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安心するのはまだ早い!?UCIが新レースカレンダー発表も、問題は山積み|世界自転車レース事情

紆余曲折の後、2020年度の新UCIレースカレンダーが5月5日に発表され、選手をはじめとする世界中の自転車関係者やファン達もひとまず安堵したところ。しかし、現在のカレンダーどおりにいかないとも言われている。そこでツール・ド・フランスや世界選手権がどうなっているのか? いままでの経緯、そしてこれから起こりうるプロ自転車レース界の展望を、UCI公式選手代理人山崎健一が解説する。

※メインカットはイメージ写真 2019年ツール・ド・フランス第4ステージより PHOTO:A.S.O./Pauline BALLET

2020年度UCIレースカレンダーを発表も、残る不安

UCIが5月5日に発表したカレンダー 詳しくはこちら

その内容をざっくりいうと、例年は3月~10月の約8カ月間で行われる主要重要レースが、たった3ヵ月の間に濃縮された強烈なもの。特筆すべきは8月29日~11月8日までの72日間に、3大グランツールと世界選手権が開催予定である点。恐らく未来永劫自転車ロードレース史に刻まれるであろう、ある意味特別なシーズンとなりそうです。さて本カレンダーの位置づけとしては、自転車ロード界を形成する全ての陣営が業界の生き残りをかけて、各国政府・各省庁と議論を繰り広げた上で絞り出した「最終提案書」。

もちろん今世界が最も憂慮すべきは、数多くの中の一スポーツに過ぎない自転車競技ではなく人命です。しかし、やはりこの新レース計画は、これがダメなら世界のロードレース界が強制リセットされかねない・・・というほど切実なものなのです。

世界ロード界の運命を背負ったツール・ド・フランス

写真はツール・ド・フランスの主催者ASO社のクリスティアン・プリュドム氏 2020年のツール・ド・フランスコース発表より PHOTO:A.S.O./Thomas Colpaert

この度発表された新カレンダーに載るレースは、それぞれが異なる国の民間主催者等により開催されます。よって各大会主催者は、国によって異なる新型コロナ対策を打ち出す政府当局との攻防を潜り抜けて、開催の目途を立ててきました。

そんな中でも世界が注目しているのは、誰もが世界最大と認め、政府やUCIとも渡り合える規模・政治力を持つ「ツール・ド・フランス(ASO社主催)」の動向。ツールは、自転車ロードレースが一年の間にメディアで露出される総量を100とした場合、実にその50%以上を占める自転車界の看板大会。つまりツールが開催されなかった場合、各チームはスポンサーから課された「宣伝活動」の半分以上を履行出来ない事態となり、不満に感じたスポンサーがチームから資金を引き上げるリスクが生じます。

結果から申し上げますと、ASOはあくまでも新日程である8月29日からの通常開催(観客有)を頑として主張。それに対して仏政府は「8月末までは大規模集会イベントの開催は禁止。よって納得できる新型コロナ対策を練った上でのみ開催出来る可能性がある」と応戦する神経戦の真っ只中。(*ASOと政府の攻防詳細は別表参考)。

