TREK・EMONDA SLR 9 eTap【ハシケンのロードバイクエクスプローラー】
ハシケン
- 2020年08月15日
走れるサイクルジャーナリスト・ハシケンによる100kmインプレッション連載トレックの軽量モデル「エモンダ」編
今月は、3年ぶりにフルモデルチェンジを果たしたトレックの軽量モデル「エモンダ」のテクノロジーから
ライドフィールまでをユーザー目線で徹底的に明らかにする。
軽さだけで登坂性能を高める時代に終止符を打つ!?
世界のメジャーブランドの多くが、エアロ、エンデュランス、そして軽量というようにラインナップを明確にカテゴライズするなかで、トレックのラインナップもモデルによって特性が分かれる。
2003年に万能モデルとして誕生したマドンは、現在ではエアロロードとしての地位を固める。そして、エンデュランスロードというカテゴリーを定着させたドマーネ。両者には、ISO S P EED(アイソスピード)と呼ばれる独自の振動吸収機構が搭載される。
いっぽうで、圧倒的な軽さを命題としてきたエモンダは2014年に誕生して以来、常にフレーム重量600g台の軽さを実現してきた。
そのエモンダがフルモデルチェンジを果たし、第3世代へと生まれ変わった。今後、続々と登場する2021モデルのなかでも最注視すべきモデルのひとつだ。
今月は本格的にエアロをまといながらフレーム重量700g以下を実現した軽量モデル「エモンダSLR」を、いちユーザー目線で徹底的に掘り下げ紹介していく。
軽さにエアロはほんとうに融合できるのか。ヒルクライムレースでほんとうに速いのか……。その興味はつきない。
TECHNOLOGY 【テクノロジー詳細】
登坂のスペシャリストであるエモンダにさらなる性能を求めるために必要な要素は空力性能だった。
ディスクブレーキ専用設計として開発された新型のテクノロジーを紹介していく
新素材の投入、軽さと空力性能の調和によって磨かれた登坂力
すでに極限の軽さを実現していたエモンダにとって、登坂性能をさらに高めるためには重量を削るアプローチから空力性能を高める新たなアプローチが必須だった。空力性能に優れるエアロチューブは、独自のKVFチューブで培ってきたが重量は増してしまう。そこで、フレーム素材のOCLVカーボンの強度を高めることで、結果として少ない素材量で軽いフレームを作れることを可能にした。この新たな800シリーズOCLVの採用と、CFD解析や風洞実験により導いた新たなエアロ形状のフレームによって、軽さと空力の最適解を導いた。フレーム重量は698gと前作比で33g 増だが、その分を空力性能によって大きくカバー。勾配8.1%の坂では1時間あたり18秒のタイム短縮を実現。確実に登坂性能を高めつつ、平坦路では1時間あたり60秒もの短縮を果たし、万能性能も高めている。この高いエアロ性能の実現には新開発のアイオロスRSLバーステムに加え、新型ハイエンドカーボンホイール、アイオロスRSL37によるトータル性能も欠かせない。
いっぽうで、非ドロップドシートステーやシートマストなど先代から継ぐエモンダらしさを残している点も見逃せない。
強度を30%引き上げたOCLV800を新採用
焦点はクライミング時の空力性能KVFチューブを全面採用
空力と軽さを向上させるアイオロスRSLバーステム
登坂時の優位性と快適性を重視したリアバック設計
同時開発で刷新されたアイオロスカーボンホイール
タイヤクリアランスは28C対応独自の専用シートマスト採用
プロジェクトワンでオンリーワンのエモンダが手に入る
フレームへの攻撃性も少ないネジ切り式のT47スレッドBB
GEOMETRY
100km IMPRESSION 【100km徹底乗り込みインプレッション】
極限の軽さを追求してきたクライミングマシンは、第三世代になり、その軽さを捨てたのか!?
