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那須ブラーゼン所属の小野寺慶選手が現役引退を発表

那須ブラーゼンに所属する小野寺慶選手(19)が現役引退を発表した。

小野寺選手は昨シーズンから原因のわからない不調によって戦列を離脱していたが、今年の2月に「外腸骨動脈の線維化症」が原因であることが判明。以後、手術と療養を続けていたが、手術後も症状が改善することがなく、また、次の手術を経ても高いリスクを伴うことから、チームと本人と相談を重ねた結果、今シーズンをもって現役を引退することになった。

2019年デビュー当初は不調の原因がわからないまま苦しみぬいていた小野寺慶選手

小野寺慶選手コメント

「この度、私は、選手を引退することを決めました。引退の理由としましては、昨シーズンからの不調の原因であった「外腸骨動脈の線維化症」の治療が難しく、競技レベルでのレース活動が困難であると判断したことです。
この病気を発見したのは、今年の2月頃でした。手術を受けて治療を始めたものの、症状の改善が見られず次の治療に進めるかの判断になりました。そこで、次の手術の説明を受けると、手術後に血栓ができるリスクがあることが分かり、手術後は薬を服用しなければならず、落車などによって出血を伴えば命に関わること、他の手術や治療法に関しても現在の様なコロナ禍においては選択することが難しいことから、今年の7月頃に競技に復帰するのは難しいと判断しました。

他にも治療や手術の選択支もいくつかありましたが、いずれも膨大な治療費がかかるもので、また再起についても保証されるものではないものだったことから、競技復帰を目指す治療については断念し、今後については全く違う職業に挑戦する準備をしています。
少し落ち込んでいた時期もありましたが、今は次の挑戦に向けて非常に前向きになれています。現在もこの症状が治っていないので、大変残念ながら引退レースというものを走ることが叶いませんでした。

本来であれば直接会って皆様にご報告したいところなのですが、新型コロナウィルス感染症の影響もあり皆様にお会いするチャンスも少なく、このような形でのご報告になってしまい申し訳ございません。ブログやフェイスブックなどの更新をせずに滞ってしまったおりましたので、ご心配をおかけしていた皆様にも心よりお詫びを申し上げます。
文章を書こうとしても、ネガティブな内容になってしまいそうだったり、文章が全く浮かんでこなかったりと、自分自身の中の葛藤で思うような発信をすることが出来ずにいました。

最後に、ここまで応援してくださった皆様に活躍する姿や結果をお見せして恩返しをすることが叶わないまま引退してしまうこととなってしまい、大変申し訳ない気持ちでいっぱいです。今までたくさんの応援をいただき、本当にありがとうございました。」

小野寺慶選手の症例について、自ら構築したWEBサイト
https://kei-onodera.github.io/

ホームレース那須塩原クリテリウムには不調をおして強行出場していた

若杉厚仁代表コメント

「今回、あまりにも残酷な現実を受け止めなければならないことをとても悔しく、悲しく思います。
小野寺慶選手は日本国内のレーサーの中でも、本場ヨーロッパやワールドチームへのチャレンジの切符を得る可能性のある数少ない才能に溢れる若手レーサーです。

小野寺選手と私自身の出会いはもう10年以上前になりますので、彼が小学生の頃でした。まだまだ本格的に競技の世界に飛び込む前ではありましたが、ライドイベントなどで目にする度に、「自転車に乗ることが本当に大好きな少年なんだな。」と微笑ましかったことを良く覚えています。中学生になる頃には当時立ち上がった宇都宮ブリッツェン傘下のサテライトチームであるブラウブリッツェンに加入し、当時那須ブラーゼンに所属していた兄・小野寺玲選手(宇都宮ブリッツェン)の背中を追いかけるように競技の世界に飛び込んで来ました。那須にも度々遊びに来てくれていて、那須にベルナール・イノー氏を招聘した際も、一生懸命トレーニングや競技キャリアについて相談をしている姿がとても印象的でした。

初めて輝かしいタイトルを掴んだのは14歳当時のU17の全日本選手権タイムトライアルで、この大会は那須ブラーゼンのホームタウンである大田原市で開催されていたレースでした。私自身も嬉しい出来事の一つでした。

以降は年代別の日本代表チームの中で頭角を現し、ヨーロッパを中心に数々の遠征で成果を上げ、代表チームからも絶大な信頼を受ける選手へと成長していました。ブラーゼン加入の前年には、過去最高のコンディションで世界選手権に出場し、不運な落車によって上位進出はかないませんでしたが、不屈の闘志で日本人唯一となる完走を果たしていました。