【参考】「ツール・ド・フランス」延期決定までの経緯(5月9日現在進行中)】

日程 状況
3月24日 あくまでも予定通りの6月29日開幕を主張する仏ASO社(ツール・ド・フランス主催者)だったが、ツールよりも後の日程で開催予定の「東京五輪」延期決定で一気に風向きが変わる。しかし引き続き予定通り観客を集めて開催する主張を継続。仏スポーツ省・観光省も、フランスの象徴であるツール開催の可能性に水を刺す様な発言はせずに静観。
4月13日 仏政府が6月末までの大規模集会禁止を発表。
これにより、6月29日開幕だったツールの予定通り開催は絶望的に。
4月15日 ASOは政府による大規模集会禁止令が更に7月末までに伸びる事を見越し、ツールを一気に予定より2ヶ月後の8月29日に開幕することを発表。ASO代表であるクリスティアン・プリュドムは引き続き「ツール・ド・フランスが無観客で行われることなどあり得ない」と主張。
4月23日 仏スポーツ大臣が、ツールの開幕日とバッティングする「8月末までの大規模スポーツイベント禁止」の可能性を示唆。さらに「その場合はツール・ド・フランスのみを特別視しない=開催の許可を出すことはない」と発言し、仏自転車関係者&ASOらによる大反発を受ける。仏トップチームFDJの代表であるマルク・マディオ氏は「スポーツを守る立場に居るはずのスポーツ大臣が、一般世論の反発から自分の立場を守るためにツール・ド・フランスを売った」と発言。
4月28日 ・仏政府が、8月末まで5,000人以上が集まる大規模イベント開催禁止を正式に発表。
よってツール開催の焦点は、無観客でやるか否か?その場合はどのようなコロナウイルス感染予防措置を取るか?に移行。
・大臣が姿勢を軟化=「ツールが開催されないと、自転車業界が窮地に陥るのは十分理解している。」
5月5日 UCIが新カレンダーを発表(ツールの8月29日開催を含む)。なおもツール・ド・フランス開幕日が仏政府による大規模イベント開催禁止期間(8月末まで)に被っている状況に変わりなし。
5月6日 ・ASO代表プリュドム氏は「あくまでも“無観客ツール”はあり得ない」と主張。
「9月はバカンス中ではないし、海外から観客も少ないはず。警察や憲兵隊の絶大な協力も得られるし、うまくコントロールが出来るはず。もちろん全ては新型コロナウイルスの収束具合によるが、まだツール開幕までは4か月もある。様子を見ていこうじゃないか。」

表は著者まとめ

開催地が変更となった世界選手権ロードレース

大会公式WEBサイトhttps://www.aigle-martigny2020.ch/en/より

もう一つ動向が注目されている大会は、9月20日~27日の間にUCI世界自転車連合の本拠地(スイス・エーグル&マルティニー)で開催予定の「UCI世界選手権ロードレース」。こちらの事情はツールのそれとは少々異なります。

UCI世界選手権の開催財源は、世界選開催地自体から納められる登録料(約6億~8億円)や世界各地で開催されるUCIレースからの大会登録料(カレンダーフィー)です。しかし今年の世界選は、当初開催予定だったイタリアの都市ヴィチェンツァが財政難を理由に開催権利を返上したことにより、止むを得ずUCI地元での開催が決定した経緯があります。更に財源として当てにしていた世界中のUCIレースから得られる登録料も、大半のレースが中止&延期となった今年は当てにできず、結果として近年稀に見るほどコンパクト&ローカルな体制で開かれる世界選に。更に世界各地から人々が集まるという世界選の性質上、新型コロナ感染リスクが増すのでは?との懸念もあり、大会運営をヘルプする地元や政府がそれに難色を示している様子。つまり、例年の様に“大枚はたいて誘致した世界選なんだから、オラが街を世界に向けてアピールしまくってやる!”と云う様なギラギラさは少なく、大会自体が若干脆弱なのは否めません。

そしてフランスと同様、現状スイスは8月末までの大規模集会イベント開催を禁止しています。仮に新型コロナウイルスの収束が遅れて禁止令が9月末まで延期されれば、世界選手権の開催に待ったがかかる可能性も否めません。

そんなこんなで、世界有数の大規模レースといえども、かなり不安定な状況におかれています。

レース開催に向けての障害とは?

写真はイメージ、2019年のツール・ド・フランス最終日より PHOTO:A.S.O./Thomas MAHEUX

新カレンダー発表でシーズン再開は確約されたように見えますが、計画通りに開催するにあたって、各主催者&出場者達がクリアすべきポイントは下記のとおりです。

大規模集会イベントの開催禁止令問題

EU各国ともに数千人が集まるような「大規模集会・イベント」開催の禁止を表明。既にフランスやスイスでは、少なくとも8月末までこの措置の継続を決定。つまり、各レース主催者は各国政府を納得させられる様な、新型コロナ対策を施した開催態勢、例えば3蜜を避けた「無観客レース」の構築が必要となります。