エアロダイナミクス性能を本格的に融合した新型エモンダの実力をチェックする
ヒシヒシ感じる万能性能にも埋もれない登坂力。新生エモンダの前に立ちはだかる坂道なし
リムブレーキからディスクブレーキの移行による影響をもっとも受けてきた各ブランドの軽量モデル。ディスクブレーキによる重量増とスルーアクスル化によるエンド剛性の向上が影響し、それまで追求してきた軽快さが失われていったモデルは少なくない。そして、多くの軽量モデルはエアロダイナミクスの融合に走り、今では以前のように超軽量を打ち出す、とがったモデルは数少ない。
そんななかでエモンダも先代でディスクブレーキモデルを登場させ、新型エモンダはディスクブレーキのみの開発だ。しかも、エアロダイナミクスを本格的に融合させ、先代よりも重量はわずかながら増しているという……。ヒルクライムだけを考えると「ああ、お前もか」と相棒を失うようなやるせない感情さえ湧き上がった。
ところが、新型エモンダを本気で走らせてみると、そんな不安は消え失せていった。踏み込みからダイレクトに放たれる気持ちいい推進力を発揮しながら、坂道をスムーズに駆け上がっていく。
ひと踏みでグッと伸びる推進力は、前作エモンダに通ずる特性でパワーロスをまったく感じない。なによりトラクションをかけたときに感じるリムブレーキモデルにも通ずる軽快なレスポンスがヒルクライムモデルらしい。
そして坂道を走らせることで気づいたことがある。勾配4〜6%ほどの丘陵地帯は、新型エモンダの得意なゾーンだ。時速20km前後の低速域を軽いトルク感で想像以上の進みを生み出してくれた。軽さによる恩恵は受けながらも、エアロをまとったことで登坂性能のレベルが上がっているようだ。
さて、その後、やや傾斜が増したところでダンシングに切り替えると、ややフロント剛性の高さが目立つ印象を受けた。力を抜いた軽やかなダンシングイメージとのズレは多少感じたが、しっかり身体の軸を作れば驚くほどダッシュがかかるのもたしか。
このあたりのフィーリングは、軽量モデルというよりは万能モデルに近い。その分、平坦で時速40kmを超えて巡航するようなシーンに入ると、路面をしっかり捉えてバイクの挙動は安定して前へ前へと吸い込まれていく印象だ。
新型エモンダは、とがったクライマーモデルの要素を感じられるセミエアロロードという具合だろうか。スピードの伸びのよさは、スピードの乗りがいい新型アイオロスRSL37ホイールの性能によっても引き出されていることを実感する。
ヒルクライムレースでいえば、まさにMt.富士ヒルクライムのような勾配6%ほどの緩斜面コースでもっともポテンシャルが発揮されると感じる。
新型は、従来のエモンダの進化の要ともいうべき軽量化はなく、むしろ微増しながらも、純粋な登坂性能を空力性能によって十分にカバーしてしまっていた。
ヒルクライマー垂涎の超軽量モデルの開発をリードしてきたエモンダが、みずから山岳に特化した軽量モデルの進化に終止符を打つのではと感じていたが、間違いだった。ヒルクライムレースで勝負をかけられるエアロを武器にした山岳スペシャルが、新型エモンダの回答のようだ。
INFO
トレック/エモンダ SLR9 eタップ
130万9000円(スラム・レッドEタップアクセス仕様 プロジェクトワン完成車/税抜)*アンプリファイドアルケミーカラーペイントアップチャージ11万2000円含む
■フレーム:ウルトラライト800シリーズOCLVカーボン
■フォーク:SLRカーボン
■コンポーネント:スラム・レッドEタップアクセス
■ハンドル/ステム:ボントレガー・アイオロスRSL
■シートポスト:ボントレガー・カーボンシートマスト
■サドル:ボントレガー・アイオロスプロ
■ホイール:ボントレガー・アイオロスRSL
■タイヤ:ボントレガー・R4 320ハンドメイドクリンチャー(25C)
■サイズ:47、50、52、54、56、58、60、62cm
■試乗車参考実測重量:6.77kg(サイズ52・ペダルなし)
問:トレック・ジャパン www.trekbikes.com
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