五輪代表を決めた増田、ナイスガイ賞を受賞! 現地からお届け、スペインでのレース裏舞台
Bicycle Club編集部
- 2020年10月13日
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10月12日にスペインのバスク地方でプルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカが開催され、宇都宮ブリッツェンの増田成幸選手が20位でゴールしUCIポイントを獲得、東京五輪代表をほぼ獲得することはすでに報じられている。増田選手はさらにこのレースで「ナイスガイ賞」を受賞した。
ここでは増田選手ともにNIPPO・デルコ・ワン・プロバンスの中根英登選手と石上優大選手の3選手がオリンピックをかけて最後の直接対決をした、そのレースの裏舞台をスペイン在住の對馬由佳理が現地からレポートする。
直前に決定した宇都宮ブリッツェンの参戦
スタート前の宇都宮ブリッゼンの選手たち。Photo by Yukari TSUSHIMA
新型コロナウイルス感染拡大の影響で今年は10月に開催されることになったプルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカ。大会側から宇都宮ブリッツェンの参戦が公式に発表されたのは、レースの2週間前のことだった。
宇都宮ブリッツェンの参戦の目的は、増田選手のUCIポイント獲得。UCIカテゴリー1.1に分類されるこのレースでは、上位25位までにUCIポイントが与えられる。東京オリンピック出場のために、UCIポイントを獲得したい増田選手を擁する宇都宮ブリッツェンが選んだレースが、このスペインのレースである。
レースの10日前からスペイン入りしてレースに向けて調整を重ねていた宇都宮ブリッツェンは、レース前日の10月11日、バスク入りした。
宇都宮ブリッツェンの清水監督に、レース前日にチームの様子をインタビューしたところ、「スペインに入国してから、特にこれという問題もなく日々を過ごしています。コースの試走は2回行きましたが、やはり上りはきついですね」。
また、レース展開については、「レースをコントロールするチームがほとんどいないので、多分荒れるでしょうね」と予想した。そして、「じつは僕、このレースを15年ほど前に走ったことがあるんです。当時現役選手だった自分にとって非常にきついレースだったことしか覚えていなかったんですが、今回コースの試走の最中に自分がちぎれた上りを見た時、現役当時このレース中に見た風景と感覚がよみがえりました」と笑いながら語っていた。
NIPPO・デルコ・ワンプロバンスの中根、石上のレース前の様子
スタート前の中根選手。Photo by Yukari TSUSHIMA
一方、NIPPO・デルコ・ワンプロバンスは、夏の間スペインでブエルタ・ブルゴスに出場するなど、順調にレースを重ねていた。特に中根選手は、オルディジアのレースの1週間前にはボルタ・ポルトガルという10日間のレースに出走し総合79位という結果で9日間のレースを終えている。
また、同チームの石上選手にとって、このレースは昨年7位になった相性のいいレースだ。とはいえ、今年は3月からレースに出走する機会のほとんどなかった石上選手にとって、久しぶりのレースとなる。
「プルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカ」とはどんなレース?
第1回目の開催は1922年のこと。当初はアマチュアのレースであったが、1925年からプロのレースになり、今に続いている。ちなみに、1982年にブエルタ・エスパーニャを総合優勝したマリーノ・レハレッタ氏はこちらのオルディジアの出身だ。
レースの距離は165km。サーキットコースを使用し、1周約33㎞のコースを5周する。距離が短く厳しい上りが繰り返される典型的なバスクのコースが舞台となり、目玉となる上りは2カ所。
まず、選手たちが5回登ることになるアルト・デ・アバルツケタは上り口に斜度10%の坂が待ち構える約3㎞の上り、そして、このアルト・デ・アバルツケタに加えて、最後の2周には、アルト・デ・アルゾという最大斜度15%の難所が選手たちを待ち受ける。
このレースの歴代の優勝者を見ると、ゴルカ・イザギレ(2010・2012・2014)、サイモン・イェーツ(2016)、アレハンドロ・バルベルデ(2003)、アンヘル・マドラゾ(2015)と、上り巧者の活躍するレースであることがわかるだろう。
今回、同レースにオリンピックの日本代表の最後の1枠をもとめて、日本から宇都宮ブリッツェンとNIPPO・デルコ・ワン・プロバンスの両チームが出走したことは、地元でも、レース前の話題となっていた。
終始ハイスピードでレースが展開。終盤まで逃げ集団が決まらず
雨の中力走する石上選手(写真右)。Photo by Yukari TSUSHIMA
今回、出走するのはワールドツアーチームのアルケア・サムシックを筆頭にした15チーム。地元スペインのブルゴスBHやエウスカルテル・エウスカディ、エキーポ・ケルンファルマ等が出走する一方で、今年はレースの機会に恵まれなかったチームも数多く参加した。
レース前日にのオーガナイザーの一人に今回のレース中の天候とコース状況について質問したところ
「間違いなく雨は降ります。そして気温も今日より低くなるでしょう。そうするとレース中の登りの頂上は相当気温が下がるでしょうね。路面も終始濡れたままだと思います。路面が滑りやすくなっていることがちょっと気がかりですね。」とのこと。
そして、オーガナイザーの予言どおり、レース当日はやはり雨。
雨脚は強くなったり弱くなったりを繰り返す。気温も15度ほどと比較的低めだったこともあり、選手たちは厚着でレースをスタートすることにった。
