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ネジの締め付けトルク性能【革命を起こしたいと君は言う……】

締め付けトルクで音が変化

ケルビムユーザーでヴィンテージ楽器店を経営している人がいる。私も好きで彼の店に出かけてはいろいろな話をうかがう。ヴィンテージ楽器の世界では当時物のオリジナルネジ一本が数万円で取引されている。「オリジナルにこだわるコレクターも多いからな」と漠然と思っていた。

しかし店主は「いや音がまったく違うんですよ」という。さらには、締め付けのトルクで音が変わるので、今野さん勝手に回さないでくださいと念を押されるほどだ。音を比べてみると確かに違う。

さて、われわれ自転車の世界でのネジやトルクの関係はどうなのだろうか。

昨今の悩み

お陰様で本年は非常にオーダーの多い年となった。この場を借りてお礼を申し上げたいが、オーダーが増えれば悩みも増える。そのひとつにフロントメカの直付け加工がある。このネジを力任せに思いっきり締めてしまい、破損するケースが増えてきた。

また、電動コンポで無理なタイミングで変速を強行してしまうケースもあり、そこにかかるトルクは相当でカーボンバイクでも問題になっている。

適正トルクを守っていれば……との声もありそうだが、パーツのトルク指定はあくまで単体の基準で、相手がどんな材質なのかを定義づけされておらず、正直役に立たないのが現状だ。

われわれの作るフレームは限界の肉厚で製作している場合が多い。組みつけ時に無理な力をかければ、それだけで亀裂も入る。そこにペダリングパワーがかかると破損してしまう。

ユーザーやショップには注意しても、ほかのユーザーに渡るとなると不安が残る。

解決策はFD直付けの場合肉厚を厚くすれば破損に対しては完全に解決する。大手メーカーのほとんどがそうだろう。しかしマスプロメーカーの思考にシフトするのは、ハンドメイドメーカーとしては安直な結論だ。

シートチューブの肉厚は自転車のフィーリングを大きく左右する。重量にも影響する。これを販売の解決策として変更するのは、われわれとしては悪魔に魂を売るようなものだ。さてどうしたものか?

フロントメカ取付は頭を悩ませる課題だ。左から「ワイヤー直付」「バンド」「電動直付」の各タイプ。スチールでも取付け時に目一杯の力で締められたらひとたまりもない

万力も壊れる

以前働いていた職人が、よく物を壊し悩まされていた。

万力は鉄の塊で30㎏の重さがある。若い職人は力まかせに機械のネジを締めて壊し、さらには万力も壊した。乱暴なスタッフだな、と肩を落とすしかない。

私は彼に「これ30年近く使ってたんだぞ!」と言った。しかし彼は、「それなら寿命ですね」そんなやりとりだった……。いや工作機械や万力は、使い方を把握していれば壊れることはない。

「なぜ壊すのか?」この問題を考えるとひとつの結論に至る。ユーザーが構造を理解していないからだ。

われわれが肉薄チューブにもかかわらず壊さずに使い続けていられるのは、この部分がどれくらいの肉厚と硬さで、フロント変速の際どのくらいの力がフレームにかかっているか理解しているからだ。それが理解していればそうそう物は壊さない。

しかし昨今のパーツは、構造を理解しにくい造形になっている。電動メカはいい例だ。ワイヤー時代からシフト感覚が養われている人であれば、タイミングやどのくらいの負荷がミッション系にかかっているかわかる。しかし電動しか使ったことがなければ、ポチッと触れば変速する物でしかない。

このあたりのデザインを再現しユーザーにアフォード(提供)していかなければならない。最近のクルマはサイドブレーキがスイッチのものが多くなんとも気味が悪い。グイっと手で引くサイドブレーキのほうが手ごたえがあり好きだ。

スチールフレームは想像するよりはるかに繊細な乗り物だ。そこをわかるようにアフォードするのも、今後われわれの仕事となる。

さすがの万力も強度や力点を理解しない人間に締められたら壊れる。こんなになるまで何を挟んだのか謎だ

競輪でのトルクの重要性

トルクによりギターなら音も変わる。自転車の場合はどうかというと、乗り味が変わる。

私の組む自転車はかなり高トルクで組み上げている。全体の剛性感は自転車を持って2〜3回地面にトントンとやっただけである程度のことはわかる。一流のメカニックであれば同じだ。

好みにもよるが、私は雄ネジと雌ネジをそれぞれ限界値で締めたいと願っている(降伏点には達しない)。

トルクレンチのみで組み付けられた自転車は100%緩い自転車となる。トルク指定の多くはそのパーツ単体の破損を恐れた指定の場合がほとんだからだ。

また競輪選手は、自分の締めたネジを増し締めされるのを非常に嫌がる。理由はフィーリングが別物になってしまうからだ。他人に増し締めされたマシンは悲しいかな別物になってしまう。

私もある名選手に今の締め付けトルクが気に入っているから、パーツを外さずにフレームを採寸してくれと依頼され苦労したことがある。都市伝説ではなく現実に行われていることだ。

トルクや位置が微妙に変わるのを懸念しステムを外さない選手もいる。外せば二度とは戻らないバランスだ

機械論ではなく生命論

生命研究の世界では臓器や筋肉はパーツではなく、すべてが調和し生命として成り立っているというのが常識だ。

心臓や血管はただのポンプやチューブではなく、さまざまな機能を受け持っている。目や鼻も単にそのためだけに存在しているのではなく、バランスの元に成り立つ。

自転車も然りだ。タイヤやミッションにチェーン、さらにはネジのトルクまで。すべてが調和して走りに影響を与えている。

たとえば、28Cは調子がいいか?と問われても私には答えられない。フレームにパーツ、そしてネジまでも理解しなければならないからだ。タイヤだけの性能、コンポだけの性能を語り選ぶのはあまりにも単純なメカニズムとして自転車をとらえすぎている。

ネジ一本までバランスを重視する自転車作りは、50年前のルネ・エルス的な考え方でもある。私はこれらを再確認し、現代の技術で究極のマシンを提供し、ユーザーに理解していただく活動を行う心算だ。

ダヴィンチのスケッチ。500年前すでにスプリングやネジの構想が。左のシートピンはカンパニョーロと国産の物。カンパもすばらしかったが国産も負けていない。穂産業製は最高の締め具合い

Cherubim Master Builder
今野真一

東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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