小野寺選手は、ハングリーであり、クレバーであり、そして明確なビジョンを常に持っていて、その年齢をまったく感じさせません。決して恵まれた環境ではない境遇から、全力の工夫と努力で実力を身つけ、そんな姿が周囲のサポートを引き付けてキャリアを形成してきた選手でした。
世代別のスター選手であり、今後の輝かしいキャリアが目の前に広がっている小野寺選手が那須ブラーゼンの一員となってくれると決まった時には本当にうれしかったです。

ブラーゼンに加入した年に彼と話し合ったビジョンは、1~2年の経験を積んで、英語圏のプロコンチネンタルチームに移籍し、ワールドツアーを目指すというもので、それに向けた具体的な強化策やスケジュールのアイディアも持っていました。
そんな小野寺選手のプロデビューイヤーを原因不明の不調が襲います。原因が判明していなかった当初は、打ちひしがれる小野寺選手の背中にかけてやる言葉が見つけられずにいましたが、再起を目指すきっかけにもなればと、エタップ・デュ・ツールで私の挑戦のサポートを依頼し、共に渡仏したのでした。アルプスを軽快に駆け登る小野寺選手が、再びトップレーサーとしてのキャリアを駆け上がる姿を見たいと心から願っていました。

しかし、シーズンが終盤に差し掛かっても状況は悪化をたどるばかりで、原因もわからないことから、小野寺選手の心には黒く分厚い雲がかかってしまっていた様でした。心がズタズタに切り裂かれて、再び暗い暗いトンネルの中にいざなわれていました。普段は常に前向きで、ぶち当たった課題も必ず、論理的な思考と実行力で打破してきた小野寺選手でしたが、この頃は落ち込んでいた様子が顕著に感じ取れました。

以降、各種検査を進めるうちに、やっとのことで原因を突き止めたのが今年2月のことでした。治療や手術の方向性が見えたことで、小野寺選手の心にも少しの光明が差したように見えました。一回目の手術を終えた後も症状が改善しなかったため、次に考えられる再手術や治療の方針を検討していた矢先、想像もできなかったコロナ禍に突入してしまい、思ったように治療や検査に通うことが出来ない状況に陥ってしまいました。この症例はヨーロッパでは少なくないもので、手術による症状の改善例も存在し、コロナ禍以前は渡欧による手術も検討の余地がありましたが、このコロナ禍はそれを許してはくれませんでした。緊急事態宣言下に入り世の中も混沌とし、身体の状態も好転しない中で、小野寺選手の心は再び真っ暗な闇に包まれていました。自分自身の運命を呪い、暗く冷たい、先の見えない孤独な世界を耐えていたことを思うと胸を締め付けられました。「キャリアに区切りをつける決断をした」と連絡がきたのは8月のことでした。むしろ、晴れ晴れと吹っ切れた様子で、この未曽有の混乱が襲う世の中にあり、自分自身の無力さを毎日のように突き付けられ、でも新しい未来について小野寺選手らしくしっかりと向き合って出した結論だと感じました。

「時期は任せるし、ブラーゼンには今年だって、来年だってちゃんと慶の走れる場所はあるから、焦らずに時期を定めることにしよう。」と返答しました。その後、新しい進路について本人の意志が固まり、方向性が決まったことから、このまま公式戦の戦列に復帰せずに今シーズンを持って現役を引退する運びとなりました。

あまりにも残酷で、あまりにも切ない現実を受け止めることが非常に難しいことでした。僕自身も彼の活躍を心から願い、誇りに思っていましたし、きっと、ブラーゼンからスタートさせたプロのキャリアを引っ提げてヨーロッパで大暴れするような選手になり、いつか昔話が出来たらいいな。などと漠然と考えてもいました。そんな19歳というまだまだ可能性を無限に秘めている若きレーサーがこのような形でキャリアに幕を引き、競技の世界を後にしなければならないことを心から悲しく思います。

しかし、既に小野寺選手自身は新しい未来に向かって希望を持って踏み出しており、その姿をまた変わらず応援し続けたいと考えています。長く、苦しい不調と疾患との戦いの中で、しっかりと自分自身と向き合い続けて出した結論は、本当に小野寺選手らしい、明確なビジョンがあるなと感じました。

実は今シーズンの終盤戦は小野寺選手はレースに帯同するスタッフとしても活躍しており、献身的にチームメイトの走りをサポートしています。きめ細かく、そして積極的にチームの為に貢献しようとする姿は、レーサー小野寺慶と変わらぬ姿であり、デビュー以来共に遠征をすることが叶ってこなかったチームメイトへの献身を“アシスト選手”として全力でこなしているようです。今シーズンも公式戦が残すところ少なくなってきましたが、小野寺選手も含めたメンバー全員で全力で戦い抜き、そして、小野寺選手をみんなで送り出してやりたいと思います。」

 

那須ブラーゼン
https://nasublasen.com/

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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