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日本的なデザインとは?【革命を起こしたいと君は言う……】

日本的な表現

東京サイクルデザイン専門学校の卒業製作で各学生にテーマを聞く機会があった。最も多いのは「日本的な自転車」を作りたいというテーマだ。

日本人にかぎらず自国を表現したいという気持ちはシンプルな発想だ。私もそんなことをずいぶんと考えたことがある。では、どうしたら日本を表現したり目的とする物の本質に近づけるのだろう。日本の障子は破れる

そのなかの一人の学生に障子を使って日本を表現したいとの相談を受けた。障子には私も日ごろ強い関心があったので、アドバイスにも熱が入った。

さて、どう自転車に障子を落とし込むか。やはり、その前に障子の機能の本質を整理しなければならない。1.軽い 2.光を通す 3.視線を遮る 4.破れる。

そう、破れるというところがポイントだ。耐久性を狙ったものの多いなかで、この日本の障子のようにいとも簡単に破れる物は他国にはあまりない。ゆえにこれが障子最大の特徴だと私は考える。

障子の本質は単に和紙を貼ることではなく「破れる」ことにこそある。障子が弱いという問題から、使う側に破れないように使うという情報を与えている(私はよく破り、いつも怒られた)。

破れるからこそ障子付近では、おしとやかに動き、開ける際はていねいに引き手を使い美しい所作を生み出す。日本人の作法の基礎となっている。これこそが特徴だ。

この本質を落とし込むとなると「壊れやすい自転車」を作るとなってしまう。思考整理ばかりしていると、なかなか進まないのでエアロフィンやスポークホイールなどに障子を使ってみようかという結論にたどり着いたわけだが……やはり難しい。

製作所の目の付く場所には一流の物を並べ職人やスタッフの洞察力、美意識のレベルアップを促す。カメラや楽器、工具などあらゆる物だ

黄金期チネリ・ピスタ

ここに1961年に自転車工業界が発表したチネリフレームの研究結果がある。この時代、すでに日本は世界有数の自転車生産国に成長していた。

しかし競技用フレームとなるとまだまだ遅れをとっており選手の成績もかんばしくない。そこで自転車工業会は1964年東京オリンピックに備えヨーロッパの競走車両を徹底的に調べ上げるというプロジェクトを行った。

対象車両は1960年ローマオリンピック時に日本選手団が購入してきた3台のチネリとなった。イタリアのチネリのようなフレームを作ることができれば、日本の競技者も世界レベルに近づけるはず、と必死だ。

調査の内容は、驚くほど精密かつ詳細に調べあげられている。寸法やパイプの肉厚にネジのピッチに製作時のノックピンの長さや位置なども。

さらには、ステッカーの材質や印刷された色の順番までもが調査され、最終的にフレームは真ん中から切断しロウの流し込み具合までもが記録されている。

日本人は鉄砲に蒸気機関にクルマまで、コピーして自分たちの物にすることに長けているといわれるが、これを見るとあらためて驚かされる。

しかし、少々疑問も残る。私が多くの競技フレームに要求する重要なファクターをいくつも見落としている。たとえば、フロントセンターやトレールの考察など、フレームの精度にはまったく触れず、数値はいっさい記載されていない。

むろんマークの材質も大事かもしれないが……少々お粗末な部分も残る。おそらくフレーム製作者がプロジェクトに参加しておらず意見が反映されなかったのかもしれない。これでは、レーサーの本質に届くまでにムダな時間がかかってしまう。

私のショップにも飾ってある同時代のチネリがある。真の競走マシンであり、現在も並々ならぬオーラを発している。私なりに日々チネリを眺めて研究しているが、彼らが見落としているポイントがいくつもある。

たとえばリアのチェーンステーとエンドの接合部。挿絵を見て欲しいが、チェーンステーの取り付けの角度がどの方向に向かっているかに注目してほしい。観察すると、その延長線はハブ軸の中心へと向かっている。

むろん偶然ではなく、力学的に理にかなっている。また全体のフォルムは力強い印象を与えることとなり、美しさの要因にも一役かっている。

製作者の私にとっては簡単な発見だが、製作に関わる者のいない組織ではいくら研究してもその重要性(本質)に気付くまでには、恐ろしい時間を要するだろう。

1964年東京オリンピック自転車競技に向け日本が海外レーサーを徹底的に調べあげた。結果は!?

すべての形に意味がある

私のショップやオフィスには一流の物を飾り、私もスタッフも日ごろから、触ったり動かしたり使ったりして洞察力を養うように心がけている。

仏ナベックス社のラグセットや名作と呼ばれる楽器や椅子に60年代チネリに富士フイルム社のカメラなど。眺めて触って使って意味を探る。日ごろから目にしていれば、きっといい感覚を養えるだろう。

何かを表現したり製作したりする際、その形や物事の本質をどう理解するかが課題となる。

安易に漢字を使ったり、マークをまねしたり日の丸を貼ったり形だけの思考は、お粗末な結果しか得られず、本質的な部分を表現(製作)したこととはならない。

一見、なにも考えられていないように見える接合方法やデザイン。しかし、よく観察すると恐ろしいほどにいろいろな意味が浮き彫りになる。職人のエンドという機能に対しての哲学さえ見え隠れする

日本的とは

私の自転車は、海外だと日本的だと多くの方にお言葉をいただく。褒めてるかどうかはわからないが、よくも悪くも日本的だと。

実際私は日本を意識して自転車を作ってはいない。むろん漢字も使っていないし日の丸も貼らない。むしろヨーロッパを強く意識し憧れを持って製作もしている。

日本的とはなんだろう?と帰国して慌てて調べるが答えは出ない。茶道の先生に聞いてみたところ、今野さんの作る自転車はシンプルだからじゃないですかと、簡単にあしらわれた、ようするに引き算の美学なのではと。

これは日本人のDNAに刻まれている感覚で、500年前、千利休の時代から日本のデザインはミニマリズムを好み確立されている美意識だ。

なるほど。ところせましとマークを貼るのは好きではないし、デザインに関してもどれだけ削ぎ落とすかにこだわっているかもしれない。そしてすべてに意味を見出したい。

なにも勉強したり調べたりしなくても、脈々と日本人のDNAに刻まれる感覚なのかもしれない。逆説的にいうなら、われわれの作る製品はどうあがいても日本的になる。

そして昨今、建築や乗物、パソコンのデザインはミニマリズムを強く意識し右も左もミニマリズムだ。これこそ日本人がもっとも得意とする考え方で、世界が日本のデザインや本質を理解し追従する時代が来たのかも知れない。

9月16日「自転車とカメラの関係」富士フイルム上野隆氏、俳優石井正則氏との対談を披露。モノ作りへの想いをぶつけ合った。日本ブランドのフジとケルビムの思わぬ共通点、デザイン&コンセプトに深い意味があることを再確認できた

Cherubim Master Builder
今野真一

東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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