レース序盤は、多数の選手が逃げようとするも、メイン集団に引き戻されることが繰り返され、逃げ集団が決定するような大きなタイム差をつけることができない。その結果、この日は終始ハイペースでのレースとなった。
加えて、雨は降り続き、気温も下がる。
ハイペースと雨によって体力を奪われた選手たちが次々とレースを棄権する中、ゴールまで50㎞ほどになって、ようやく30人ほどの逃げ集団が形成された。そして、この集団の中に増田選手が位置する。
逃げ集団の中には、アルケア・サムシック、カハ・ルラルとエウスカルテル・エウスカディの3チームが複数人の選手を送り込んでいた。特にカハ・ルラルとアルケア・サムシックは積極的に逃げ集団を牽引し、レースの主導権を握ろうと試みる。しかし、その3チームの集団コントロールから一番最初に抜け出したのは、NIPPO・デルコワンプロバンスのサイモン・カー選手だった。
優勝は サイモン・カー選手(NIPPO・デルコ・ワン・プロバンス)
優勝したカー選手は、ゴール後思わず笑顔が。Photo by Yukari TSUSHIMA
結局、ゴール前15㎞で飛び出したカー選手がゴールまで独走し、今年のこのレースの優勝者となった。今年の8月にプロデビューしたばかりの、 22歳の選手がプロ初勝利を掴んだ。
一方で日本人選手最高位は増田選手の第20位、先頭から5分21秒遅れでゴールした。このレース結果により、増田選手は3ポイントのUCIポイントを獲得。これにJCF独自の係数3をかけ、JCF独自ポイントに換算すると9ポイントの加算となった。
その結果、オリンピック出場を目指す日本人選手のJCFポイントランキングはそれぞれ増田選手383.8ポイント、中根選手282ポイント、石上選手161ポイントとなり、増田選手と中根選手の差はわずか1.8ポイントで東京オリンピックへの出場権利を手中に収めた。
レース後、ホセ・マヌエル・グティエレス選手(ジオス・キューイ・アトランティコ)に同じ集団でゴールした増田選手の印象を聞いたところ「良い選手ですよね。ヨーロッパでも活躍できるサイクリストだと思います。」と話している。
20位でゴールした増田選手(写真手前)と第22位でゴールしたグティエレス選手(写真右)。Photo by Yukari TSUSHIMA
こうした増田選手の活躍の一方で、NIPPO・デルコ・ワンプロバンスの中根選手と石上選手は、自身のポイントより、エースのカー選手の勝利を優先。過酷なコンディションの中、前半から積極的に動いたため、最終的に2人ともこのレースを途中で棄権する判断を下した。
「非常に厳しい条件でのレースだったが、サイモンはネオプロながら高いパフォーマンスを発揮しての勝利した。今大会もチームは強く団結し、チームワークを生かして素晴らしい仕事をした。今日の勝者はサイモンだが、これはすべてのチームメートの働きがあったから。今日の勝利はチームの勝利だった」とレース後にアゼヴェド監督(NIPPO・デルコワンプロバンス)もサイモン選手の走りを高く評価しながら、チームの勝利を強調してコメントしている。
事実この日のレースでの出走選手は全15チーム98人。ゴールしたのはそのうち50人だけという、いかに過酷なサバイバルレースであったかを示すような完走者数となっている。
レースができることのありがたさ。そしてレース・オーガナイザーに感謝を
コースは変則的な周回路を5周回する。残り3㎞下り基調の平坦となる。
新型コロナウイルスの感染拡大が続き多くのレースがキャンセルされるなか、貴重なレースとなった今年のプルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカ。毎年7月25日に開催されるこのレースも新型コロナウイルスの感染拡大により、一旦は中止の可能性がささやかれていた。しかし、歴史あるこのレースを支えるレースオーガナイザーの努力により、今回の開催することとなった。
自転車レースが開催されるのは、もはや「当たり前」のことではない。
特に新型コロナ感染拡大後に開催されるレースには、選手や関係者の健康を守るために様々な条件が加えられることになった。その分コストも増大するため、今回のオルディジアのような規模の小さなレースのオーガナイザーが開催を決断することは、今では決して簡単なことではない。
また、同時に新型コロナ感染拡大により様々なレースが世界中でキャンセルに追い込まれている。こうした状況は世界中に存在する規模の小さなプロ・チームにとって、レースの機会が減ることを意味する。つい先日までの宇都宮ブリッツェンと同じように、今回のオルディジアでのレースも出走を希望したものの、走ることができなかったチームというのも数多く存在するのである。
このように、様々な意味で貴重な機会となってしまった自転車レースの開催。本来は自国内で解決すべき問題であったにもかかわらず、今回は伝統あるオルディジアでのレースがオリンピック日本代表を決める場となった。このことに関して、日本の自転車関係者は、レース開催を決断したオルディジアのレースオーガナイザーを含めた様々な関係者に対し、感謝の気持ちを忘れるべきではないと思う。
このバスクの伝統あるレースが来年は7月25日に無事に開催されることを祈りながら、レース後、オルディジアを後にしたのだった。
レースデータ
プルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカ(UCI1.1)
Prueba Villafranca-Ordiziako Klasika(スペイン)UCI 1.1
期間・日程
2020年10月12日
開催地
スペイン・バスク地方大会公式WEBサイト
https://www.ordizia-pruebavillafranca.com/
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Bicycle Club編集部
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