった。

話は外れたが、風を切り、目まぐるしく変わる景色を見ながら自転車をあやつり、山を下る喜びは、サイクリストにとって至福の時間でもある。

速さを体感しているか?

しかし速度とはなんだろう。そしてわれわれはどうやって速度を感じ取っているのだろう。そんな疑問をいつも抱いている。自転車に乗ってどうやってスピードを感じとっているか?

そのまともな答えを出すサイクリストに出会ったことがない。

「スピードメーターを見ているからわかるよ」という声も聞こえてきそうだが、時計もメーターも等速運動を分節して表示しているだけで、スピードそのものを実感させてくれる道具ではない。設定を間違えてスピードが多少違っても気づくライダーはいないはず。体感するということとは根本的に異なる。

体感とは、端的にいえば、聴覚、視覚、味覚、触覚、嗅覚、の五感を駆使し外界の情報を読み取ることにほかならない。

動いていく景色を読み取る視覚。風の風圧を感じるのは触覚や聴覚だろう。人間はスピードそのものを感知するセンサーは持ち合わせていない。

自転車に乗るといろいろなことを考え感じとれる。風、景色、マシンの性能、体の使い方に物理の法則までテーマはつきない

事実

みなさんも時速250km近くの新幹線のなかでは、まったくスピード感を味わうことができない。

外を見れば250kmで景色は流れている。窓が開いていたとしてら、風圧で顔を出すことすらできないだろう。それがスピード感なのか。いや違う、それは視覚、触覚などの影響にすぎない。

「慣性の法則」という原理がある。空間ごと動いている車内では250kmで進む中にいても、スピードを体感できない。あたりまえのようだが、その事実に目を向けてほしい。クルマや飛行機も同じことだ。

さらに掘り下げるのなら、地球は時速1万7000kmで回り、太陽系は時速86万kmの速度で移動している。静止している惑星から見ればわれわれはものすごい速度で移動している。そう、速度とは相対的なものであり、何かと何かの「差」と考えることが一般的だ。

選手の速度感

30年以上前、競輪選手24人を集めフィーリングテストが行われた。寸法の異なるピストバイクが6台用意された。結果は散々だった。「最高に調子がいい」と感じるフレームがもっともタイムが出なかったり、「調子が悪い」と答えたフレームがもっともタイムがよかったり。ほかにも感想とは裏腹な結果が目立った。むろんフィーリングとタイムが一致するライダーもいたが、そのライダーにも一貫性は見られないという結論となった。

現在の選手も、1着を取ってもフレームとの相性が悪く不満を抱く選手もいれば、9着でも最高に調子がよかった!という選手もいる。

もちろんアマチュアライダーやインプレをするライダーなども同じだろう。

五感で感じているのであれば、景色や風向きや天候で感じ方は異なる。では彼らはなにを持って自転車の性能を測っているのか?

ここで「差」ということに注目することとなる。

32年前、競輪選手を対象に異なるフレームスケルトンによるフィーリングテストが行われた。200mハロンを中心に実験が行われたが予想を大きく裏切る興味深い結果が明らかになった

シックスセンス

スバルラインを下りながらつながった。人にシックスセンス(第六感)があるとすればきっと加速感だ。

人類は速度を感じとることはできない。しかしどうだろう、私も皆さんも加速感を体感できているのではないだろうか。言うなれば急激な「差」が生じた際のあの感覚だ。(生物学的にもどこで加速感を体感しているのか明らかではなく、鼓膜や平衡感覚でもないとのこと)私は3500ccのクルマと1000ccのクルマに乗っているが、お気に入りは1000ccの軽い車体だ。一気に上がるスピードが病みつきになる。

自転車でも速度変化の大きい下り坂は山を上った際の最高のご褒美だ。

スピード狂なる人種がまわりに多くいる。自転車、モーターサイクル、クルマなど彼らは速度その物に熱狂しているのであろうか?

いやそうではない。メーターが250に振れることに興奮を覚えているわけでもない。一気にスピードが上がるときの加速感に熱狂するのだ。

時速300キロの電車を操縦したからといって、そこに満足するスピード狂はいないだろう。

ライダーはわずかな加速感をどこかで検知し、性能や走りと結びつけているのではないか。そうであれば性能の追求にも変化が必要だろう。

2つの質問

選手やユーザーにいくつかの質問を用意している。その答えから問題を抽出しフレームに反映するためだ。

選手に必ずする質問が2つ

1.低速からのスピードの乗せやすさ。
2.高速維持の容易さとそこからの伸び。

要はどちらも加速感覚で、根本的なスピードではなく、ある速度からある速度の「差」ということだ。

ライダー、いや人類は、速度そのものには鈍感だが、加速感にはとても敏感に感じる。

キモは、どの速度からどの速度での加速なのかだ。なぜなら、速度域によってフレームにかかるストレスはまったく異なるからだ。

プロとアマチュア、競争形態、走り方でも異なる。どのスピード域での加速感かを見極める。そこに、ふたつの質問の意味が生きてくる。そしてライダーの感覚に訴えかけることのできたフレームは、多くのレースで実績を納めてきた事実もある。

選手たちには同じ質問を繰り返し、データとして蓄積している。しかしフィーリングの答えは各々で一貫性がなく、雲をつかむような作業だ。しかし人間が感じ取っている「速度の正体」がわかれば一筋の規則性が見えてくる

スピード

「スピードとは何か?」壮大であり人類の意味にまで発展するテーマだ。とうてい私の知見では語り切れないテーマでもある。

しかし、人間の身体のどこかにある超精密な加速センサー。それを信じライダーの感覚とマッチするフレームを一本でも多く届けることができたならと思う。

Cherubim Master Builder
今野真一

東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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