世論の反発

フランスにおいては、自転車よりも確実に人気があるサッカー(リーグ1)やラグビー(トップ14)のプロリーグでさえ開催中止に追い込まれました。仮に新型コロナウイルスの収束が遅れた場合、個人主義色が強い西洋であっても、自転車レースだけ開催するなんておかしい!というような同調圧力がかかる事も大いに予想出来ます。開催にあたっては、行政のみならず世論をも納得させられる体制構築が必要です。

EU入境時の「14日間自主隔離」問題

新カレンダー上にあるほぼ全てのレースの開催地であるEUでは、EU外からの入境者に対し「入境後14日間の自主待機実施」を義務づけています。それがいつまで継続するか?は国によってまちまちですが、フランスでは少なくとも7月24日迄の継続が確定。今後の新型コロナウイルス状況によっては延長される可能性もあり、先行きは不透明です。よってEU外に住む選手やチーム関係者、メディアさんはこの措置に悩まされる事になりそうです。

予定通り開催されても問題は山積み

感染対策による医療ソースの逼迫はドーピング検査にも影響を与える可能性が示唆されている。※写真はイメージです

さて、このまま新型コロナウイルスが収束へと向かい、無事に新カレンダーどおりにレースが開催されたとしても、問題は山積みです。

レースに出られない選手が続出

通常のシーズンであれば、選手それぞれのレベルに合ったレース、例えばUCI1や2クラスの中堅どころレースが満遍なく開催されますが、今年はUCIワールドツアーなどのトップカテゴリーレースのみが最優先で開催される雰囲気。よってUCIワールドチームの3軍選手や、プロコン&コンチネンタルチーム選手が出場できるレース数が絶対的に足りず、出場機会に恵まれない選手が多く出てくる懸念も。

スポンサーの現場介入

今年の様な限られたレース数で、最大限の露出を求めるチームスポンサーは「スポンサーの現場不介入」という不文律を破り、自社がサポートするチームの看板選手をより多くのレースに出すよう、現場に強く求めてくる可能性があります。よって、監督やコーチが選手のコンディションを踏まえて出場選手を選ぶことが困難に。結果としては、故障をする選手も増えるし、無名な若手選手のレース出場・成長機会が奪われてしまうリスクがあります。

小規模レースは更に窮地に

新レースカレンダーの発表で、一見、世界自転車ロード界は辛うじて救われたかに見えますが、全世界で開催されるレースの過半数以上を占めるであろうUCI-HC、1&2クラスの今季開催は不透明(恐らくは多くは中止)です。そしてコロナ禍で経済的に逼迫した多くの大会スポンサー企業は、今年中止となった大会への来年以降の協賛を見直す可能性がありそうです。結果、そこを主戦場にしているコンチネンタルチーム&選手らにとっての“仕事場”が、来年以降は減少する危険性があります。

ドーピング問題

UCIのダヴィ・ラパルティアン会長によると、コロナ禍が本格化した3月15日以降に実施された抜き打ちドーピングテスト数は、従来の5%程度。理由は検査官が移動制限で動けないのと、検査で必要とされる医療機材&医療従事者が足りていないためとの事。レースがないから検査は不要と思うかも知れませんが、ドーピングにはトレーニングでより強く身体を追い込む目的での使用方法もあります。レース再開後も医療リソースが逼迫している事が予想され、ドーピング検査が手薄になるのでは?との懸念もされています。

***

ひとまず白紙のシーズンとなるリスクは遠のき、業界が一気に崩れ去る事態からは免れそうな世界自転車ロード界。しかし、来年度以降にほぼ確実にやってくるであろう「コロナ禍の真の影響」を見据え、自転車ロード界に身を置く我々はハンドルとブレーキから絶対に手を離さない心構えをすべきなのかも知れません。

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PROFILE

山崎健一

Bicycle Club / UCI公認選手代理人

山崎健一

UCI公認選手代理人&エキップアサダマネージャー。日本人選手の育成に尽力し、プロ選手からの人望も厚い。バイシクルクラブ本誌では連載「フ●ッキンジャップくらいわかるよ、コノヤロウっ!」を担当。

山崎健一の記事一覧

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